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第23章 1mと『主人公』②

「白天寺ッ!」

 HRも終わり、今日の全ての授業も終わり、因みに帰りのHRも終了し。

 教室から生徒が少しずつ散っている時に、俺は駆け足で白天寺の席に駆け寄った。

 幸いにも、白天寺は鞄にノートに詰め込んでいる所だった。

 で、そんな俺は白天寺に『普通に』声をかけた。

 いや、かけたつもりだった。

 だが、俺は語尾に『ッ!』を付けてしまっていた。

いや、本当に『ッ!』が付いているか、なんて俺には分からない。

 が、何となく。

 もし俺に自分の台詞を読む能力があったら。

 今の台詞の最後には『ッ!』があっただろう。

 そんな俺の絶叫(?)で呼ばれた対象、白天寺昇華は。

「………………おはよう、いや、こんにちは?」

 いつも通りの顔・声色・声量で、こう言った。

「え?」

 つい呟いてしまった。

「………………『え?』って?」

 あまりにいつも通り過ぎた。

 俺のせいであんなに傷付いたって言うのに、俺に対する恨みが欠片も無かった。

 仮にそんな欠片があったとしても、表に出てこないレベルのサイズだ。多分。

「いや、あの、その、えっと……」

 いや、冷静に考えろ。白天寺は昔からポーカーフェイスの持ち主だったじゃないか。

 多分、怒っていない様に見せて、俺から謝罪を引き摺りだすつもりなんだ。

「………………?」

 つまり、俺がこうしてモノローグを脳内で垂れ流している間も、白天寺の頭の中では俺への恨みやら怒りやら何やらが、噴火直前のマグマの如く湧き上がっているのだろう。

 噴火直前のマグマなんて見た事無いから想像だけどな。

 まぁそんな事はどうでも良く。今一番重要なのは、『一刻でも早く白天寺に謝罪する』と言う事だ。

「ごめん!」

 ……。

「………………」

 俺は馬鹿なのか?

 いや、『なのか?』では無いな。俺は馬鹿なのだ。

 だからって、こんな超ストレートな謝罪じゃなくても良いんじゃないかなー。

 何が『ごめん』なのかサッパリじゃないか。この文章じゃ。

「………………………………?」

 何となく、白天寺特有の沈黙がいつもより長い気がした。

 具体的に言うと、倍な気がした。

「いや、えっと、つまり、マジでゴメン、いや、すいませんでしたァ!」

 ガンッ、と言う効果音と共に。俺の眉間は、地面と接触していた。

「………………えぇ?」

 両方の手のひらも、ぺったりと地面に接触している。

 ま、つまり。俺は土下座していた。

「………………紅空? 一体何がどうしたの?」

 何となくだが。俺の背中に(生)暖かい視線が突き刺さっている気がする。

 哀れみの視線が。レーザーみたいに俺の体を貫いている気がする。

 とりあえず、俺は頭を上げながら詳しい説明に入る事にした。

「いや、昨日のあの時は、怪我させて悪か「「「「く、くくく、紅空君が白天寺さんに土下座してるって聞いて来たんだけど!」と」」」」

「あ、それなら、ほら、あっちの席で」

「「「「ありがとう鈴梨さん!」」」」

「そんな、『鈴梨さん』だなんてやめてよ。『南』で良いわよ」

「ありがとうございます南さん!」

「………………」

「……」

「………………もう一回言ってくれると、助かるんだけど」

「……ですよね」

 なんか、背後から鈴梨の声が聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。

 アイツはHRが終わったら速攻で帰って遊びに行くタイプの人間だ。

 そして工口に色々奢らせているタイプの人間だ。

 ダラダラと教室に残っている訳が無い。

 そう信じよう。

「あの、昨日の帰り道の件なのですが」

「「「「日曜日の帰り道!」」」」

「………………何で敬語?」

「えっとえっと、録音機どこやったっけ録音機!」

 何か、放っておいてはいけない声が聞こえなくも無いが、とりあえずは無視だな。

「あんな痛い思いをさせてしまって申し訳無い、と言いますか」

「「「「痛い思い!」」」」

「………………気にしてないけど、そんな事」

「「「「気にしてない!」」」」

「うるせぇ少し黙ってろ!」

「「「「ひっ!」」」」

 流石にスルーしきれなかった。

 衝動って怖いね。

「でも、俺がちゃんとやってなかったせいで、白天寺は……」

「………………でも、紅空は、と言うか。普通はやった事なんて無いだろうし」

 確かに、一般的な日常生活を送っている限りは、あんな戦闘シーンには入らないな。

「………………でも、紅空は、ちゃんと勝ってくれたじゃない」

「まぁ、勝ち負けの基準がよく分からないんですがね」

「………………初めての戦いで勝利出来るなんて、幸先良いんじゃない?」

「……次、あるんすか」

 物凄い勢いで遠慮したい。是非とも遠慮したい。

「………………一回で許す程、(あの組織は)甘くないよ」

 周りに人が居るからだろうか。聞かれるとまずい部分は目で語ってきた。

 まぁ、組織が云々、って言うのは、一般人には聞かせたくないよな。

「まぁ、だったらだったで何とかするしか無いんですけどね」

 俺なんかに出来れば、なんだよな。

「「「「……『やってなかった』『甘くない』? それに『倒す』?」」」」

「もしかして、『(夜の世界は)甘くない』とか?」

「「『倒す』は勿論『(押し)倒す』だよね!」」

「何で今日に限って録音機持って来てないのよ私!」

 俺は後ろからの声を全力で無視する事にした。

「……で、思いっ切り脱線した気配しか無いんですけど……」

「………………したね」

 多分、原因は後ろに居る奴ら。何か調子崩されるんだよ。

「俺、どうしても、昨日の自分を許せなくて……。何かお詫び、じゃなくて、えっと」

「………………別に、紅空は悪くない、じゃない」

 絶対に怒っているであろうに、俺の事をフォローしてくれるなんて。

「………………あ」

 白天寺は、呟きの後、突然思い付いた様に、俺にこう言った。

「………………練習」

「へ?」

 練習?

「………………紅空さえ良かったら、また今度、練習に付き合って欲しい」

「「「「「『付き合って欲しい』!」」」」」

「黙れ鈴梨含め五人!」

 とりあえず、俺は白天寺の提案に対して首を縦に振った。


 で。

 教室を出て、いざ帰ろうとして。

「で? 昇華との関係は?」

「く、くくく、首を、締め上げながら、言うな……」

 俺は鈴梨の手によって制服の胸倉を捕まれ、上に持ち上げられていた。

 勿論、『持ち上げられていた』とは、物理的な意味で、だ。

 多分、足と地面の間には三十センチ以上の空間がある。

 おかしい。絶対におかしい。

「工口の弱点の方が扱いやすいけど、あんたの弱点だって知っておいて損は無いよね?」

 足が宙に浮く。いつもと違う感覚のせいで、違和感がマックス。

「まずは、お、ろして、くれ」

「分かった」

「分か」

 るんかい、と続けようとしたのだが、俺の体が地面(ここは教室だ。リノリウム、だっけ? あ、それは廊下か)と接触した痛みで中断してしまった。

 使わなくて良い時には、指輪、使いたくないしな。

「で? 二人が今、どう言う付き合い方をしているか、全部一気に吐いてしまえ」

「ツッコミ所しか無ぇよ! とりあえず一つ目! 俺は誰とも付き合って無ぇ!」

 二つ目は『気持ち悪くなりそうな表現はやめてくれ』。

 三つ目が『俺の体を痛めつけた事に対する謝罪は?』だ。

「メモメモ……。『紅空翔は今現在フリー』っと」

「何メモってるんだ?」

 いや、別に内容を聞いてる訳じゃ無いが。

「あ、気にしないで。……で、紅空、フリーなんだよね?」

「え? あ、ああ」

 だったらどうしたのだろう。

「で、さっきの白天寺との会話の真相は?」

「……は?」

 唐突に何だ。いや違う。話が元に戻っただけだ。

「だから、紅空と昇華の関係は明らかに友達以上なアレだから、取りあえずネタにしておこう、って言ってんの!」

「さらっと最低な事言うなよ!」

 ネタとか言ってきたよこの人。

「とにかく。俺と白天寺の間には何も無い」

 まぁ、一緒にバンド大会に出たり、一緒に瀕死まで行ったりはしているが。

「じゃあコレ何?」

 鈴梨はそう言いながら、俺の一枚の写真を見せてきた。

「いッ!」

 俺が白天寺と共に、白天寺のマンションに入る所を激写した写真だった。

「二人で? 一人暮らしの少女の? マンションに?」

「ななななななな何言ってるんだ鈴梨? 今時、友達と二人でマンションに入るとか何とか、それだけの事で付き合う付き合わないを判断する、なんてナンセンスだぞ?」

「写真の事は否定しないんだね」

「ああ」

 そこは真実だしな。

「じゃあ一億歩譲って考えるとして、何で昇華の家に行ったのさ?」

「どんだけ譲ってんだよ」

「質問に答えなさいよ」

「うーん……」

 どう説明したものか。

 白天寺への謝罪も済ませたし、俺はさっさと帰りたい。

 実際、俺は帰ろうとしたのに足止めを食らっている訳だし。

 ここで下手に答えると、さらに長い足止めを食らう事になる。

 回答案一。『正直に答える』

 回答案二。『適当に嘘を言う』

 回答案三。『適当にはぐらかす』

 回答案四。『不意を突いて走って逃げる』

 回答案五。『拳で語る』

「……」

 とりあえず真っ先に回答案一を消した。

 これは俺の勘だが、それはやったら終わる気がする。

 何が終わるか、なんて知らん。でも、何かが終わる。

「早く答えなさいよ」

 その次に回答案五を消した。

 昨日も言ったが、殴らずに決着を付けたいんだ、俺は。

 そして回答案三も無しだ。

 コイツをはぐらかすなんて無理。

 全く出来る気配が無い。

「だったら、なー」

 残るは回答案二、四。

 まずは四を試してみて、駄目なら二を実行するとしよう。

「?」

 そうと決まれば。

「はッ!」

 俺は可能な限り早くUターンし、真っ直ぐに駆け出した。

 こうして全力で走ると若干体が痛む。完全には治っていなかったみたいだ。

「待て馬鹿ヤロオォォォオオオオっ!」

 背中に感じる鈴梨の怒号。

「待てと言われて待つ馬鹿が居るか馬鹿!」

 俺も走りながら叫んだ。

 教室を出てから走り続けた俺の目の前に、階段が現れた。

「よし!」

 三段飛ばしで上の階へ。

 この学校の階段は全て『く』の字の様に途中でUターンを要する。

 俺は踊り場でUターンしてさらに上へ駆け上がった。今度は二段飛ばしで。

「うらああああああああああああああああああああああああああああ!」

 二年生のフロアに到着して一安心していた俺の耳に届く、一年生フロアからの怒号。

「へ?」

 と、謎の言語を呟いて一瞬。

 俺の腹に上履きがめり込んだ。

「ぐぼいぁ!」

 今、俺の指輪は、通常通りお守り代わりにしている。

 まぁ、仮に指にしていたとしても、俺は回避できた自信なんて無い。

「ふぅ」

 痛みにうずくまる俺の前には、やはり、と言うべきか、鈴梨が居た。

「壁を蹴って飛ぶ、って、意外と簡単なのね」

 それはお前の中でだけだ。もしくは二次元でだけだ。

「で? まだ逃げる?」

 にこっ、と。鈴梨は笑いながら言った。

「……」

 俺は回答案二を実行した。


「ふーん。そんな事がねー」

 何とか騙されてくれた様だ。

 俺が言った嘘は、まぁ、こんな感じだ。

『高校の勉強で苦戦していた白天寺だが、塾に行くのは嫌だ。教師に教えて貰うのも嫌。だから、同じ中学出身でそこそこ頭の良い紅空翔に勉強を教えて貰おうとした』

『で、学校で教えて貰うのもアレだから自宅に招待』

 とか、こんな感じ。

 実際、俺の頭はそこそこ良い。

 主人公なら赤点の少し上を取るものなのだろうが、俺はそんな点数取った事無い。

 だから俺は駄目なんだ。

 夢に向かって努力した事が無い。だから、駄目だった。

 頭悪くする努力、ってのも変だがな。

「昇華って、そんなに頭悪かったっけ?」

「古典に限り、な」

 これも事実。他の教科はかなり良かったハズだ。

「ふーん。まぁ、良いか」

 と、どこか納得していないような声を漏らす鈴梨。

「ま、また何か変だったら、その時はその時で殺すから」

「殺すなよ」

 その俺の突っ込みも聞かず、鈴梨は階段を下り、一年生のフロアへ戻った。

 俺は暫くそのまま、痛みが治まるのを待っていた。


「紅空、ちょっと良い?」

 痛みも治まり、荷物を持って校門を潜ろうとした俺の耳に届いた声。

 その声の発信源を向いた俺の目に映ったのは、蓮宮さんの姿だった。

「……何でしょう?」

 正直、今の俺に体力なんて残ってなかった。

 昨日の戦闘でメンタル面が相当傷付き、今日は朝菱やら鈴梨やらの影響で疲れた。

 蓮宮さんが目の前に居てもテンションが上がらないなんて、俺ももう終わりだな。

「噂通りの傷心ね」

 噂にまでなっていたのか、俺。

「ちょっと、今、時間ある?」

「時間はありますけど元気はありません」

 即答した。

 早く帰って寝たい。

 今の俺はそれ位疲れているんだ。

「予測通りの返答ね」

「そうですか」

「そんなに昨日の一件がショックだった?」

「……」

 眉一つ動かさずに核心に触れてきやがった。

 ザックリと。氷の刃で胸を突き刺されたみたいだ。

 痛みよりも先に不快さが流れ込んでくる。

 何処から流れ込んできたか、なんて知らない。

 誰が流し込んできたのか、なんて知らない。

 何に対する不快さなのか、なんて知らない。

 だが、何処からか、流れ込んできた。

「当の白天寺さんは何とも思ってないのに、貴方だけがそれを気にしている。……自分に責任を感じるのは結構だけど、度が過ぎると気持ち悪いだけなんじゃない?」

「気持ち悪くても構わない。俺は自分で自分が許せないだけです」

 俺は自分が嫌いだ。

 別に、昨日の一件からそう思い始めた訳では無い。

 もっと、昔から。

 ずっと、昔から。

 俺が紅蓮の指輪を手にする前から。

 俺は自分が嫌いだった。

 自分は他人と変わらない。

 漫画や小説の中では、全ての人物に存在する意味がある。

 それなのに、俺には存在する意味なんて無かった。

 だから、望んだ。

 他の誰も歩めない、画面や紙の向こうにしか無い様な日常を送りたい、と。

 きっかけさえあれば、誰でもそんな人生を送れる。そう思っていた。

 だけど違った。

 昨日の俺が良い例だ。

 きっかけがあったって、駄目な奴は駄目。

 俺はそう学んだ。

「……ふーん」

 蓮宮さんは、落胆した様な声で言った。

「私は、そんなつまらない人に指輪を渡したのね」

 と。

「……え?」

 聞き捨てならない台詞が聞こえた気がした。

「どういう、……?」

 暗くなっている場合ではない気がする。

「分からないの?」

 蓮宮さんは、明日の天気でも告げる様に、こう言った。

「貴方が探していた六年前の少女。……それは、私よ」

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