第20章 1mと1m④
五分後。
俺は唖然としていた。
何故、俺が唖然としていたか。
まぁ、端的に言うと、コイツの過去が、取って付けたかの様に壮大だったからだ。
本屋に行って適当に本を五冊位買えば、似た様な設定の登場人物が絶対に居る様な。
そんな例を出せてしまう程、チープすぎる過去だった。
「……これでも、救われるまで自己満足を繰り返すの?」
事実は小説より奇なり、とか言う言葉があったはずだ。
確かに、こんな事実は事実であって欲しくない。
小説の中でだけで良いな。今の話は。
「『これでも』、ねぇ」
以下、その具体例。
『割と幸せな生活を送っていた』
『両親を強盗に殺され、その幸せな生活も終わる』
『強盗が来た理由は親の持つ大金』
『その後親戚の家に引き取られる』
『親戚に表面上だけ心配され、心の奥では煙たがられていた』
『と言う事実を彩季は知ってしまう』
『と言う事実を親戚達は知らない』
『その後、色々あった末に親戚の間を盥回しにされる』
『結果的に保護施設に捨てられる』
『そこでもあまり良い待遇を受けられなかった』
『そこで組織のボス(以下、ボス)に拾われる』
『その礼としてボスの役に立つ仕事をしようとする』
『ボスの役に立つ仕事=組織の仕事』
『そんなこんなで組織に加入』
『そんなこんなでけっこう活躍』
『そして今に至る』
と、まぁ、大体こんな感じらしい。
文章にすると十六行。
小説の設定にしては稚拙すぎて読む気力も失せるレベル。
だが、それが現実に起きていると言うのだから一大事だ。
正直、俺の手には負えないんだが。
なんか、そのボスとやらが良い人に見えてくる不思議。
「……あれ?」
俺、その良い人を妨害しようとしている奴になるのか?
そんな事無いよね? 心配しなくて良いんだよね? ね?
「……で?」
あ。
目の前に居る奴の事、すっかり忘れてた。
「俺に出来る範囲なら、何度でも繰り返すさ!」
えぇい。もうどうにでもなれ。
もう格好付けない、とか言ってたっけ?
知ったこっちゃ無い。
こうなったら死ぬまで格好つけてやる。いや、流石にそこまでは格好付けないが。
毒を食らわば皿までだ。使い方合ってるかは知らない。
「ま、具体的にどうするか、なんて全く思いついてないしな」
ま、どうにかするさ。
それが主人公ってモンだろ?
まぁ、この行動理念も、さっきこいつのせいで崩壊しかけたんだがな。
とりあえず、この章が終わったら考える事にするか。
……章って何だよ。
「自己満足を満足するまで続ける、それで駄目なら諦める!」
「諦めるなよ!」
ぬ。いつまでも諦められない男は駄目な男らしいよ?
「ま、そうなる前になんとかするさ」
「すっごい楽観的ね」
言われた。言われてしまった。
「じゃ、今度会った時は髪留めの借りを返すよ☆」
「さらっと怖い事言うな!」
今、絶対語尾に『☆』が付いてた。
そんな可愛らしい台詞じゃ無かったよ。今の。
「じゃ、またね」
そう言い残し、彩季は何処かへ跳んでいった。
髪留め着用時と比べればキレが無い跳躍だが、それでも十分だった。
その跳躍で彩季は塀を飛び越え、俺の視界から消えた。
そこ、明らかに他人の敷地なんだけどな。
つまり、それ、不法侵入なんだけどな。
つまりは、犯罪なんだけどね。多分。
「……まだ色々言いたい事はあったんだけど」
まぁ、また舞台に上がってくるのを待つしか無いか。
今度は悪役じゃないだろうしな。




