第1章 1mと紅蓮の指輪①
俺は城下町を歩いていた。
暖かい日差しが気持ち良い。
こんな日差しの中を誰かと歩けたら、きっと気持ち良いんだろう。
勿論。『誰か』と言うのは、同姓ではない。
あと数年で二十代になる、なんて年頃の人間は、誰しも色恋沙汰に興味を持つだろう。
俺は悲しみやら羨みやらを込めた足で道端の小石を蹴飛ばした。
小石は思っていたより長く飛び、何回か跳ねた末、誰かの足元で動きを止めた。
「ん?」
俺は、その『誰か』の足元を見ていた。
小石を見る事で視界に入った足元が、見た事の無い人間の足元だったからだ。
「あ、す、すいま」
俺は顔を上げながら謝罪しようとしたが、台詞は最後まで発せられなかった。
「「「「「「「「「貴様ぁァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」」」」」」」」」
と、大勢の怒号が俺の耳に突き刺さったからだ。
鼓膜が何の問題も無く機能し続けた事が奇跡と思える音量だった。
思わず耳を押さえてしゃがんでしまった俺の前に、鎧を着た男が何人も立ち塞がった。
「姫に石を蹴るとは。貴様、死ぬ覚悟はあるな? いや、無くても処刑するがな!」
「……へ?」
頭が追いつかない。俺は今、何故、鎧を着た男に胸倉を捕まれて脅されているんだ?
……って言うか、今この人、『姫』って、言った、よな?
って事は、つまり、鎧の人達の群れの中心に居る女性は。
「姫……?」
足元に転がる小石(俺が蹴った奴だ)を眺めている、十七、八歳であろう女性。
あれが、姫、だって言うのか。
番兵の一人が、雲一つ無い昼の空の様な色をした剣を抜いた。
ここで俺を斬るつもりだろう。小石を蹴ったせいで終了する人生、か。
俺は何故か落ち着いていた。冷静に、死への覚悟を決めていた。
が、その覚悟は無駄になった。鎧の人達の中心に居る、一人の女性の言葉によって。
「その人を今すぐ開放しなさい」
と言う、姫の一声によって。