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その2

 前嶋の朝は早く、多分三時くらいに起きている。

 前に、朝まで仕事が残っていた事があった。あんまり長い間起きてたからお腹が減ってしまった。冷蔵庫の中を見たが空っぽだったので、久爾は近くのコンビニに行くことにした。そこで買ったものは肉まんとカップラーメンとお菓子。

 コンビニに買い物袋を持って店外に出たら、歩いている久爾と会った。そう、朝の四時だ。前嶋も小腹がすいたのでコンビニで買い物しようとしているのかなと思いながら軽く手を挙げた。

 しかし、久爾を見た前嶋は一瞬顔をしかめると、彼女に向かって歩いてきた。

「おはよう」

「おはよう」と言いながら、前嶋は久爾の持っているコンビニ袋を取り上げた。彼は中身を見ると「何やってんねん」と彼女の襟首をつかんだ。

「お腹が減って買い食いしようと思って」

「なんや、自分四時には起きてんのかい」

「今日はたまたま。たまたまだって。仕事が終わってなかったからこんな時間まで起きてるハメになっちゃって」

 前嶋が怒ったような口調でいうものだったので、久爾は早口で自分の言い分を言った。

「前嶋は寝てるだろうし、でも家には何も食べるものがなくて。だからカップラーメン食べようと思って」

「カップラーメンはあかん、舌が馬鹿になるで。」そう言うと、前嶋はポケットから鍵を出してきて「うちに朝ごはんがあるから、それ食べ。」と、鍵を久爾の手に置いた。

「いやだよ。部屋の持ち主がいないのに部屋に行くなんて。」

「七時には帰るから、それまで家におって飯食べ。飯だけ持って自分の家に帰ってもえぇよ。ただし、七時には俺の家に来ること。ほな、ちょっと仕事してくるから」と一方的に言って前嶋は仕事に行ってしまった。

「・・・・すっげぇ。朝四時から働いてるんだ」

 久爾はいつも六時くらいに目を覚まして一日のはじまりを呪う。太陽が昇ってこなければいいのにといつも思う。だから、四時に起きて仕事をしている前嶋のことを理解することが出来ない。万が一にも四時に起きてしまったら、なかった事にして二度寝するタイプだ。

 とりあえず、片手にもっている肉まんを食べながら家に帰る。

 朝の四時だと、人によっては朝の散歩に行く人もいるらしい。多いのは犬の散歩。いろいろな犬を見ることが出来るから好きだ。

 家に帰ってもすることがないので、久爾はアパートの前の花壇に座ってが好きなのは大きな犬で、ポメラニアンのような小さな犬はキャンキャンと吠えるから苦手だ。いまだって、目の前を通り過ぎて行くポメラニアンにキャンキャンと吠えられている。飼い主は「ダメでしょメロンちゃん」なんて言ってる。あんたの躾が悪いんだろうと心の中で思う。

 朝陽が昇る前、小鳥がチュンチュンと鳴いている。もう少ししたら、家の台所に灯りがついてご飯を作り始めるだろう。

 システムキッチンに向かう、前嶋の背中はいつもピンと伸びている。野菜を切る速さも一定だ。それはつまり、何を作るのかがいつも明確になっているからか。いやしかし、前嶋はいつも冷蔵庫の中から適当に材料を取り出しているような気がする。適当に作っているような気もするし。けど、中には煮込み料理とか、焼き料理もあるから手がこんでいないわけではないのだ。少なくとも、料理を全くしない久爾に手が込んでいるとかいないかを評価されるようなことではないと考える。

「自分、何してん」

 声のした方へ顔をあげると、前嶋が立っていた。

「・・・・何してんだろう」

「いつから座っとったんや」前嶋が手を触れながら聞いてくる。

「その様子やったら、メシ食うてないやろ。はよきぃ」

 立ちあがり、先に歩く前嶋の後をのろのろとついて歩く。

「お前、腹へってたんちゃうんか」

「うん。」

「なんで部屋入って食べへんねん」

「前嶋がいないのに、部屋に入れるわけないじゃん」

「自分の部屋でカップラーメン食べようとは思わんかったんか」

「前嶋が怒るから、我慢する」

「・・・・お前は子供か」と心底あきれたような声で言われた。


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