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序章 1mとプロローグ

 今から六年前。俺は十歳。つまり、小学四年生だった。

 二学期の始業式の日、俺のクラスに一人の少女が転入してきた。

 気付いたら、俺はソイツに恋をしていた。

 今から思うと、コレが世に言う『一目惚れ』と言うヤツだったのだろう。

 が、俺はソイツに一目惚れしたクセに、六年でソイツの名前も顔も忘れてしまった。

 そんな俺だが、腰まで届きそうな程長い漆黒の髪が、凄く綺麗だった事は覚えている。

 アレより綺麗な黒を、俺は見た事が無い。

 案の定、と言うべきか、ソイツは他クラス、いや、他学年からもモテまくっていた。

 男子からだけではなく、女子からも。

 勿論、多くの人間が告白していた(告白したのは男子だけだった。多分)。

 まぁ、俺の予想の通り、誰一人として良い結果は得られなかったが。

 そんな中、俺はソイツに告白するどころか、話しかける事さえ出来なかった。

 クラスの仕事の時とかに話をした事は何回かある。

 当時は、それだけで幸せだった。

 一分しか話せなかった、とは考えず、一分も話せた、と考える事が出来た。

 当時の俺は、無茶苦茶ポジティバーだった。

 まぁ、『ポジティバー』なんて英語が実在するかは知らないが。

 俺は数週間前に義務教育を終えた身なんだ。それ位は甘く見て頂きたい。

「……俺は今、誰にお願いしていたんだ?」

 まぁ、そんな事はどうでも良い。話を戻そう。

 そんな事がありながら、日常は過ぎていった。

 文化祭が終わり、音楽祭が終わり、クリスマスになり、二学期が終わり、冬休みに入り、年を越し。正月が終わり、三学期に入り。

 始業式の数週間後、その事件は起きた。

 事件、と言うには小さすぎる。だが、当時の俺達には大きすぎる一件が。

 ソイツが転校する、と言う事件が。

 理由は、ソイツの父親の転勤。

 仕事の都合で外国に行って、いつ戻るか分からないらしい。

 いや、日本に戻るかどうか、と言う所すら怪しかった。

 漫画みたいに、子供達が結束すればキャンセル出来る様な仕事では無いらしかった。

 俺は驚いた。

 ソイツの転勤について、では無く、それを聞いた人間達の反応について、だ。

 皆は、体の中の水分を全て出す勢いで泣いていた。が、問題なのはその後だ。

 皆は、開き直っていた。

「だったら、無理してでも日本に戻ってきたくなる位、楽しく送り出そうぜ」

 なんて俺の台詞を素直に受け入れる位には開き直っていた。

 普通だったら。

「そんな事言ってる暇があったら転校を止める方法考えろよこの馬鹿野郎!」

 とか言いながら俺を殴りそうな奴らだ。いや、『殴りそう』じゃなくて『殴る』だな。

 なのに、クラスの連中は素直に俺の意見に賛成した。

 湿っぽい別れは嫌いな奴らだった。

 その『奴ら』と言う物の中には、俺も含まれていた。


 俺は、本当だったら、ソイツの転校を止める為なら、なんでもする気だった。

 漫画やアニメの様に、友情と努力で勝利を掴みたかった。

 が、クラスの連中、いや、ソイツの姿を見て、俺は先程の台詞を発した。

 転校阻止を試みる場合、失敗時の悲しみは濃い。

 何もしなかった時の、数倍、数十倍、数百倍は濃い。

 それを恐れ、阻止したくても出来なかった連中が、そこに居た。


 ソイツの送別会は、ある休日に自分達の教室で豪勢に行われた。

 まぁ、小学四年生が出来る範囲内での『豪勢』だが。

 その送別会では皆が笑っていた。

 完全に作り笑顔だが、皆、笑おうとしていた。

 でも、時が経つにつれ、泣く人が増えてきた。

 俺は耐えた。

 好きな人に涙を見せるのはカッコ悪いからな。

 その後、色々あった末、送別会もお開きになり、ソイツを含む全員が教室を出た。

 だが俺は校門を出た辺りで、何となく、教室にソイツが残ってる気がした。

 何でかは知らない。が、俺は教室に戻った。

 直感を信じてみたかった。

 案の定、教室にはソイツが居た。

 ソイツは、夕日を教室に通している窓を開け、そこから外を眺めていた。

 最後に、その学校からの景色を見たかったのかもしれない。

 教室に居るのは俺とソイツだけ。俺はそのチャンスを使って、ソイツに告白した。

 自暴自棄だったのかもしれない。いや、ヤケクソ? 変わらないか。

 付き合う付き合わない、なんて事は頭の中には無かった。

 ただ、思いを伝えないまま会えなくなるなんて、絶対に嫌だった。

 今思いを伝えないと、もう永遠に合えない。その時は本当にそう思っていた。

 返事は『ノー』が当たり前。俺の人生にとって『告白』とは、そういう物だった。

 もうどうでも良かった。

 なのに、俺の告白を聞いたソイツは、

「これ、大事にして」

 と言い、俺に一つの指輪をくれた。真紅よりも紅い色をした、透明感のある指輪を。

 その指輪は夕日を受けて、直視出来ない程に紅く、眩く輝いていた。

「私も同じ物持ってるから」

 俺に同じ指輪を見せながら、ソイツはそう言った。

「この指輪ね、昔のある国のお姫様と平民が持っていた物なんだって」

 と、持っていた指輪をスカートのポケットに仕舞いながら語りだした。

 俺は指輪を貰った手を戻さぬまま、話を聞いていた。

 意思で戻さなかった訳では無く、呆然としていて戻せなかっただけだが。

「一緒にいる事を許されなかった二人は、駆け落ちした」

 俺はその頃、『駆け落ち』と言う言葉の意味を知らなかった。

「その最中、その二人はこの指輪に一つ、願い事をしたんだって」

 この時、俺はようやく、見ていた指輪をポケットに戻した。

「『離れ離れになっても、少しずつでも、必ず再び巡り合う』って」

 俺は指輪を仕舞ったポケットに目をやった。

「それから、この指輪を持つ二人は、離れ離れになっても、必ず、再会出来るらしいよ」

 俺は何を言われたか理解出来なかった。

 何故、ソイツはそんな事を俺に教えたのか。

「まぁ、都市伝説みたいな物だけどね。お守り代わり」

 思いは届かないと思っていた。届かなくても良いから告白した。

「それ、絶対に盗られないで、無くさないでね」

 なのに、ソイツは俺に希望を持たせた。

「……また会えたら、さ。その時は……、二人で、何処かに行こ♪」

 そう言ったソイツは、頬をその指輪の様に紅く染め、何処かへ走り去った。

 次の日、当たり前だが、教室にソイツの姿は無かった。

 その後、俺はソイツに会っていない。

 俺は、今ソイツが何処に居るのかも知らない。

 ただ、俺がソイツから貰った指輪は、今も。俺は大事に持っている。


「なーんてなー」

 こうやって語り始めると、俺が何かの作品の主人公みたいに見えてくる。

 うん。格好良い。主人公。

 主人公。それはどんな困難や強敵を必ず倒して進む存在。

 まぁ、最近は例外もあるけど。

 腕力で。能力で。人脈で。武器で。頭脳で。金で。運で。色々な人の都合で。

 主人公と呼ばれる存在は危機を打ち砕いていく。

 そして俺、紅空翔くぞらかけるは、そんな存在に憧れていた。

 そんな、『主人公』と呼ばれる存在に。

 他人の幸せの為に自分の幸せを放棄できる人。

 俺は、そんな事が出来る人間は珍しいと思う。

 格好を付ける為にそう言う人は居るかもしれない。

 が、多くの人間は、そんな状況に耐え切れず、尻尾を巻いて逃げ出すだろう。

「そう言えば、何で『尻尾を巻いて逃げ出す』って言うんだろう」

 うん。死ぬ程どうでも良いな。

 話を戻そう。

 そこで、逃げ出さずに立ち向かえる人間が『主人公になれる人間』なんだと思う。

 立ち向かうだけではいけない。

 危機を打ち払い、実際に他人の幸せを守れなければならない。

 それは、生半可な覚悟では出来ない、ハズだ。

 俺は、口だけで格好付ける人間にはなりたくない。

 主人公になれない人間である俺の夢は、『主人公になる』事だ。

 二次元に行きたい訳では無い。いや、行きたいけど。

 三次元で構わない。

 主人公は『憧れ』の対象であり、『英雄』だ。

 誰でも良い。

 俺は誰かにとっての『憧れ』や『英雄』になりたい。

 まぁ、俺はそれに向けての努力なんて全くして無いんだが、今は春。

 春は何かを始めるに相応しい季節、らしい。

 そして、そんな春の朝。

 俺は。

「俺、今日から高校生かー……」

 ベッドの上でダラけていた。

 俺の頭の近くに置いてある時計は、午前六時五十二分を指している。

起床時間まであと八分。

「春って、布団から出たくなくなるよなー」

 ま、秋も冬もなんだが。夏は暑いから速攻で出る。

「……ま、初日から遅刻してもアレだしなー」

 俺は今日から近所の私立高校の一年生。

 つまり、入学式と言う面倒なイベントが俺を待っている。

「ほんっと、アレ、やる意味あるのか?」

 超絶面倒臭い。

「ふわぁあ……、眠」

 俺は足取り重くベッドを離れた。

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