人斬り侍
うだるような暑さ、耳障りな蝉の音。疲れきった俺の身体には影比佐の夏は地獄の業火のようだ。どれ位歩いただろう…近くに蕎麦屋が見える。俺はいい加減歩くのにうんざりして蕎麦でもすすろうという事にした。
店に入ると俺は一番奥の席に座り、盛り蕎麦と水を頼んだ。すぐに水が運ばれた。その水は井戸水なのかキンキンに冷えている。その水を一気に飲み干し、おかわりをし、それも飲み干した。
ようやく一息つけたのだ。
蕎麦をすすっていると、人相の悪いチンピラあがりが店に入ってきた。チンピラは店の中を見回し俺に気がつき近寄ってきた。
「あんたが…辻斬り十兵衛かい?」俺は、箸を止め不機嫌そうに聞いた。
「何か…用か?」
「親分がお呼びだ。俺について来な。」俺は、食事の時間を邪魔されかなり頭に来ていた。
「それが人に物頼む態度か。物頼みてぇならてめぇから頭下げに来やがれってんだ!!そうすりゃ俺も親分さん俺が何とかしてやらぁとこうなるんだ…出直してきな。」
「おい十兵衛ぇ!!聞かなかった事にしてやるよ。黙ってついて来な。」
チンピラは怒りで震えていた。俺は黙って刀を抜こうした瞬間俺は店の中から無数に発せられる殺気に気がついた。やくざ衆で店は固められギラギラと殺気立った目をしていた……が俺には関係無い。
「聞こえなかったか、あぁ?てめぇから来いってんだよ。」そう言いざま刀を抜きその勢いで
ざくっ
目の前のチンピラの首が飛ぶ、と同時に血飛沫が飛ぶ。返り血を全身に浴び、俺は、にやけていた。この人肉を切る感触が、実に気持ち良いこの瞬間のため生きているといってもいい。
「らぁっ!!」怒号とともにチンピラどもが斬りかかって来る。
「はっ!!」気合一発、刀を横になぎ払う。手には人肉に刃が喰い込む心地のいい感触感じられる。無我夢中で、刀を振るう。
ざくっ
どばっ
ぐちゅっ
手に伝わる感触、臓器の鼻の曲がるような臭い。……楽しい実に楽しい。気がつくと、そこにはすでに人の姿は無く、肉の塊が無造作に転がっているだけだ。
俺は席に座りなおした。また何事もなかったように蕎麦をすする、返り血で真っ赤に染まった。
「店の奴も斬っちまったらしいや…。」
見回すと冷たい水や蕎麦を運んでくれた娘も死んでいた。わさびが効いたのか目には涙がうかんでいた。
どうだったでしょうか?人を斬る事に喜び感じる十兵衛は何故涙を流したのでしょうかね…それは彼なりの愛だったのでしょうか…