第14章 1mと駅前ライブ③
次の日。学校にて、俺は授業を受けながら作詞していた。
「……思いつく訳無いだろ。んな簡単に」
昨日、夜中まで考えたのだが、結局、良い歌詞は思いつかなかった。
「やべぇな……」
白天寺からの連絡も無し。斜め前では鈴梨が真面目に板書。前では工口が爆睡。
「やべぇ。全然思いつかない……」
普段はアニソンかキャラソンしか聴かないのに、一般的な歌詞なんて出てくるかよ。
『………………紅空の作った歌詞なら、私は、何でも良いよ』
昨日の白天寺の台詞。
「何でも良い、って言われてもなー」
あの曲に相応しい歌詞なんて思いつかねぇし。
「折角なら俺らしい歌詞にしたいけどなー」
それは傲慢だろうか。白天寺の為に歌詞を書くなら、俺らしさは必要無い、か。
「……ん?」
いや、待てよ?
『………………紅空はポキャブラリーが広い、って聞いた』
『………………工口から』
「あ」
工口から聞いた、って事は、俺がどんな歌詞を書くか、白天寺は分かってるんじゃ?
その上で、白天寺は俺に協力を要請した。
『………………お願い、ね』
なら、俺は、ただ単純に、俺らしい歌詞を作れば良い、のか?
「よし、なんとか行けそうだ」
独り言が多いのをどうにかすれば、職業にも出来るんじゃ無いか?
ビバ発想の転換。
と、俺がナルシスト気味に調子に乗ってしまう位は、俺のテンションも上昇していた。
調子に乗りやすいのもどうにかしないとな。
その時、ブブブブブ、と、俺の携帯が振動した音がした。
誰だ。せっかく人が良いアイデアが思いついた時に。
『宛先・紅空翔 差出人・白天寺昇華 件名・調子どう? 内容・良いアイデアが思いついた、みたいな顔してる』
「……人の事よく見てるな……」
白天寺の席って、俺の席から結構席遠いのに。
……それより、俺、本当に顔に出やすいんだな。
「にしても、俺らしい歌詞、って何だよ」
そこが全く分からない。俺らしい歌詞? 頭が悪い歌詞、って事か?
「翔ー。何ブツブツ言ってんだー?」
と、爆睡していたハズの工口から文句が来た。
やべ。さっきからダダ漏れだったのか。
「悪ぃ。ちょっと色々あっ「今日の授業はココまでだー」」
ここは素直に謝罪するしか無い。って、貴重な歌詞作りタイムが一つ終わっちまった。
「昇華さん絡みかー? 羨ましい奴だな」
色々言いたい事とはあるが、その中でも一番気になる事から言わせて貰うとしよう。
「……『昇華さん』って何だ?」
昨日まで、『白天寺』って呼んでなかったか?
「あぁ、それはだな。一昨日の合コンで、俺、昇華さんに怒られただろ?」
「……そうだっけ?」
そんな事、無かった様なあった様な無かった様な無かった様な……。あ。
『NEVER GIVE UP!』
『………………うるさい』
『すいません』
この流れの事か?
「そう言えばあったかもな」
それがどう関係するんだ。
「あの冷ややかな拒絶の声。俺の心を喜ば、いや、悦ばせた」
「……で?」
俺は呆れながら相槌を打った。変態なんだな。コイツは。
「俺は決めた。以後、尊敬と服従を込め、白天寺の事を『昇華さん』と呼ぶ、と」
敬語が付いただけかよ。だったら『白天寺さん』で良いじゃん。
「『白天寺さん』だと、呼んでて悲しいだろ? なんか、距離が遠い、って言うか」
「心読むな! あと理由が酷いな!」
尊敬と服従は何処行った。
「俺にとって、美少女からの罵倒は三度の飯より大事だからな!」
「答えになってない上に発言内容がドMだ!」
俺もSと言うよりはMの方が近いが、なんか工口が言うと犯罪の匂いがする!
「何を言うんだ翔。痛みを快楽に変換する者、『感情変換』の所有者としての誇りは何処に行った?」
「そんな特殊能力持った覚えも聞いた覚えも無い!」
コイツ、いつから中二病も患っていた?
「冗談を冗談と受け取れないのは愚か者の思考回路だぞ、紅空」
「お前一回死んで生き返れ!」
馬鹿って死ぬと治るんだっけ? 治んないんだっけ? 忘れた。
「……生き返る事が許可されているのは優しさなのか?」
「いや? 死の苦痛を心に刻んで生きていって欲しいな、って」
工口が言う所の『感情変換』でも変換出来ない程の苦痛を、ね。
「外道かお前は!」
何を言っているんだ工口は。俺はただの正義の味方だよ。
「……まぁ、良いや。話が逸れすぎた。えっと、昨日の朝だったかな? 昇華さんがお前について聞いてきたんだが、アレ、何なんだ?」
俺の事を工口に聞いた、って事は、白天寺が言ってたアレの事か。
「ま、工口には関係無いな」
「……あっそ。ま、一つだけ言わせて貰うと」
工口はそうタメてから、こんな戯言を吐き、教室を離れた。
「フラグってのは、なかなか立たないから貴重なんだぜ」
こんな、脈絡も何も無い戯言を。
「……フラグ、か」
放課後。
「………………紅空」
駐車場に着いた時、既にそこには白天寺が居た。
「いっつも早いな、来るの」
同じ位時間に学校出てるハズなのにな。
「………………一つ、聞いて良い?」
「ぇ?」
なんだいきなり。
「まぁ、別に良いけど」
わざわざ前置きする辺りに恐怖を感じてしまう俺はどうすれば良いのだろう。
「…………………紅空は、何で、手伝ってくれるの?」
「へ?」
何だいきなり。
「何か面白そうだったから、かな」
助けを求められたら必ず助ける、って言える程、俺に力は無いしな。
「………………そう」
何故かは分からないが、白天寺の顔に、少し、陰りが見えた気がした。
「……なんか、お気に召さなかったのでしょうか?」
何でだ? 何で白天寺の表情が暗く?
「………………何でも無いよ」
「な、なら良いんだけど」
全然『何でも無い』とは思って無さそうなんだが。
「………………紅空のバカ」
「ぇ?」
俺は何故か罵倒された。
工口だったら喜んだのだろうか。
その後何故か、白天寺が一言も口を利いてくれなかった。
その気まずい雰囲気をの中を歩いていたら、いつの間にかマンションに着いていた。
で、昨日と同じ部屋に到着し、今に至る。
「………………出来たの?」
何でこの人はさっきから怒っているんでしょう。全く分からなくて困る。
「いや、一応出来たんですが……、あの……」
「………………何?」
やっぱり不機嫌だ。無茶苦茶不機嫌だ。
どれ位不機嫌かと言うと、UFOキャッチャーに百円玉を三十枚近く投入したのに景品が全く取れなかった日の帰り道の工口と同じ位不機嫌だ。
他人の貯金箱に三千円近く入れるなんて、工口は優しいなぁ(棒読み)。
「何で、そんなに、怒っているのでしょう?」
「………………さあ?」
いつも通りの静かな声だが、その中にはかなり『怒』の感情が含まれている気がする。
いや、『気がする』ではない。思いっきり含まれてる。いつもの白天寺とは一味違う。
「………………で。見せて」
「え? あ、はい」
主語は抜けているが、作詞と言う名の宿題の事だろう。俺はノートを恐る恐る渡した。
「………………」
白天寺はそれを無言で受け取った。なんか凄く緊張するんだが。
「………………」
不機嫌そうな顔のまま確認されるノート。何か、ボロクソ言われる気がしてきた。
えっと、『感情変換』だっけ? 俺にもあったら良かったのに。
もしあったら、これからのボロクソを喜んで聞けるのに。
「………………ありがと」
「へ?」
白天寺がノートを閉じると同時に、部屋の中に満ちていた不機嫌オーラが晴れた。
「………………紅空に頼んで良かった」
「……?」
何で機嫌直ったんだ? そんなに出来が良かったのだろうか。
白天寺が気に入る程の良い歌詞を書いた記憶は全く無いんだが。
ただ、俺らしい歌詞を書いただけだが。
「………………コピーとってくる」
と言い残し、白天寺は隣の部屋へ行った。
「……ふぅ」
なんだかよく分からないが、とりあえず危機は脱したらしい。
白天寺が何を考えているか、俺にはよく理解出来ない。
トランプとかカードゲームとかやったら無茶苦茶強いんじゃないか?
「ま、良いか」
俺はやる事も無いので辺りを見回した。机の上には例のピック。
「……」
そう言えば、白天寺は、何故、大会に出るのだろう。
父の遺した曲を使ってまで、優勝しなければならないのか。
「………………ただいま」
タイミング良く白天寺が戻ってきた。その手には数枚のコピー用紙と俺のノート。
「……なぁ、白天寺」
「………………何?」
俺は決意を固め、白天寺に言葉を投げかけた。
「なんで大会に参加するんだ?」
これは、興味本位では聞いてはいけない事なのかも知れない。
いや、『かもしれない』では無いな。人の心の奥は簡単に覗いて良い物では無い。
でも、俺は聞きたかった。
「白天寺の腕なら、そのままどっかに応募しても通ると思うんだが、なんでわざわざ?」
そんな簡単に行かないのかも知れないし、もうすでにやったのかも知れない。
嫌われても構わない(今好かれている、と言う訳で無いが)。
今の白天寺が何かに悩んでいるのなら、俺は解決の手伝いをしたい。
「………………」
白天寺は持っていた物を机の上に置いて。
「………………応募する時は、自分一人の力で、やらなきゃいけないから」
と、悲しげに言った。
「…………………お父さんの曲に頼る事も、紅空の作詞に頼る事も出来ない」
「……そう、か」
だから、駅前ライブ大会に、か。それなら『仕事』では無く『遊び』だから、か?
なんか主催者側に失礼な脳内解説だった気がするが無視しよう。今はそれ所じゃ無い。
「………………一人じゃ、何も、上手く行かないから」
演技でも何でもなく、白天寺はそう言った。
「一人じゃ何も出来ない? そんな事無いだろ」
「………………今までだって、一人じゃ何も上手く行かなかった。いつも他の人の足ばかり引っ張ってきた。……誰も救えなかった。誰も守れなかった」
「……」
ちゃんと、理由はあった。
なのに、俺は、軽々と人の心に踏み込んでいた。
だったら。
「んじゃ、駅前ライブが終わったら、オーディションにでも応募するか!」
「………………へ?」
鳩が豆鉄砲百連打を食らった様な顔をしている白天寺。その目に不審の色が宿った。
「………………話、聞いてた?」
なんか睨まれた。
折角晴れた不機嫌オーラが二割か三割、戻ってきた気がした。
「一人で駄目なら二人以上で居れば良い。この前の焼き肉屋で分かった事だろ?」
序盤は確かに最悪だったが、後半は結束する事で得る力を知った。
それは焼き肉に限った話では無い。
まぁ、焼き肉に限った話だったら怖すぎるんだが。
「白天寺一人で上手く行かないんだったら、白天寺のお父さんや俺が居るし、白天寺が嫌じゃなかったら工口や光野、朝菱や蓮宮さんも居るだろ?」
まぁ、白天寺の父親に『居る』って表現を使って良いかは知らないが。
「………………でも、一人じゃ、なきゃ……」
「……どうして一人じゃなきゃ駄目なんだ?」
「………………?」
白天寺が意外そうな顔をしていた。
「ユニット、って言うんだっけ? 二人以上で活動する歌手だって居るんだろ?」
むしろ今はそっちの方が多いだろう。
俺は、さっきの白天寺の台詞におかしい物を感じた。
『………………応募する時は、自分一人の力で、やらなきゃいけないから』
白天寺の周りには人が居る。
本人がそれを拒んでいないのはこの前の合コンで証明済みだ。
「どうして白天寺は一人で居ようとするんだ?」
何か特別な事情があるかもしれないし、分かった様な口を利くのは馬鹿のする事だ。
「………………だ、だって」
だったら俺は馬鹿で良い。自ら進んで馬鹿になってやる。
「俺達で良ければ、白天寺の力にもなれる」
断言した。『なれるかもしれない』では無く、『なれる』と。
「………………紅、空」
元気付けたかったから、と言うのもあるが、理由はそれだけでは無い。
俺の好きな漫画やラノベで、主人公は周りの人間によく言っている。
「人は独りじゃない、ってね」
なんか、少し気取りすぎたかもしれない。
昨日の決意(格好付けをしない、と言う決意)は何処に行ったのやら。ま、良いや。
「………………、」
格好付けても格好付かないなら、格好付くまで格好付けてやる。
「さっ、練習始めようぜ」
俺は白天寺がさっき机の上に置いたノートを取った。
「演奏に合わせて、歌い辛い所は修正するからさ。弾いてくれよ」
白天寺が何処かに応募するとして。白天寺が一人で応募したいのなら、俺は止めない。
「もうあんまり、時間、無いだろ?」
でも。人に頼みたくて頼めないのなら、俺は手を伸ばしたい。
「………………り、がと」
白天寺が小さな声で言った。小さすぎて聞き取れない位には小さい声だった。
「え?」
聞き返した後、少しの沈黙。
「………………あり、がと」
白天寺は顔を上げながら言った。
その顔は、少しだが、笑っていた。




