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第19章 1mと1m③

 とか言ってみたが。

 俺の心内はもうアレだった。

 この場合の『アレ』とは、もう、何と言うか、ヤバい。そう言う意味での『アレ』だ。

 気付いたら目前には彩季の足。

 スカートの中が見えた。が、スパッツだった。

「畜生!」

 そこはパンツだろ。

 確かにスパッツも下着の一種、らしい。だけど、だけどそれはひどいだろ。

 とか何とか脳内で叫んでいる隙に、彩季の足がすぐそこに来ていた。

 俺は彩季の脚の上に乗る様に、キックの回避を試みる。

 それとほぼ同時に指輪が光り、俺の体を彩季の突き出された足の上に乗せた。

 そしてそのまま、俺は彩季の懐に走り出した。

「重い!」

 彩季は俺を乗せた足を夕焼けに向かって振り上げ、俺の体を宙に放り投げた。

 辺りは住宅街。大体の建物は三階建て。そして、俺はその高さも上回る位置に浮いた。

「ぅわあぁ!」

 しかも、地上では彩季が俺に一撃を与える準備をしていた。

 落下する俺に一撃与える気だ。

「マジかよ!」

 重力と言う名の無慈悲な現象は、確実に俺を地上に近づける。

 俺と彩季の間の空間は、もう一メートルも無い。

 確実に俺の腹を抉ろうとする彩季のつま先を、俺は必死に睨んだ。

 大丈夫だ。足の直線上に居なければ当たらない。

「避ける!」

 指輪が光った。俺の体は転移し、地に足が付く。

 高く上げられた彩季の下を走り、攻撃の死角に潜り込む。

 素早く、確実に、目的を果たす。これ以上、誰も傷付けない、と言う目的を。

「甘いんだよ!」

 鋭く叫んだ彩季は、高く上げた足を、素早く振り下ろした。

 要するに、彩季は、俺に、踵落としを放った。

「がッ……!」

 背中に走る鈍痛。

「その指輪はねぇ、所有者が攻撃を回避しようとした時『しか』発動しないんだよ! だから、不意に撃たれる攻撃には対処出来ない! 対処は簡単!」

 俺は途切れそうになる意識を必死で紡いだ。

 背骨が折れたのでは、と思う程の痛みを気合やらアドレなんとか(何だっけ?)やらで押さえ、足で地を蹴る事で倒れそうになる体を起こし、俺は二本足で直立した。

 が、その直後、俺はぶっ倒れた。

「蓮宮と同じ物を持っていても、アンタは蓮宮じゃない。その指輪の使い方も、アンタは分かってない。所詮、私には勝てないんだよ!」

 今の俺にストールは無い。

 自ら望んで手放したから。

 この痛みを治す手段は無い。

 だが、あと一回。あと一回でも立ち上がれれば、俺は彩季に勝てる。

 ただ、その『あと一回』が出来ないから、俺はこうして地に伏せている。

「ま、だだ」

 あんなに豪語していたんだ。立ち上がり、守るんだ。

 どんなに自分が傷付いても、傷ついた友のカタキは討つ。

 何か、ここで『カタキ』って言葉を使うのは不謹慎な気がしない訳でも無い。

 大丈夫だ。生きてるから。ストールのお陰、って事になるのか?

 どっちにしろ、白天寺は生きてる、ハズだ。

 なんて脳内で言ってる間に、俺は彩季に背中を踏みつけられていた。

 さっき踵落としを食らった辺りを踏みつけられている。

 無茶苦茶痛い。興奮なんて欠片も無い。

 蓮宮さんに罵られるのは興奮しても、彩季に踏みつけられるのは興奮しない。

 やはり俺はMでは無いようだ。もしくは、蓮宮さん限定のM。いや俺はMじゃない。

「お、俺は……」

 Mじゃないと信じたい。だからそんな事を考えていられる場合じゃない!

「なーに言ってんの? この状態で、立ち上がる事も出来ないのに?」

 確かに、俺は倒れている。背中を踏みつけられている。普通は立ち上がれないだろう。

 普通、は。

「彩、季」

 お前は、大事な所で重大なミスをしている。

「何? 懺悔でもする気?」

 物凄く悪役チックな台詞を投げかけながら、彩季は不敵に笑った。

「お前の台詞には、さっきから死亡フラグが溢れてんだよ」

 俺は指輪に願った。『背中を踏みつける』と言う攻撃を避ける事を。

「なッ!」

 彩季からすれば、目の前に、いや、足の下に居た男が。突然消え去った事になる。

 俺の体は指輪によって転移し、彩季の背後に現れた。

 人の正面と背後。その間は一メートルも無い。

 今の俺は、自分を、いや、指輪を中心とした半径一メートル以内になら一瞬で行ける。

 それは回避にも使える。が、不意打ちにも使える。

 それを俺に教えてくれたのは、さっきの彩季だ。

『不意打ちしない根性は褒めてあげたいんだけどね。それはタダの馬鹿だよ』

 彩季の、さっきのこの台詞が、今の俺の行動のヒントだ。

 相手の不意を打って攻撃する事。それこそが『不意打ち』。

 ま、俺は彩季に攻撃をする気なんてサラサラ無いが。

 あくまで、俺は誰も傷つけずにこの場を切り抜ける気だ。

 はてさて。どうやってそれを実行するか、だよな。

「後ろか!」

「バレた!」

 ま、数秒間動かないで居たら気配やら何やらでバレるよな。

 俺は地を強く蹴り、後ろに跳ねた。

 漫画なんかだと、相手との距離を稼ぐ時に良く使われる。

 が、そんなの一発で成功する訳も無く。

 俺の体は思っていたより後ろに転がり、おまけに転倒。数回転した後に停止した。

「痛っ!」

 踵落としを食らったり、そこを踏まれたり、転倒したり、転がったり。

 こんな短時間で、俺は何回痛い目にあっているんだ。

 俺が憧れていた存在も、こんな風に痛みを味わいまくってるのか。

 大変だなぁ。主人公ってヤツも。

「攻撃を食らった後でも転移出来る、なんて、蓮宮は言ってなかった!」

「随分と他人に依存した考えだな」

 他人の言った事を鵜呑みにし、それを疑わない。

 窃盗集団(?)に相応しくない思考回路だな。

 それだけ純粋な奴なんだろうか。

「自分の所有する道具の事は自分が全て話す。組織の共有の知識とし、未回収の道具を効率よく回収する。それが組織の鉄則! 蓮宮はそれすら破ってやがったのか!」

「ふーん。色々大変なんだな、お前も」

 小説やアニメだと、大抵、悪役の過去は色々と大変な物だったりする。

 こいつは、過去じゃなくて現在が色々と大変なんだな。

「知ったような事を言うな!」

 本気の叫びだった。

 腹の底から、彩季の口を通り、感情が爆発したかの様な咆哮が、飛び出てきた。

「人の事を何にも知らない様なヤツが分かった様な口で甘い事言うな!」

 最後の『な』の発音が終了するかしないか、と言う瞬間、彩季が駆けてきた。

 拳を引きながら、到達と同時に拳を放つ、その為に。

 今の彩季は、『怒り』のみを原動力として駆けてきている。

 怒りを原動力にする人間程、行動が読みやすい人間は居ない。

 さっきまでの彩季は、冷静に目的を果たそうとしていた。

 が、今の彩季は動きが単調だ。

 避ける事自体は容易い。

 が。

「うわっ、っと!」

 何せ、一つ一つの行動が速い。

 俺の十五年と数ヶ月の人生で、俺は喧嘩中に殴られた事が無い。

 さっきからやってる戦闘は喧嘩なんて次元の物じゃないからノーカウント。

 俺は今までの人生、喧嘩の時にはわざと喧嘩相手を(さらに)怒らせて、頭に血が上る事で単調になった攻撃を華麗に避け、相手のスタミナを枯渇させてきた。

 周りから『卑怯だ』『真面目にやれ』等々の罵詈雑言を受けながらも、俺はその戦法で生き残ってきた(別に殴られても死にはしないが)。

 ま、作戦を立てる事を知らない様な脳内筋肉馬鹿は、やがて俺の前に屈する事になるんだがな。喧嘩を売ってきた側の人間が負けるって、物凄く格好悪いよね。

「あれ」

 何の話だっけ。あ、そうだ。怒っている人間の単調さについてだ。

 まぁ、速くても、行動が読みやすくなる事に代わりは無い。

 俺は反射神経には自信がある。俺の移動速度の点から見て、自力で避けきる事は無理。

 だが。そこを指輪でカバーすれば、俺は一撃も食らわなくて済む。

 さっきの踵落としみたいに、俺の不意を突く、なんて事、今の彩季には無理だ。

「ッ!」

 彩季が拳を突き出した。

 が、その拳は俺にかすりもしない。

 俺が、一メートル。現在の位置から一メートル、『真上に』転移した事で。

「な」

 俺の転移先に驚いた様な声を出す彩季。

 迎撃体制をとる彩季だが、その構えはさっきまでと違い、隙だらけ。

 俺が空中で動く事をまるで考えちゃいない。

 俺は願い、一メートル前に移動した。

 このまま落下すれば彩季のすぐ後ろ、と言う位置に。

「ッ!」

 重力は俺の足をまたもや地に付けさせた。

「このッ!」

 彩季の拳が、いや、腕が、か。空を切る音がした。

 とりあえず、姿勢を低くし(要するにしゃがみ)、攻撃を回避した。

 頭の上を腕が通る音が聞こえた。俗に言う裏拳である。

 体を回転させながら、後ろに居る相手を殴る。

 憤怒が支配する頭で、よくそれを放てた物だ。

 が、それが外れた時にどうするか。そこまでは考えが及んでいなかった様だ。

「わっ」

 彩季は足をもつれさせ、見事に転倒した。

「きゃっ!」

 この場に似合わない、可愛らしい声だが、それに騙される程、俺も腑抜けちゃいない。

 そんな体制では、どんなに力があっても俺にとどめはさせない。ハズだ。

「……、そんな、馬鹿な」

 彩季は上半身を起こし、俺を見据えた。

 俺はそんな彩季の前に仁王立ち。

 傍から見たら、今の俺は確実に犯罪者。多分、痴漢とかの犯罪者。

 だが、ここからは俺の説教パート。……って事で良いんだろうか。

 偉そうに説教できる立場で無い事は百も承知だが、まぁ、良いだろう。

 肉体的な暴力を避ける為には、精神的な暴力を振るうしか無いからな。

 いや、別に暴力を振るう訳では無いが。

「……待てよ?」

 説教パートに入る前に、まずはこの勝負にケリをつけないとな。

 俺は彩季に近付いた。

 そして、彩季の傍でしゃがんだ。

 そして、その橙色の髪の毛を縛っていた髪留めを、外した。

「っしょ、っと」

 サイドポニーは解け、中途半端な長さのストレートになった。

「これで、良いんだよな……?」

 俺は相手の武器を奪う事で、彩季に痛みを与える事無く、勝てた、ハズだ。

「……よく、分かったわね」

「何が?」

 主語が無い。

「私の武器がその髪留めだ、って事よ」

 あぁ。それか。

「さっき自分で言ったんだろ? 『恵美のストールや蓮宮の髪留め、白天寺のピックと同じ。常識を破る過去の遺産』って」

 そんな事言わなきゃ、俺は髪留めなんて狙わなかったしな。

「自分の切り札についてベラベラ喋るのは悪役のする事だ」

「……悪、『役』?」

 ん。ちゃんと気付いてくれた様だ。

 俺は深呼吸をして、一気に説教パートを駆け抜ける事にした。

「『悪役』は舞台の上でのみ『悪』なんだ。演じる上で必要な小道具が無ければ、役者は舞台には上がれない。舞台に居ない『悪役』は『悪』じゃ無いだろ?」

 いかん。自分で言ってて意味が分からない。

 頭に浮かんだそれっぽい言葉をそのまま言うとこうなるのか。

 俺は最近、同じ様な理由で失言が多い気がする。

 数日前に『もう格好付けない』とか言ってた(口にはしてない)人の行動じゃないな。

「馬鹿みたい」

 彩季は笑いながら言った。

「俺も同感だよ」

「人が、舞台に上がらないといけない理由も知らない癖に、人の小道具を奪うなんて、偽善者が自己満足で人を救ったのと同じでしょ? ……実際には救われて無いのに」

 自己満足、か。

 言われてみれば、白天寺への説教もそうだが、俺には自己満足が多いな。

 自己満足なんて、他人の事を考えずに行動した結果だ。

 だけど。

「だったら、実際に救われるまで、自己満足を繰り返すまでだ」

 ……俺、白天寺の時にも同じ様な事言わなかったっけ?

 とりあえず、俺はこの貧弱な語彙を何とかしないといけない様だ。

 独り言の癖を直す、と言う課題もある中、俺の課題がまた一つ増えてしまった。

 早く終わらせたい物だがな。

「ほんっと、馬鹿、……いや、バカね」

 何で言い直した? どっちにしろ、俺が馬鹿なんじゃんか。

「私が、この組織に居る理由は……」

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