岡崎家三人兄弟
「ヒイ君の阿呆――――っ!!」
朝の閑静な街に、その声が響いた。
「だから、紫呉悪かったって……」
「ごめんですんだら警察なんかいらないもん!! ヒイ君のアホアホアホ阿呆―――――っっ!!!!」
「……ヒイ兄、なにしたの?」
「聞いてよ、コウ君!! ヒイ君ったら酷いんだよ! 僕のプリン食べちゃったんだっ!! あんなに食べちゃダメだからね! って云っておいたのにぃっ」
黒髪の青年、黒呉はため息をつき、自分の三つ子の兄紫呉頭を撫でつつ、もう一人の兄、緋呉を睨んだ。
「ヒイ兄……」
「だって、食べるものがなかったんだよ……だから、今こうして紫呉の大好きなクリームプリンを買って来たんじゃないか……ついでに、黒呉のも買ってきた」
「それで僕が赦すと思った!? 許さないからね!! 絶ッッ対に赦さないんだからぁ!!」
ベーッと舌を出す紫呉。緋呉はどうしよう…と買ってきたプリンを見た。
「でもッ、そのプリンは貰うからねっ!!」
「「…………………」」
相変わらず我がままな二男だ、そう思った二人であった。
岡崎家の三人兄弟はそこらじゃ珍しい三つ子である。
長男の緋呉。二男の紫呉。三男の黒呉。
時折しゃくりながら、紫呉はバクバクと緋呉の買ってきたプリンを食べ進め、緋呉と黒呉の分までもを食べてしまっていた。
「(ヒイ兄の所為だからな……俺の分のプリンまで食べられた……っ)」
「(ゴメンて……あとでまた買ってくるから……」
二人は紫呉に聞こえないようにぼそぼそと小声で話した。
「…………ごちそうさまでした……」
怒っていても、泣いていても、行儀よく手を合わせて軽く頭を下げた。二人はついのってしまい、「はい、ようお召し上がりで」と云い、紫呉の食べ終わったものを片づけた。
お茶を冷蔵庫から取り出し、緋呉は紫呉にお茶をあげた。
「…………………ヒイ君」
「ん? なに?」
「さっきは……怒りすぎた。ゴメン……プリン、ありがとう……」
「……ドウ、イタシマシテ……」
緋呉はポリポリと頬をかきながら、ほんの少し頬を赤らめた。それをキッチンから見てた黒呉はほのぼのと微笑んでいた。
「あら、緋呉、紫呉、黒呉。早いわねぇ……て、もう9時か……寝坊しちゃったみたいね……」
クスクスと口元に手をやり、上品に笑う女性は三人の母、薇嘉砂。鮮やかな茶色の髪に優しい色をたたえる薄めの翡翠色の瞳。とても37歳には見えない、とご近所さんによく云われている。
「あ、あとで兄さんのとこに遊びに行くから。久しぶりに白夜ちゃん達に逢えるわよ」
白夜とは、三人の一個上の従兄弟である。ちなみに、白夜も三人兄弟で下に弟がいるが、その弟たちの出来が良するうえに、身長が一番低く、女顔。しかも長髪なため末っ子に見られるは、女に見られるはで可哀想な人である。
「あー…ビャク君とセキちゃんとクロちゃん……元気かな?」
「さぁ? 少なくとも、あのブラコン赤夜と黒夜は元気だろ……」
「ビャクさんも十分ブラコンだよね……」
三人はハァ……とため息をはくが、この三人も十分ブラコンである。人のことは云えまい。
「それじゃ、準備するか」
「そだね。久しぶりにビャク君で遊べるやっ」
「クロに勝負しかけられそう……」
三人ゆっくり立ち上がって自室へと向かった。