終章 1mとエピローグ
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」
俺はたっぷりと沈黙していた。
「……………………………………………………………………………………………………」
鳩が豆鉄砲を食らった様な顔、と言うのは、今の俺の顔を表す言葉なのだろう。
「え?」
多分、百連位はされていたのだろう。豆鉄砲を。
「……………………………………………………………………………………………………」
つまりは、要するに、俺は驚いていた。
「……聞こえなかったの?」
蓮宮さんが、俺に指輪を渡した例の少女。
「いいいいいや、聞こえてはいたんですが」
って事は。蓮宮さんもあの指輪を持っている訳で。
あの、俺が名前を忘れてしまった、少女の名は。
「蓮宮、沙耶……?」
「?」
だって、言うのか?
「『さん』付けをやめてくれたのは嬉しいけど、何でフルネーム?」
「え、あ、いや、すいません」
「まぁ、それは良いや。一つお願いがあるんだけど、良い?」
唐突だな。
「……別に良いですけど、全く力になれませんよ」
ぬ。さっきの鬱状態がぶり返してきた。
「蓮宮さんと白天寺が昔居て、彩季が今居る組織を」
「……?」
何となく、嫌な予感が漂う。
「壊してくれない?」
月曜日の次は火曜日。
それは未来永劫変わらないのだろう。
もし変わる事があるとすれば、それは文明の終わりと同時だろう。
なーんて、少し真面目な事を考えながら、俺は家を出た。
ゆっくり歩いても余裕で学校に到着出来る時間。
いつもの俺なら、この時間は朝食を食べながら録画した深夜アニメでも見ている頃だ。
だが、今日は訳あってこの時間に家を出ている。
いや、正確には『今日は』では無く『今日から』だ。
まぁ、理由は簡単、と言うか、明白だ。
安っぽいラブコメのエピローグにありがちな展開だ。
まぁ、ここは三次元な訳で。
ここが二次元で無いのなら、例え安っぽいラブコメのエピローグにありがちな展開だったとしても、かなり貴重なイベントになる訳で。
しかも、例え安っぽいラブコメのエピローグにありがちな展開だったとしても、そんな展開は主人公の身にしか発生しないイベントな訳で。
って事は逆説的に、安っぽいラブコメのエピローグにありがちな展開を体験している今の俺は、何らかの物語の主人公だと言う訳で。
自分は主人公になれない、なんて落ち込み方をしていた昨日が懐かしい。
とりあえず、あの鬱状態を抜け出す事は出来た。
さて。俺はこの短いモノローグの中で何回『安っぽいラブコメのエピローグにありがちな展開』と言う文章を使用したのだろう。
あと、俺は『逆説的』の意味なんて知らない。
何となくそれっぽい言葉だから使用したに過ぎない。
年頃の少年なんて、そんな物だろう。ソースは俺。
「主人公、か」
主人公。英語で言うと『メインキャラクター』もしくは『ヒーロー』。
俺はそんな存在に憧れていた。
そして一昨日、一人の少女にその夢をブッ壊された。
で、昨日、壊されたショックやら何やらで終始鬱状態だった。
そしてそんな鬱状態開始一日目の夕方。俺は鬱状態を脱した。
愛の力は人を救うかもしれないし救わないかもしれない。
そもそも向こうは俺の事なんて好きな訳が無いのだが、まぁ、俺は向こうの事を好きだから、別に『愛の力』なんて表現を使っても間違いにはならないだろう。
大体、間違いだったら何なんだ。誰かに罰せられる訳でもないんだ。
まぁ、鬱状態を脱する約五分前、俺は俺の好きな人に会った。
そして、一つのお願いを受け、俺はそのお願いを受けた。
そして、その代償……、代償じゃないな。何かもっと良い言葉があるだろ、俺。報酬、か? あぁ、それだ。報酬だ。
で、俺はその好きな人から、二つの報酬を貰う約束をした。
ま、『貰う』って表現はあまり正しくない気がするが、そんな細かい事は無視。
一つ目の報酬として、俺は今、学校へ行く前にある場所へ向かっている。
ある場所。学校前の坂の下にある十字路。
俺は好きな人と友を守る為、一つの組織を壊す事になった。
だから、その組織の事を知る為に、その組織に所属していた人に話を聞く。
そして、その人とそのまま登校。
ま、その『所属していた人』イコール俺の好きな人、って事なのだが。
つまり、俺は、好きな人と朝、毎日一緒に登校出来る権利を得たのだ。
な? 『安っぽいラブコメのエピローグにありそうな展開』だろ?
話の最後に主人公は結ばれ、一緒に登下校をする様になる。
実に安っぽい。チープだ。だがソレが良い。
まぁ、結ばれてなんていないんだがな。
「あ、居た」
噂をすれば何とやら。見えてきた十字路の交差点の前に、その人は居た。
俺の好きな人兼、依頼者兼、情報提供者。その名は蓮宮沙耶。
「遅い」
出会い頭に怒られた。
ここで少し喜んでしまった俺はどうすれば良いのだろう。
俺はMじゃない、と思いたいのだが、どうしよう。
「すいません」
「まぁ、良いけど」
信号が青に変わった。
俺と蓮宮さんは、学校へ向かって歩き出す。
「……で、このストール、本当に貰っちゃって良いんですか?」
俺は鞄からストールを取り出して言った。
一昨日の戦闘での蓮宮さんの戦利品。
何があったのか俺は全く知らないが、まぁ、蓮宮さんは圧勝して奪ってきた、らしい。
「別に良いわよ。私はどうせ使わないし」
しかもこのストール、巻くだけで傷を癒してくれると言う訳が分からないアイテムだ。
実際に俺の大怪我も直したしな。実証済みって訳だ。
「大体、それでも無いと紅空はすぐ死ぬでしょ?」
「……でしょうね」
否定出来ない。
「どうせ『アイツ』はあそこから出てこないだろうし、私と白天寺さんはカウントしなくて良いから……、倒さないといけないのは残り六人ね」
「つまり、俺は六回は瀕死になるんすか」
「そうね」
「……否定しないんすね」
まぁ、否定されても困るのだが。
まぁ、瀕死で住む事を祈ろう。
「……あ、そうだ。今度の日曜日、空いてる?」
「日曜日?」
何だろう。唐突に。
「空いてますけど、何故?」
「……もう昨日の事忘れたの? ……約束、したでしょ」
二つ目の報酬。
約束、と言っても、昨日は約束なんてしていない。
約束したのは、六年前。ある少女は、いや、蓮宮さんは、言った。
『……また会えたら、さ。その時は……、二人で、何処かに行こ♪』
二つ目の報酬。それは。
「どこかに、二人で……?」
「紅空の事だから、てっきり忘れてないと思っていたんだけどね」
「すいません」
いや、覚えているんだけどね。
ここで覚えている事をアピールするのは、何か、がっついているみたいで嫌だった。
だから忘れているフリをした。そうしたら怒られた。
「行き先はもう決めているから、そうね……、さっきの十字路に午後一時、で良い?」
「大丈夫です。駄目でも無理やり行きます」
「そこまではしなくても大丈夫だけど……」
例え両親が事故にあったとしても、俺はこの用事を優先するだろう。
だってそうだろ? 好きな人と二人きりで出かけられるんだぜ?
例えコレが昔の約束を果たす為だけの物であっても、デートだぜ?
優先しない方がおかしい。
「何処に行くんですか?」
何か特別な持ち物とかあるかもしれないし、一応聞いておこう。
「秘密……って言っておいた方が、紅空の好きそうな展開になるんじゃない?」
「……何で俺の好み知ってるんですか?」
高校に入ってからは殆ど話していないし、六年前の時もそれほど沢山は話していない。
なのに、俺の好きなジャンルが完全にバレている。
いや、バレているのが嫌な訳では無い。ただ、凄く気になるだけだ。
「南から聞いた」
「鈴梨ィィィィィィィィィィィィ!」
何故言った! いや、言って欲しくない訳では無いんだけど、何故言った!
「この学年に居る人の事を知りたい時は、南の所に行けば何とかなるのよ」
「……アイツはどんだけ情報集めてんだよ」
プライバシーとかどうなってんだよ。
「ま、それは良いとして」
蓮宮さんはそこで一度台詞を切り、微笑と共にこう言った。
「改めて宜しくね、『翔』」
俺の昔の呼ばれ方で、俺を呼んだ。
「……」
思い出すと、俺は昔から蓮宮さんの事を『蓮宮さん』と呼んでいた。
いつか、勇気を出して『沙耶』と呼んでみたい物だ。『いつか』、だ。
そんなこんなで、俺の次の日曜日の予定が埋まった。
デートイベントなんて、実に主人公っぽい。
後は、主人公らしいフラグ折りをしない様に、ただただ祈るだけだ。




