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第15章 1mと駅前ライブ④

 日曜日。朝八時。

 俺達は二時間ほど前に白天寺家に集合し、練習をしていた。

「………………紅空、今の所、音外れてなかった?」

「大丈夫だと思うけど、もう一回やり直す?」

「………………お願い」

 もう本番まで時間が無いので、俺達は練習を続けていた。

「もう今日が本番なんだよなー」

「………………もうすぐ、ね」

 白天寺はギターを弾きながら答えた。もう歌詞も完璧に覚えたらしい。

「あ、今テンポ遅れた」

「………………え、本当?」

「嘘吐いてどうするんだよ」

 が、俺と居る時は絶対に歌ってくれない。

 数日前、何故歌ってくれないかを聞いたら、

『………………本番までのお楽しみ』

 と返された。

 他にも幾つか理由があるらしいが、そっちは聞き出せなかった。

『………………少しは自分で考えて』

 だそうだ。

 言われた日に四時間程考えても答えは出なかったので、現在困っている所だ。

 今も白天寺の演奏をBGMに考えているのだが、相変わらず答えが出ない。

「………………紅空」

 白天寺が演奏を中断し、話しかけてきた。

「ん?」

 俺も思考を中断させた。

「………………紅空が居てくれたから、出場する事が出来た」

 何となくだが、歌詞を作った事を言っている訳では無い気がした。

「………………紅空には、色々な事を教えてもらった」

 教えた? ユニットを組めば良い、って事か? それだけなら色々とは言わないよな。

「………………それだけ」

「……じゃ、練習再開、だな」

「………………うん」

 再び、部屋の中に音が響き始めた。


 午前が終わり、午後になった頃。

『着替えるから、マンション前で待ってて』

 と言う白天寺のお達しにより、俺は外で待つ事になっていた。

「桜ももう終わりかー」

 一週間も練習していないが、満足な結果を手に入れられる気がしていた。

 理由は簡単な事だろう。目的を果たすには、練習なんて要らないのだから。

「………………紅空」

「お、来たか」

 マンションから出てきた白天寺の服装は、まぁ、何と言うか、質素だった。

 一つだけコメントすると、『始めて見た白天寺の私服がスカートで無いのが残念』だ。

「………………スカートは苦手」

「だから何で考えを読まれるんだ俺は」

「………………顔に出てる」

「どんな顔なんだその時の俺は!」

 速攻で直したいものだ。

「………………知りたい?」

「遠慮しておきます」

 傷付く予感しかしないからね。

「白天寺」

「………………何?」

「楽しもうぜ」

 勝とうぜ、では無い。

 今の目的は勝利ではないのだから。

「………………うん」

 白天寺が頷いた。

「じゃ、行くか」

 空には雀が飛んでいた。

 俺が歩く度に、胸の前で指輪が踊った。


 午後一時。俺達は特設ステージの裏に居た。 

「それでは只今より! 第一回駅前ライブ大会を開催いたします!」

 司会者であろう男が甲高く叫んだ。そして。

「え……?」

「………………」

 パチ……、パチパチ……、と、まばらな拍手が聞こえてきた。

 つまり。

「……マジか」

 観客が無茶苦茶少なかった。

「………………まぁ、こんな物よね」

「分かってたのか?」

 凄ぇな。

「………………流石にここまで観客が少ないとは思わなかったけれど」

 っつーか、参加者も殆ど居ない。俺達の他は二、三組しか居ないのだから。

「………………別に、それでも、問題は無いけど」

 白天寺は競う為に来た訳じゃない。

「それでは、エントリーナンバー①の方、どうぞ!」

 俺達は③。もうすぐだ。

「                                      」

 俺は、セッティングが終わればお役御免な存在。

 今日の主人公は、白天寺昇華ただ一人。

 脇役でしかない俺は、裏から白天寺の声でも聴く事にするさ。

「                                      」

 充実感のある、楽しい(約)一週間だった。

 工口とか鈴梨とかと馬鹿騒ぎするのも楽しいが、新たな交友関係を築くのも悪くない。

「                           」

 パチ、パチパチ……、と、まばらな拍手が聞こえてきた。一人目が終わった様だ。

「それでは、エントリーナンバー②の方、どうぞ!」

 時が過ぎるのは早い。俺は六日前の昼食の時を思い出した。

 いきなり白天寺に呼び出され、このライブのチラシを見せられ。

 練習に付き合う事になり、俺が作詞をした。

「                                      」

 応募の事について説教なんかもしてしまった。

 俺があの時言った事は、事情も知らない馬鹿が綺麗事を言ったに過ぎない。

 俺は、誰に馬鹿と言われようが構わない。

「                                      」

 元気が無い友達を元気付ける事が出来るなら、どんな綺麗事でも構わない。

 どんな臭い台詞でも構わない。俺は言う。それが誰かを救えるのなら。

「それでは本日最後のエントリー! エントリーナンバー③の方、どうぞォ!」

 司会者が晴天に向かって叫んだ。

「………………それじゃ、紅空」

「ああ」

「………………行ってくる」

 ギターを持ってステージに上がる白天寺の後ろ姿は、とても格好良かった。

「エントリーナンバー③、白天寺昇華さんで!」

 そして、司会者が曲名を告げる。

「『SUBLIMATION』!」

 俺が作詞と同時に決めた曲名、『SUBLIMATION』。

 格好良くて、白天寺と白天寺の曲のイメージに合っていて、俺らしさも残る歌詞。

 その名前の意味は、『昇華』。そして、白天寺のフルネームは、白天寺昇華。

「………………」

 ギターとピックを持ち、白天寺は大きく息を吸った。

「                                      」

 白天寺が歌を唄っているのを聞いたのは初めてだ。

 中学でも三年間同じクラスだったのに、音楽の授業で聞いた事も無かった。

 まぁ、中学の時は関心無かったしな。

「……凄ぇ」

 透き通る様な歌声と美しい旋律。

「                                      」

「……あ」

 そう言えば、白天寺、練習中に、

『………………本番までのお楽しみ』

 とか言ってたっけ。

「                                      」

 確かに、出し惜しみしたくなる位の歌声だな。

 俺は白天寺の歌をBGMにして審査員の様子を盗み見た。

 俺の中では一位でも、やっぱり反応は気になるし。

「やっぱり、な」

 どうやら審査員は全員(三人)聞き入っている様だ。

「                                      」

「……ん?」

 なんだか、客席が騒がしい気がする。

 まぁ、ここからじゃ見えないし、どうでも良いんだがな。

「                                      」

 今は、余計な事をしないで白天寺の歌を聴いていたかった。


 空は綺麗な夕焼けに染まっていた。

 俺の隣には、ギターが入った鞄を背負った、本日の優勝者が居た。

「優勝おめでとさん」

 優勝はやはり、と言うべきか、白天寺だった。

「………………どうも」

 改めて確認するが、今日のライブの会場は駅前公園。

 そこで演奏していれば、当然、駅から出てきた人達の耳にも演奏が入る事になる。

「………………紅空のお陰、ね」

「え? 俺はほとんど何もしてないだろ」

 そして白天寺の演奏は、公園に行く予定が無かった駅構内の人々を公園に呼んでしまう程だったらしい。他の二組の影響なんて知らん。

「………………紅空は、誰があの曲の作詞をしたか忘れてるみたいね」

「あれ位、俺以外の誰でも作れるだろ」

 俺は舞台裏に居たので公園の人口増加は見えなかったが、公園内の人口は演奏終了時には演奏開始前の十倍にはなっていたらしい(まぁ、元が少ないのだが)。

 だから途中、客席が騒がしい気がしたのか。

「………………紅空じゃなきゃ、出なかったし……」

「え? 何だって?」

 白天寺って、声は大きい方では無いが、時々、本当に聞こえない声量で話すよな。

「………………何でも無い!」

「なんかまた不機嫌オーラが復活した!」

 相手の発言が聞こえなかった時、聞き返すと怒られるのか。以後気をつけよう。

「………………まぁ、これ、お礼」

 と、白天寺が俺に一枚の紙、町内の店で使える商品券(千円分)を渡してきた。

「これは?」

「………………さっき貰った賞品」

「良いのか?」

 高校生にとって千円と言う金額は高額とは言いがたい、と思う(俺にとっては大金)。

「……………参加させてくれたお礼」

「だから俺、全然役に立てなかったじゃん」 

 いつの間にか不機嫌オーラも消えていた。

「…………………本当、紅空ってバカ」

 謙遜だと思われたのだろうか。実際、俺は何も出来なかったと思うんだがな。


 昇華、と言う言葉の意味は二つある。

 一つ目。『固体が液体になることなしに、直接気体になること』

 主な意味はこっちだろう。が、俺が使った意味は違う。

 使ったのは、二つ目の意味。

『ある状態から更に高度な状態へ飛躍すること』

 と言う、あまり使われない方の意味。昔見た何かのアニメで使われていた単語だった。

 何となく格好良いし、一般の人にも通用しそうだったので、使ってみる事にした。

 その結果が、さっきの優勝だ。


「礼なら既に貰っていたのにな」

 俺が舞台裏に、白天寺がステージに居る時、俺が釣りを払わないといけない位の礼を。

「………………何か言った? 紅空?」

「いや、何も」

 ただの独り言だし、まぁ、言い直さなくても良いだろ。

「……昇華、か」

「………………え?」

「え?」

 どうして白天寺が反応したんだ? ……あ。

「勘違いさせて悪い。別に名前呼んだ訳じゃない」

「………………そう」

 ……何か、今の一瞬で、また少し機嫌が悪くなった気がする。

「白天寺、さ。俺、何かお前に悪い事したか?」

 今の不機嫌は俺が勝手に呼び捨てにした事からだろうか。

 今回に限らず、俺は何かと白天寺を不機嫌にしている気がする。

「………………?」

 この一週間だけで三回は不機嫌にしているし。

 やはり、白天寺が俺に協力を要請したのは嫌々だったのだろうか。

「………………悪い事? 何で?」

 機嫌の良し悪し関係無しに、純粋に俺の質問の意図が分からない様だ。

「いや、俺、白天寺を不機嫌にさせる事多いなー、って」

 年頃の女子、ってのは不機嫌になり易いのだろうか。

 鈴梨も工口に対してよく不機嫌になってるし。

 あ、それは違うか。あれは単純に工口が馬鹿だからか。

「うーん……」

「………………?」

 でも、そんな事言ったらこっちもそうじゃんか。俺が馬鹿だから白天寺が不機嫌に。

 あんな男と同じなのか、俺。

「………………私、紅空に対して不機嫌だった事、あった?」

 自覚無しなのか、あれは白天寺にとって不機嫌では無いのだろうか。

「あった気がするんだけどな……」

 白天寺がそう言うならそうなのかもな。なんか腑に落ちんが。

「ま、良いか」

 今日はめでたい日だからな。細かい事はどうでも良い。

 俺は星が見え始めた夕焼け空に願った。

 白天寺が更に高度な状態へ飛躍する事を。


 なーんて、美談っぽくこの話が終了して欲しかった。

 事件は、この〆の言葉から始まった。いや、正しく言おう。


 事件は、この〆の言葉の直後から始まる。

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