キス
―――…キスって、そりゃいつか…誰かとするものだと漠然と思ってたけど。
だけどそれは好きな人と付き合ってから、
ロマンチックなシチュエーションでするものだと思ってた。
(キスした…。ファーストキス…)
待って、いつ私がそんな雰囲気出した?
っていうか私、いつもなら防いでたのに。
この間、家に来た幼馴染みにされそうになったときだって、反射的に顔そむけてたのに。
(なんで今、避けなかった…?)
そんな自分に驚いて、しばらく放心状態だった。
外山くんはキスをした後、満足したかのように私に背を向け寝だした。本当に訳の分からない人だ。
だから私もまた、背を向けてた。
今ごろになって心臓がドキドキ鳴り出して、現実味が増していく…。
(えー、私…こんなあっさり…しちゃったの…?)
今のキスは私の反応を窺うためのもの?
付き合ってなくてもキスできるような、軽い女だと思われてる?
それとも“俺のこと好きだろ?”的な?
迎えに行ったり泊めたりしたのが勘違いされた?
外山くんがどんなリアクションをしてくるかで、私のことをどう思っているのか分かるかもしれない。だから私は、敢えてカミングアウトすることにした。重い重い、22才でキスも未経験だったという真実を。
「…今の…初めてだったんですけど…」
ぼそりと正直に告げると、外山くんは背を向けたまま笑った。
「え、またまたぁ!あり得ないでしょ、そんなの」
冗談だと思ったらしい。
普通に笑い飛ばされたんだけど。
私の大切な“初めて”を、簡単に…というか無許可に奪っておきながら。
「・・・・」
私が黙ったままで悔しく思っていると、ガバッと起き上がって外山くんが言った。
「え、マジなの?」
「だから…そう言ってるでしょ…?」
私が外山くんの方を向くと、外山くんは本気で驚いていた。
「マジか…。え、あり得ないでしょ?なんで?」
(“なんで”って、秋のせいで男性不信だったからだよ!)
とは、言えずに黙っていると外山くんが顔を近づけると私の唇にまたキスをした。
「じゃあ、こういうのも初めて?」
何度もキスする度に愉しそうにそう訊ねてくる。
「だから、初めてだって…ん!!」
よく分からないけど急に口に舌を入れられて、戸惑う。
だけど、なぜか…嫌じゃなかった。
(え、何で?っていうか、手が…っ)
外山くんの手が私のパジャマにしてたスウェットズボンにかけられて、私は慌てて外山くんに言った。
「ちょっと待って、私、今日生理だから!」
本当のことを言っただけなのに、外山くんが笑った。
「誰が最後までやるって言ったよ?」
(え!?それはどういう意味?っていうか、私何言ってるのー!?)
一人でエッチされるもんだと思ってたのが恥ずかしくて、私は黙って外山くんに背を向け、もう寝るからという素振りをみせた。
外山くんも、私の発言で襲う気が失せたのか私を抱き締めるようにして、今度こそ寝だしたのだった。
(―――…これ、どういう関係?)
私にとっては展開が急すぎて、頭がついていかない。
(22才なのに、キスされたくらいで…戸惑い過ぎ? )
だけどやっぱり私は、その日も寝付けなかったのだった。




