表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

第18章 1mと1m②

 目を開けた。

 目の前には蓮宮さんの顔があった。

「目、覚めた?」

 俺は自分の後頭部に、謎の柔らかく暖かい物体の存在を感じた。

「あれ……?」

 辺りを見回すと、うつ伏せで倒れている白天寺と、目を見開かせる彩季が見えた。

「夢、か……?」

 何故だろう。俺は今、俗に言う『膝枕』とやらをされている気がする。

「まだ覚めて無いみたいね。……いや、頭もやられたのかしら」

 俺の発言に反応した蓮宮さんが、俺に不審の眼差しを向けた。

臨死体験なんてした事無いから詳しい事は分からない。

 が、さっきの意識の落ち方は明らかに『死』だった。多分だけど。

「確かに、まだ、頭は、重い、ですけど」

 あの痛みが、『永遠の』が頭に付かない『眠り』なんて有り得ないだろう。

 なのに今、俺の体の痛みはある程度薄らいでいる。

 あくまで、『ある程度』だが。

「やっぱりあれだけ重症だと、すぐには治らないのかしら」

 体を動かすとまだ痛みはあるが、全く動けない、と言うレベルでも無い。

 空は夕焼けのままだ。つまり、俺の気絶から、時間もそれほど経っていないのだろう。

「すぐに、って、あれ、入院レベル、だったで、しょう」

 こんな事、三次元である訳が無い。

 さっきの痛みがこんなすぐに消える訳が無いし。

「ま、これが終わったら、一応病院行った方が良いかもね」

 なるほど。これは死ぬ寸前に脳が見せてくれた幻想、って事か。

 あの痛みは、そんな、軽い咳と同じレベルに見て良い物では無い、はずだからな。

 仮に、今の俺が見ているコレが幻想だとして。

 視界の隅で白天寺の倒れている姿を見なきゃいけない幻想なんて、俺は要らない。

 例え、目の前で蓮宮さんが俺の事を変な人を見る様な目で見ていて。

 そのお陰で少し興奮する様な幻想でも、俺はそんなの、要らないとは言い切れない。

 むしろ見ていたい。

 あれ? 何か日本語おかしくなってない? 要るのか要らないのかハッキリしろよ俺。

「……けど……」

 こんな素晴らしいシチュエーション、幻想じゃなくて現実でお願いしたい。

「?」

 だったら、まずは、死の淵から復活して、彩季を倒さないといけない。

 死の淵を彷徨ったお陰で手に入れた力で彩季を倒す、とかだと、実に主人公っぽいな。

 そして皆救われてハッピーエンド。

 チープな展開だが、それが一番だろ? 誰に聴いているかは知らない。

「すいません、蓮宮、さん」

 その為に。まずは、復活しないとな!

「え?」

 俺は、俺自身の意思で、この素晴らしい幻想に別れを告げる。

「俺、ちょっと生き返ってきます!」

 また、幻想の中でも何処でも良いから、睨んでくれると嬉しいです!

「は? 何言ってるの?」

 念の為。別に俺、罵倒されて喜ぶタイプの人間じゃ無いからな?

「死んでもいないのに」

「え?」

 あ、俺、幻想の中じゃ死んでない設定なのか。

「色々な意味で、大丈夫?」

 今の俺の発言のせいで、蓮宮さんのジト目が破壊力を増した。

 その視線は俺にとって嬉しい様な嬉しい様な。何だよ『嬉しい』しか無いじゃないか。

「一発叩けば、目、覚めるかしら」

「?」

 普通、俺が生き返る決意をしたら実際に生き返るんじゃないの? 展開的に。

「それは、どう言う意味で?」

「えい」

「ぐほっ!」

 目の前の蓮宮さんに思いっきりビンタされた。

 体が少し喜んでいる気がするのは気のせいだと信じたい。

 やめろ。俺を工口と一緒にするな!

「……あれ?」

 よく、夢の中では痛みを感じない、って言うよな?

 俺はその説を信じない性分なのだが、今の衝撃はリアル過ぎた。

「これで駄目なら放置しか無いわね」

 リアル、って、漢字で書いたら『現実』だよな?

「あれ?」

 現実? 今、俺、現実、って言った? いや、口にしてはいないけど。

「って事は、まさか……」

 さっきから続いている幻想が……。

「夢、じゃない?」

「……やっと目が覚めたみたいね」

 瞬きをしてみた。

 目の前には、やはり、と言うべきか、蓮宮さんが居た。

「あの、俺、死んだんじゃ……?」

 俺は起き上がりながら言った。

 さっきのが幻想じゃないとしたら、今俺が生きている事が有り得ないだろ。

 やっぱり死んでるのか?

 ここは天国、英語で言うとヘブンなのか?

「信じるかどうかは別とするけど、肩を見なさい」

「肩?」

 言われた通りに、俺は目線をずらして肩を見た。

「ん?」

 そこにあったのは、一枚(単位が合っているか俺は知らない)のストールだった。

 春の新芽の様な色をしたストールが、俺の肩にかけられていた。

「さっき会った人から有り難く頂戴した物なんだけどね」

 蓮宮さんは、今の部分だけは、彩季に目線を向けて言った。

 まるで、今の発言が彩季に対する皮肉だったかの様に。

「簡単に言うと、肩にかけるだけで傷の治りが早くなる、って代物なのよ、それ」

「傷の治りが、早くなる……?」

 何だそのRPGの装備アイテムにありそうなストール。

 って言うか、蓮宮さんって、電波系だったのか。知らなかった。

「あ」

 だからさっき、蓮宮さんは、

『信じるかどうかは別とするけど』

 とか言ってたのか。

 って、あの一撃をこんな短時間で治すとか、どんなストールだよ。

「嘘、でしょ? 何で、何でココに蓮宮が居るのよ……?」

 彩季の震えた声が耳に入ってきた。

「……蓮宮さん。このストールの効力を仮に信じるとして、これ、俺以外も使えますか」

 俺の体はある程度回復した、っぽい。

 だったら、今は白天寺の体を優先させるべきだ。

 俺の気絶中に何があったか分からないが、横目で見るだけでも分かる事がある。

 今の白天寺の体が決して無事では無い、と言う事が。

「……自分の体より、白天寺さんの体を優先するの?」

 俺の言った事が信じられない、とでも言いたげな目だった。

「はい。……俺が目標とする人達は、きっと、そうするはずですから」

 俺の目標とする人達。

 色々な漫画、小説、アニメに出てくる主人公達は、自分よりも他人を優先させる。

「そう」

 それでも生き残り、大切な人の生命を守り、物語をハッピーエンドで締めくくる。

「……だったら一つ、彩季を倒す為のアドバイス、ね」

 蓮宮さんは、俺に巻いていたストールを白天寺に巻き直してから、そう言った。

「あどばいす?」

 あどばいす、って、アドバイスだろうか。

「今、指輪、持ってる?」

「指輪?」

 蓮宮さんが言う指輪って、俺がいつも持ち歩いている、あの指輪の事か?

 なんで蓮宮さんが俺の指輪の事を知ってるんだ?

「「……?」」

 俺が『なんで俺の指輪の事知ってるの?』と言う意味の無言を作った。

 蓮宮さんが『なんでずっと黙ってるの?』と言う意味の無言を作った。

「あ」

 そう言えば、入学式の日の帰り道、蓮宮さんに指輪を見られてた様な気がする。

「え、えーっと、一応、ありますけど」

 俺は首からぶら下げていた指輪を見せた。

「あ、そこにあったのね。……それを左手の薬指に」

「は、はい」

 俺は紐を解き、指輪を左手薬指に装着(?)した。

「……で、次はどうすれば?」

「ま、それは戦いながら知る方が面白いでしょ?」

 しれっと、当たり前の事の様に、蓮宮さんはそう言った。

「そんな事言ってる場合じゃないですよ!」

 確かにそう言う展開は俺好みなんだけど、蓮宮さんってこんなタイプの人間なのか。

 ……なんか、凄く似ている人に、俺は、昔、遠い昔に、会った事がある様な……。

「そう? ま、全部教えたら面白くないし、二つ、ヒントね」

 俺が台詞を挟む間も無く、蓮宮さんはその『ヒント』とやらをくれた。

「一つ目。相手の攻撃をちゃんと見て」

「は、はい」

 まぁ、見ないで戦うなんて器用な事、俺には出来ないが。

「二つ目。相手の攻撃を避けようとして」

「……え?」

 避けろ、じゃなくて、避け『ようとして』なのか?

「じゃ、私はストールの持ち主にもう一回会わなきゃいけないから、ね」

 ストール。恐らく、今は白天寺が使っているストール。

「以上。健闘を祈る!」

 そう言い、蓮宮さんは白天寺を背負い、何処かへ走り去った。

 人一人背負っているのに、無茶苦茶速かった。

「健闘、ねぇ」

 そもそも、俺はどうすれば『勝ち』なんだ?

 ゲームみたいにHPゲージがある訳でも無い。

 殺すなんて論外だ。出来れば殴るのも遠慮したい。

 ま、なる様になるか。知らないが。

「おい、彩季!」

 震える声を抑え、俺は叫んだ。

「白天寺の借りを返す!」

 俺の声で彩季は正気を取り戻した。

「……何? 紅空クン改め負け犬クン」

 何だか不名誉なあだ名を付けられている俺だった。

「不意打ちしない根性は褒めてあげたいんだけどね。それはタダの馬鹿だよ」

「しまった!」

 その手があったか!

「……早くアンタを倒してあの二人を……、」

 何か格好良い台詞を言いかけた彩季は、突然硬直した。

「え? 続きは?」

 具体的には、俺の左手の辺りを見て硬直している。

「アンタ、わざわざ蓮宮に、指輪、借りたの?」 

 途切れ途切れになりながら、彩季は言葉を続けた。

「え? いや、これは俺のだけど」

 なんでわざわざそんな事を?

「……じゃ、アンタが、例の『二人目』、って事か」

「へ?」

 目の前で、彩季は拳を固め始めた。

「まさか本当にコイツも殺さないと行けなくなるとは、ね!」

 そう叫び、彩季が俺に向かって跳んだ。

 コンクリートに罅が入る音がした。

「ぅわぁ!」

 彩季が拳を引き、前に突き出す構えを取った。

 このままだと、彩季の拳は俺の腹を確実に抉るだろう。

「避けようとしろ、だっけ!」

 俺は蓮宮さんの言葉を信じ、彩季の拳の軌道から逃れる様に回避を狙う。

 彩季の真横に跳び、真横から彩季に攻撃を加える。それがベストだろう。

 無論、俺にはそれを実行するだけの身体能力は無いが。動体視力には自信あるが。

「無理だね!」

 彩季が叫び。

 俺が斜め前に跳び。

 俺を狙う拳が俺に触れる直前。

 俺の体が消えた。

「「え?」」

 そして、気付いたら、俺は彩季の真横に居た。

 丁度、さっき俺が考えた回避計画の目的地だった。

「チッ!」

 彩季は素早く拳を戻し、俺から離れる様に上空に跳び、俺が元居た辺りに着地した。

 文句無しの金メダルだ。

「まさか、それの力を使える人間だとは、ね」

「それ?」

 それ、って何だ?

「アンタが持ってる、その指輪よ」

 彩季は、新設にも俺の質問に答えてくれた。漫画かよ。

「アンタの指輪は、所有者を所有者の半径一メートル以内の空間に転移させる力を持つ指輪。恵美のストールや私の髪留め、白天寺のピックと同じ。常識を破る過去の遺産」 

「……」

 どうしても、三つ、コイツに言いたい事がある。

 一つ目。漫画のモブキャラみたいにペラペラ大事な設定喋るな。

 二つ目。白天寺のピックがそんな物だったなんて俺は初耳だ。

「私達の組織は、そう言った過去の遺産を回収する事を目的としている。なのに、白天寺と蓮宮は裏切った。組織の持ち物を盗み、計画を妨害したのよ」

 だが、言い出すタイミングが見つからない。

「だから私は盗られた物を盗り返す。そして、裏切り者にはそれ相応の罰を与える。アンタの指輪も、私が、いや、私達の組織が、回収しなきゃいけない物なのよ」

 こんなシリアス展開をぶった切るなんて俺には無理だ。

 そんなガッツ持って無い。

 だが。

「生憎、これは俺にとってもかなり大事な物なんだ。アイツに再会するまでは、いや、再会しても、か。……とにかく、これはそう安々と人に渡せる物じゃないんだよ」

 もう六年か。俺、本当にアイツに会えるのか? ま、今はそれ所じゃ無いが。

「だったら、殺して奪い取る!」

「だったら、俺はお前を傷付けず倒す!」

 両者は駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ