表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水鏡の夏  作者: ゆきや
4/7

第二章 湖畔の夜(後)

 蒼汰は少し勇気を出して、千夏の隣に座った。

湖面に映る月明かりが、二人の影を柔らかく揺らしている。


 「君の、昔の村のこと……もっと聞かせてくれないか?」

蒼汰が尋ねると、千夏は小さく微笑んだ。

「この村には、四季折々の祭りや、湖の神様を祀る小さな祠がありました。みんなで集まって踊ったり、歌ったり……とても賑やかで、楽しいところでした」


蒼汰は想像する。

湖がまだ村を抱いていた頃、人々が笑い声を響かせていた光景を。目の前にいる千夏は、その時代からやってきた少女なのだ。


「……君の話を聞くと、なんだか懐かしい気持ちになる」

蒼汰は思わず口にしたが、視線は湖面に落ちたままだった。


千夏は少し間を置き、目を細めて月明かりのほうを見た。

「そう……ですか。わたしも、こうして話していると、少し落ち着きます」


互いに言葉は交わすものの、まだ心の奥までは触れ合わず、静かな距離が二人を隔てていた。

それでも、初めて出会った夜の湖畔で、ほんのわずかに心が通じた感覚だけは確かにあった。


風が湖面を撫で、二人の間に穏やかな沈黙が流れる。

言葉は少ないけれど、心は確かに通じ合っていた。

蒼汰は気づく――初めて誰かと、自分の孤独を分かち合える瞬間かもしれない、と。


「また、明日も……ここに来るのか?」

千夏が小さく尋ねる。

蒼汰は少し考え、頷いた。

「ああ……もし君が来るなら」


 月明かりが二人を包み、湖は静かに二人の約束を映していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ