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第2章 1mと高等学校①

 登校中。

 曲がり角で美少女とぶつかる、みたいな、昔のラブコメにありがちな展開は無かった。

 一切無かった。全く無かった。期待していた俺がバカみたいだ。

「遅刻ギリギリじゃなかったからだろうか?」

 校門を潜った俺が一番最初に呟いた台詞が、今の一言だった。

 遅刻すると後々面倒な事になりそうだったので家を早めに出た。それが原因らしい。

 で、俺は新入生として、しょうがなく入学式(in体育館)に参加している。

 しょうがなく、だ。ここ重要。テストに出るかも。出ないか。

 校門前に張り出されていたクラス分け表によると、俺は一年A組。出席番号九番。

 俺はその指示に従い、他のA組の連中と共に体育館に整列していた。

 周りには中学が同じだった奴も数人混じっている。が、大体は知らない人間だ。

 五分位前から壇上で催眠誘発音波を広範囲に放射している校長の話によると、今現在、この体育館には六百人弱の人間が居るらしい(保護者教師含まず)。

 その内の約二百人が新入生。

 俺の周りに居るのは学ランを着た新入生達と、ブレザーを着た新入生達。

「なんでこの学校の女子の制服、セーラー服じゃないんだよ」

 俺は式中だって事も忘れ、呟いた。

 ブレザーよりセーラー服の方が需要あると思うんだが。

 いや、ブレザー派の人を侮辱している訳ではないのだが。

 ただ単純に、俺はセーラー服派だ。ただそれだけの話だ。

「気を付け、礼!」

 そんな事を考えている間に校長の話が終わった様だ。

 何時の時代も校長の話は長い。これ、どうにかならない物なのか。

 俺等のこの気持ちを知ってる奴が校長をやれば、少しは改善されると思うのだが。

「気を付け、礼!」

 この様な号令に必要性を感じなくなって随分と経つ。

 小学二年生の頃からだったと思う。我ながら、捻くれた性格をしていたな。

「新入生代表生宣誓。代表生徒は壇上に上がって下さい」

「……」

 前から思っていた事シリーズその二(多分)。『新入生代表をどうやって決めるか』。

 入試の時の点数が一番高かった人がやる、と聞いた事があるが、真実は知らない。

 家帰ったら調べるか。

 とかなんとか考え始めた頃、トントントン、と。

 軽い音を出しながら木製の階段を上り、代表は壇上に上がった。

 そのまま舞台中央の教卓の後ろに回り、こちらを向いた。

 そして、礼。

「綺麗な礼だなー……」

 俺は知らず知らずの内に呟いていた。

 回りの反応からして誰にも聞かれていない様だ。

 が、聞かれていても問題は無かっただろう。

 何故なら、周りの人もそんな事を呟いていたからだ。

 気付けば、辺りは少し騒がしくなっていた。

 そして、俺が周りの様子を確認し終えた頃、代表は顔を上げた。

「……」

 俺は言葉も失い、息を漏らした。

 周りからも息を漏らす音が聞こえた。

 理由は俺と同じだろう。

 簡単な理由だ。

「宣誓。新入生代表、蓮宮沙耶はすみやさや

 たった今宣誓を始めた代表、蓮宮沙耶、さん、が、圧倒的な美人だったからだ。

 腰まで届きそうな程長い漆黒の髪。

 そして、その漆黒の中に数本混じった紅蓮の髪。

 全校生徒に視線を放つ漆黒の瞳。

 綺麗な桃色をした小さな唇。

 今まで日差しを浴びないで生きてきた様に白い肌。

 女子高生、と言う基準で見たら平均的と言えるであろう胸の膨らみ。

 黒ニーソに包まれた細く長い足。

 そのバランスが、最高だった。

「……」

 俺達に出来たのは息を漏らす事だけだった。

「……」

 綺麗な人だな……。

「気を付け、礼!」

「あれ?」

 気付いた時には、宣誓が終わっていた。

 教師のその声と共に、蓮宮さんに見惚れていた生徒達(女子も含む)が正気に戻った。

 女子にも好かれる女子、か。

「漫画とかだと時々居るよなー。そう言うキャラ」

 またもや、俺は呟いていた。……独り言多いな。俺。

 そしてまた、トントントン、と木製階段を打ち鳴らし、蓮宮さんはD組の列に戻った。

 その様子を盗み見るに、周りの人に「お疲れ様」とかなんとか言われているっぽい。

 もう人気者かよ。

「凄ぇな」

 俺は――もう何度目になるかも分からないけれど――呟いた。


 その後、入学式はすぐに終わった。

 聞いた所で十分後には忘れていそうな教師の話なんて全然聞いていなかったがな。

 で、俺は今、体育館から自分達の教室に戻っている所だ。

「D組だったら良かったのに」

 ポロっと、願望をつい口にしていた。

 周りの雑踏に紛れて聞かれていない様だが。

 皆、教室へと続く廊下を中学時代からの知り合いと駄弁りながら歩いている。

 新しい生活への希望や夢を持つ少年少女達の、友との語らい。ザ・青春。

 そんな中、俺は。

「新入生代表って新入生の中で外見が一番綺麗な人がやる物なのか?」

 等の、考えた所でどうしようも無い事を考えていた。

 うっかり口にしてしまった様な気がするのは気のせいだ。

 たったの一時間の中で、俺は何回独り言を言ったのだろう?

 まぁ、そんな事はどうでも良い。

 どうしたら蓮宮さんと仲良くなれるのだろうか。

「蓮宮さんとお近づきになりたいっ!」

 タイミングで勘違いされそうだが、この台詞は俺の物じゃない。

 断じて、俺の物じゃない。

 この世界に何人(単位、合ってるのか?)居るか知った事じゃないが、神にも誓える。

 俺の台詞じゃない。

 その声の主は、台詞と同時に俺の背中に思いっきりビンタをしていた。

「ぃだっ!」

 実際はそこまで痛い訳では無いが、唐突に叩かれた驚きが痛みを数倍強く認識させた。

 わざわざ振り返るまでも無く、その台詞を発した人物の名は工口尋くぐちひろ

 身長百七十センチ弱の変態。俺と同じ中学校出身の変態だ。

「あ」

 友人(?)紹介に夢中で返事を忘れていた。

 ま、面倒なので。

「お前は開口一番にソレかよ」

 と返しておいたら、

「本音なんだ」

 と真顔で返された。

「……お前なんかが近づける様な人じゃ無いんじゃないか?」

 とりあえず、冷静にツッコミを入れて続ける事にした。

 真面目に付き合ってたら無茶苦茶疲れるが、早くこいつをどうにかしないと。

「はっはっは。知らないのか?」

 コイツにしては格好良い顔で宣言した。

 なんか見下されている気がして無茶苦茶ムカつく。

 あと、その『はっはっは』の発音がなんとなくムカついた。

「『可愛い』と言われる女子って言うのは、少し不良っぽい男の方が好みらしいぞ?」

 知るか。

「ソースは中学生の頃の俺の周りだ」

 そこだけは悲しげな顔で言った。

「ふーん」

 ……そういえば、中学の時の俺の周りのカップル、男側は不良っぽい奴が多かったな。

「「うーん……」」

 どうして真面目に生きているヤツの方がモテないんだろう? 凄く不思議。SF。

「……まぁ、つ・ま・り、俺はモテるっ!」

 つまり、と言う言葉の意味を学ばないで育ったのだろう。この男は。

 もしくは習ったのに忘れたか。

 とにかく、こいつの今の台詞は文法的にアレだった。

 今ココに国語の教師が居ない事が残念だ。

「お前って不良っぽい男だったっけ?」

 ただの馬鹿男だろ?

「目指せモテ男! 俺の未来は明るいぜェ!」

「人の話を聞け」

 まず、モテ男は自分の事を『モテ男』とは言わないと思うがな。

「っつーか、そんな事を大声で叫ぶな」

 お前と話している俺も同類だと思われるだろ。

 と、俺の突っ込みも空しく。

「相変わらず、馬鹿達はバカな事しか言わないのね」

 と、俺(と工口)を馬鹿にする女子の声が後方から聞こえた。

「「ぬ」」

 知り合いだ。

 だが、この声の主についての脳内解説の前に一つ、やるべき事がある。それは。

「「馬鹿はコイツだけだッ!」」

 保身だ。

「なんでハモるのよ」

 と、驚きと軽蔑を混ぜた声でツッコんだのは、俺と同じクラスの女子、鈴梨南すずなしみなみ。女。

 何故俺がこいつのクラスを知っているかと言えば、ただ単純に、さっき俺が自分のクラスを確認した時に、コイツの名前が俺の名前の幾つか下に書いてあったからだ。

「偶然だ」

「何で俺が工口なんかとハモらないといけないんだ」

 俺にとって、コイツは中学からの知り合い。工口にとって、コイツは幼馴染。

 大きいとは言いがたいが無い訳でも無い膨らみを持つ(どこの膨らみとは言わない)。

 百六十センチ弱の身長と、適当に結わえられたツインテール。

「『なんか』とは何だ。『なんか』とは」

 まぁ、仮に、そこら辺の男子十人に『鈴梨って可愛いか?』と聞いたとする。

 その十人の内の六、七人は『まぁ悪くは無いんじゃね?』とか言うだろう。

 残りの人間は『普通』とか言うと思う。

 それ位の顔を持つ女である。

 俺もコイツの事は嫌いではない。好きか嫌いかで言えば好きだ。

 宿題見せてくれるしな。

「誰に説明してんのよ」

 ……心読まれた?

「読心術でも使えるのか?」

 使える訳無い、と思いながら聞いてみる。

 だって、もしそんな能力を鈴梨が使えるのなら、鈴梨は工口と仲が良いハズが無い。

 工口の頭の中はギャルゲーとかエロゲーとかで一杯だからな。

 工口のコレクションを女子が見たら絶叫物だ。

「あんた、考えている事が顔に出やすいのよ」

「え」

 新事実発覚。

 俺の考えは世間にダダ漏れらしい。

「人の考えを見抜くのは得意よ?」

「当然の事の様に言うな」

 普通はそんなスキル持ってないから。

「人の弱みを握って利用する為に、努力したもん♪」

「……そっすか」

 可愛い語尾を使っても、言っている内容はムチャクチャ怖いっす。

「因みに、工口の弱みの数を数えると、なんと三桁もある」

 と、何故か自慢げな顔で言った。

「なっ? 何で言うんだよっ!」

 事実なのかよ。

「弱みを握るって、便利だよ♪」

「可愛く言うな。怖いから」

「クレープも焼き芋も食べたい放題だし」

 何それ。少しうらやましい。

 いや、クレープや焼き芋が羨ましい訳では無いが。

 要するに、簡単に工口を下僕に出来る訳だ。パシリにも出来そうだ。

「……今度、幾つか教えてくれないか? 工口の弱点」

 知っていたら何かと便利そうだからな。取り敢えずお願いしておこう。

「いっ! 言うなよ、絶対言うなよ、南!」

 とかなんとか喚いている工口は無視しておく。

 って言うか、その言い方だと『言え』って言ってる様な物だろ。

「うん。教えるつもりは無いよ」

 その言葉を聞いた工口が安堵の息を漏らしていた。

「何でだ?」

 独り占めは良くないらしいっすよ。

 俺は大好きだけど。独り占め。

「だって……、他の人に教えたらその情報の価値も下がっちゃうじゃん」

 可愛らしく落ち込んでみても発言内容は可愛くない。

「……そうしたら工口を脅す事も出来なくなるし……。ごめん」

 俺に謝られてもなぁ。

「お前ら。人の弱みの事で楽しそうに話すな」

 と、工口が(半泣きで)文句を言ってきた頃、俺達は一年A組の教室に到着した。

 教室内に他の生徒の姿は無かった。つまり、俺達が一番乗り。

「まぁ今時、一番乗りなんかではしゃぐ高校生なんて居な「ヤッフー! 一番だー!」」

「「……居たよ」」

 高校生にもなって一番乗りなんかではしゃぐ高校生。その名は工口。

「……えっと、コレが百九個目、か。『高校生にもなって一番乗りで興奮』、と」

 俺の隣で鈴梨がブツブツ言いながら何かをメモしていた。

「煩悩の数超えちゃったのかよ。工口の弱みの数」

 鈴梨に聞いてみる事にした。

「ま、最初の方は似た項目も別々にカウントしてるしね。厳密には九十六くらい?」

 だ、そうだ。どっちにしろ怖えよ。

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