3.取り敢えず適当に設定考えてます
少女が繰り出した一撃は、相手の人型の腹に直撃する。
唸りを上げながら吹き飛ぶが、地面をえぐり取りながらその摩擦でどうにか静止をした人型は叫び声をあげる。
それは人型ではあげる事の出来ない声。
全てをさらけ出しだ者の末路。理性が消え、本人の怨念が爆発した状態。
体は乗っ取られた訳では無く、本人の意思でこうなったのだ。
故に死ぬまで止まる事はない。本能で血を求める怪物へとなった人型。
「こいつは人の言葉を喋れないじゃねぇか。雑魚過ぎて外見の人間が可愛そうだぜ。」
手を開き、相手に小指を見せた。
「一瞬だ」
手刀が人型の首まで到達した時に体と頭は2つに分かれていた。
止めどなく溢れる血はそこに生きた証を残す最後の目印だ。
「……何よりも弱えのはあんたの心だ。だからこんなんになっちまうんだよ」
「運が悪かっただけだと思うけどな」
彼は人型だった者に向かって手を合わせた。
「あまちゃんだなお前は。だから誰も救えない男なんだよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
起きたらそこは知らない天井だった。
そんな訳も無く、今日も彼の日常が始まる。
何日も洗わず黄ばんだ枕から頭を離す。布団を見ても枕と同じ様な黄ばみが見える。
眠い目をこすり、バイトに行く準備を始める。
学生なら休みが始まる頃だろうか。
客が増えるのは不本意では無い。
嬉しいのは店長だけだろう。
バイトからしたら迷惑な事でしかない。しかしこの思いもいつかは店長の様に変わってしまうのだろうか。
責任を逃れ自由を求めた結果が、また自分の首を絞める。
あえて就職を選ばなかった自分がアホらしくなる。ただ何も考えずその日を生きていく事だけを考える。
そうして今の自分の存在を成り立たせる。
この人生を選んだ過去の自分を肯定する為に。
準備を終えた彼は、乗り慣れた原付でバイト先へと向かっていた。
7月も後半でチラホラと学生の姿も見える。
夏真っ盛りだが、少し風が肌寒い。街灯が頼り無く夜を照らし、田んぼの水がその灯を反射させている。
都市開発が進む中でも少し外れると周りには田んぼばかりだ。
静まり返り何もない光景をどこか自分と重ねていた。
この風景が変わる頃には自分は変われているだろうか。そんな自分は想像出来なかった。きっと、多数の住宅が並ぶ風景に変わらない自分が原付で通りすぎるのだろう。
不変。
変わる事を放棄した自分はどこまでも取り残されていくのだと錯覚する。
錯覚ではなく現実なのが、さらにこの世界から自分の意識を離していった。
何故こんな事になってしまったのだろうか。
自問自答しても答えは無い。
過去に何かがあった訳でもなく。語る事なんて何も無い。
ただlast dayzと言うゲームの事は語りつくす事ができる。
彼の人生はこのゲームに捧げられていた。
何よりもストーリーが魅力的で、読み出すと止まらなくなってしまう。
そんなゲーム内で彼女は言っていた。
結局自分が見てるのは都合のいいもんだけで、ちょっと視点を変えると自分の現実が見える。
そして目をそらして後ろを見ると視えるんだよ、自分の夢がな。
でもよお、前に進まないと夢っていうのはついてこないのさ。
ただし、片目を瞑ると視えちまうんだよ。
ワンダーランドがな。こいつが視えたらもう逃げられないぜ。
……俺からな。