2話
掃除とかすると運気が上昇したりしますよねー^^
結局1日中掃除と模様替えをしていて気がついたら夜7時を回っていた。
ホントなら簡単な食事で済ませるつもりだったけど、さっきのカレンダーを見て
12月24日の夜まで健気に働く自分に何かご褒美があげたくなり、少しだけ贅沢しようと思った。
先日買ったルーズネックのカットソーにデニムを合わせ、お気に入りのロングブーツ。それにモッズコートを羽織っただけのラフなスタイルで夜の街に繰り出した。
住んでるワンルームは結構都心に近く、地下鉄を使えば20分ほどで繁華街に出られる。
家賃は5万2千円と自分にとって安くは無いけど、あまり贅沢をしなければ
何とかやっていける。
今夜は特別なのだ。
どこにしようか?しばらく行き先を考えていて、去年裕子と一緒に行ったダイニングバーを思い出した。
オシャレなレンガ作りの外観でイタリア料理がメインのバーだが、カウンターがあり若い女性客が一人で来ることも珍しくないような店だった。
駅から5分ほど歩き真鍮に書かれたDolce.Vitaの文字を見て店の名前を思い出した。
「そうそう!ドルチェ・ビータだった!」
思わず独り言を言ってしまい、ちょっと恥ずかしかった。
気分はそれほどノッているのだ。
甘い生活かぁ・・・関係ないね。そんな事を考えながら店の中に入ると予想外の盛況ぶりだ。
カップルばかり・・・
去年来た時はそれほど混んでなかったし、女性客が多かったのに・・・なんで?
「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」ちょっとオドオドしながら立ち竦んでる私に、見覚えのあるウエイターが声をかけてくれた。
「あっ・・・はい。混んでそうですね?」
「すいませんねー。 先日テレビの取材があってからちょっと忙しくて・・・」
「じゃあ・・・また来ますね・・・」そう言って店を出ようとした時、カウンターの男性がマスターに何か言ったようだった。
「こちらの席でよろしければ・・・」
マスターがカウンターの空いてるところを指しながら微笑んでる。
「どうぞ どうぞ・・・どうもフラれたみたいで・・・」
そう言いながらスーツ姿の男性がこちらを見た。
「ナベさんいつもの事じゃないですかぁー」マスターがその男性客に笑いながら話しかけている。常連さんなのだろうか?
「今夜も一人寂しく、マスターのダジャレ聞きながら飲むターキーは格別だわ」
なんか面白そうな人だ。 ちゃんと顔は見てないけど結構いい感じじゃないかな?
いい席が空いてた。そう思いながら座ると、さっきのウエイターが話しかけてきた。
「いつだったか・・・裕子さんとご一緒にいらっしゃいましたよね?」
「あっ!・・・憶えてるんですか? スゴイ!」
「ええ。きれいな方は全員インプットされてますんで」
そう言いながらシェーカーを振っている。
良かったぁ・・・こんないい気分になれるなんて久しぶりだな。
もっとお給料があったなら、毎日でも来たくなるのかもしれない。そんな雰囲気だ。
「お飲み物は?」
「えっと・・・ワインを・・・赤で・・・」
お酒はあんまり強くはないけど、今日は少し飲んでみたかった。
「あっ・・・それじゃあボクの一緒に飲まない? 今開けてもらったんだけど・・・一人じゃ飲み切れそうもないから・・・」
「そんな・・・悪いですよー」
「いいの、いいの。 マスターグラスをもう一つ」
「はい。良かったですねー。寂しくなくなって」
「じゃあ・・・素敵な夜に・・・乾杯!」
優しそうな横顔でチラッと私を見ながらその男性が言った。