表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南溟の海魔(メールシュトーム)  作者: 雅夢&白鬼
第一章 ある造船技官の回想録
1/13

プロローグ&第1話 出頭命令

初の投稿です、地味な作品ですが興味を持って頂けたら嬉しいです。

 プロローグ


 懇意にしているHistorical War Ship(日本語版)の編集長さんから終戦40年の節目に、装甲巡洋艦「草薙」に対する技術史的観点から手記を書いて欲しいとの依頼があり、久しぶりにペンを執ることにしました。

 私が建造に参加した装甲巡洋艦「草薙」型に関しては、昭和30年代に既に建造に関する体験談を本にまとめ出版しておりますので、そこへこの間に新たに明らかとなった事実などを勘案し修正と加筆を行い出来る限り正確で判りやすい文章を目指したいと思っております、ただ私も80歳間近の老境故に記憶の混乱や思い違いのから記述に誤りが有る可能性がありますので予めお断りしておきます。

 なお前作において記述が少ないと批判が多かった戦闘に関する記述は、初代艦長の松田氏や秋山氏の記述をご本人や遺族の皆さんの了承を得て掲載することで多少は応えられたと思っております。


 前作を読まれた方はご存知かと思いますが、実はこれ以前にも私は、装甲巡洋艦「草薙」型、特に「草薙」に対する文献を執筆しています。これは戦後まもなく占領軍である米海軍技術調査団の要請によって書かれた物で、当時は非公開のこの報告書に代わって興味を持たれた方々へと、手元に残る資料で可能な限り詳細なものを書こうと試みたものが前作となるわけです。

 従いまして今回も前作同様GHQへ出頭するところから話を始めたいと思います。


第一話 出頭命令


 私がGHQ・連合国総司令部よりの出頭命令を受けたのは、終戦より半年が過ぎた昭和21年2月の事でした。

 当時、占領軍である米海軍はかつての大日本帝国海軍の主要拠点の一つ、横須賀鎮守府の建物を接収して司令部として使っておりました。

 私にとっては久しぶりの横須賀鎮守府であったが、そこに掲揚された星条旗を見た時、私は敗戦を実感したのです。

 この頃、米海軍は大規模な技術調査団を日本に送り込み、艦船や武装、機関や艤装などの調査を目的とした旧軍関係者への尋問や聴取を行っていた。私もかつての同僚達から話を聞いており今回の出頭の命令を恐る恐ると言った気分で受けた次第だった。

 しかし、出頭した私を待っていたのは身に着けた少佐の階級賞が不釣合いに見えるまだまだ若い青年でした。

 おそらく三十歳前のその青年仕官は、明るい茶色の髪を軍人らしく短く刈り上げてはいたが白人らしい青い瞳は堀の深いその顔には不釣合いな少年のような輝きを放っていた。

 彼は勢いよく敬礼をすると、戸惑いながら答礼する私には興奮気味な笑みを浮かべて手を差し伸べ、握手を求めた。

「本日は、ご足労頂まして感謝しています。

 私は本件を担当しますアンドリュー・ローウェルと申します。」

「元帝国海軍技術大佐 西岡 昌幸です。」

 日系人らしい中年の通訳官を通じた妙に固い自己紹介の後、ローウェル少佐は私に着席を促し、私もそれに従って簡素なパイプイスに腰を下ろした。

 彼は従卒にコーヒーを持ってくるように告げると早速本題に入った。

「さて、私が ニシオカ大佐にお聞きしたいのは、メールシュトームに関してです。」

 彼は表情を改めると本題を切り出した。

「メールシュトームですか?

 申し訳ないですがその様な物に心当たりはありませんが・・。」 

 私は記憶に無い文言、その意味を計りかねて訝しげな表情でそう答えた。

「失礼しました、私たちの間ではメールシュトームで通っていましたのでつい・・・。

 私がお聞きしたいのはクサナギ、

 貴方が設計した装甲巡洋艦クサナギです。」

 説明不足を詫びると彼は改めて私をここへ招いた理由を説明した。


 装甲巡洋艦「草薙」それは久しぶりに聞く今は無き愛娘の名であった。 

 数奇な運命より生み出され、本来の目的とは違う戦場で過酷な戦いを強いられた挙句、その戦果を評価されること無く沖縄の海に没した私の自慢の娘であった。

 

「ご存知だと思いますが、現在、我々は旧日本海軍の艦船に対する詳細な調査報告書を作成中です。

 私はその中で、貴方のクサナギタイプの担当と成ったのです。」

 私が草薙への思いに逡巡している間に、ローウェル少佐の説明は続いていた。

「『草薙』型ですか?」

「はい、クサナギ、ヤサカ、ヤタノ、ミグザのクサナギタイプ四艦を調査の対象にしています。

 しかし、私としては一番艦のクサナギついて特に関心があります。」

「なるほど。」と、相槌を打ったものの、私はその真意を測りかねていた。

 しかしながら、話の相手であるローウェル少佐と名乗った物好きな若者が自分と同じ人種、つまり技術者としてわが娘に対して限りない好奇心と好意を抱いていることは理解した。

 ふと、私の脳裏に閃く物、名前が浮かび上がった。

「もしかして、少佐はアラスカの建造に携わったのですか?」

 そのれは米海軍が草薙型に対抗して建造した装甲巡洋艦(米海軍では大型巡洋艦と識別していた)の名であった。


「いえ、私が開発に参加したのは、軽巡洋艦のウースター級です。」

「ウースター級軽巡洋艦ですか・・。

 確か貴国が建造中の最新鋭巡洋艦だと記憶していますが。」

思わず、私からそんな言葉が漏れた。

「よくご存知ですね。」

「いえ、知っているのは名前だけです。

 詳細は知る立場に今は無いので・・。」

 これは事実だった、既に私は民間人に過ぎず、軍事機密に類するものは窺い知る事は出来ない。

 それでなくても大日本帝国軍、いや国家そのものが情報を重視していないこの国では、おそらくこれ以上詳しい情報は得ることは出来ないと言う確証があった。

 ウースター級の話は偶然に終戦間際に敵情報として、そのような大型の巡洋艦が建造中であるとの報告があったのを記憶していただけでだけで、それ以上は間も無く終戦となって私は知る立場には無くなった、そういうことである。

 私がそれを彼に言うと彼は「一応機密事項ですから。」と前置きして基本的な性能諸元を教えてくれた。


 米海軍軽巡洋艦ウースター級、それは増大する一方の航空戦力による脅威、特に大戦末期に苛烈さを増していた特攻攻撃に対抗するべく開発された、主砲を完全自動化された重高角砲(大口径高射砲の旧帝国海軍呼称)とし、さらにこれを電探により管制を加える事で航空脅威に対抗しようとした意欲作であった。

 皮肉なことにそれは「草薙」の開発の端緒と被るものであった。もっとも当時の我々に重高角砲の自動化も電探による管制も想像の範囲外であった訳だが、開発の方向性としては同一言ってもかまうまい。

 しかし、ウースター級の基本的な性能を知った私には、同じ方向性で開発を行ったのに最終的に完成した艦のレベルの違いに技術的格差を思い知らされる結果となった。

 私がそれを口にすると、ローウェル少佐は悲しそうな表情で頭を振った。

「ミスターニシオカ、残念ながらウースター級は成功作とは言えないのです。

 生まれるのが遅すぎたのです、間も無く就役しますが彼女に活躍の場は無いでしょう。

 加えて早期の就役を目指して妥協した点も多く、それが今後の問題に成ると考えています。」

 彼は具体的な問題点として、全自動の連装六インチ砲は重量が嵩みトップヘビー対策として乾舷を低く造る必要がありそれが航洋性能を損ねているとし。

 さらにこの後予測される航空機と搭載武器、特に誘導弾の性能向上にはその器(艦体)の小ささから対処できない可能性が高い見ていた。


「我々はクサナギの存在にこそ注目するべきでした。

 私達は、ウースター級の主砲をアラスカの艦体に搭載する発想にまでは至らなかったのです。

 正に貴方のクサナギは我々の先駆的存在だったのです。

 私達を凌駕する発想を持った技術者が日本に居たことに、私は驚愕の念さえ覚えます。」

 ローウェル少佐の語る言葉は、一歩間違えれば私たちに対する侮辱ともとられかねないものでした。

 しかし、熱く語る彼の言葉の熱が、表情が、彼の純粋な畏敬の念を表していた。


 私はこの時決意を固めました。

 そして持参した書類鞄の中から古ぼけたノート取り出し、彼の目前に差出しました。

「これは?」

「『草薙』の建造係わる私の覚書です。

 何か参考になると考えて持って来ました。」

 それは草薙建造時より使っていたノート(正確にはその写しだが)であった、終戦時に公式の資料の多くが焼却処分とされてしまった関係で当時を窺い知る数少ない私の資料となっていた。


 それを書斎机の上に置き、私は一礼して彼に言った。

「帝国海軍は既に無く、多くの公式な記録も失われてしまいました。

 草薙型を造るに当たって尽力してくれた多くの仲間や帰って来れなかった者たちのためにも少しでも正しい姿が記録に残せるようにお力を借りたい。」

「分かりました、私も偉大な先達の記録が少しでも正確に残されることを希望します。」

 私の言葉にローウェル少佐は快諾の笑みと右手を差し出した。

 

 握手を交わしながら私は一つ気になる事を聞いてみた。

「先ほど話の最初に“メールシュトーム”と言う言葉が出ましたがそれはいったい何でしょうか?」

「メールシュトームですか?

 ああ、それはですね・・。」

 私の問掛け、その内容をローウェル少佐は予想していなかであろう、しかし彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべて私の問いに答え始めた。

「本来はヨーロッパの北方の海で発生する渦潮の事を言うそうですが。その大きさと危なさから海の魔物と同一視されるようになったそうで、レバイヤサンやクラーケンの別の姿とも言われています。

 それで空母の艦載機乗り達が一度出会ったら生きて帰れない草薙にこの怪物の名“メールシュトーム”と言う名を付けたそうです。

 太平洋艦隊の連中だったら皆知っていますね。

『南の海には魔物が住む』ってね。」

と、事無げに彼はそう言った。

「なるほど、南冥の海魔と言うわけですね。」

 私は納得した表情で頷いた。

「ではお聞かせしましょう、海の魔物・『草薙』誕生の経緯を・・。」


 こうして私は彼らの言う南冥の海魔の伝説を語り始めた。

戦記でも当分は建造に纏わる話が続きます、退屈した方ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ