エピソード 桐壺の血
光源氏×桐壺帝のBL
葵巻〜賢木巻あたりの時間軸
桐壺院視点のワンシーン
源氏物語にない幻覚しかない
それでも楽しんでいただける方はご覧ください。
葵上が亡くなり、桐壺院の病がまだそれほど重くなられていない頃。これは光源氏と桐壺院、2人だけが知っている最後の話。
元に戻ることはできない。愛しい過去に戻ることなど…
彼が口火を切った。
「貴方に後見になれと言われるなんて…」
少しの沈黙の後、彼の声が響く
「皇子は私ではない。」
「…っ」
思わず目を見開く。
彼がはっきりとものを言ったのは、一体いつぶりだっただろうか。
そして、私は彼の姿を捉えた
ここには私と彼しかいない。
「貴方様が愛してくださった。それをずっと覚えておりました。」
「貴方様が中宮様を母君によく似ているとおっしゃったから!」
「…私はあの方を追いかけたのです。」
桐壺に抱かれていた、玉のように美しい赤ん坊。
桐壺の形見。
私は…
私は彼を見ていたか…?
後ろ盾がない中で懸命に生きていた彼を。
あの頃よりも近づいた視線が交わる。
「やっとこちらを見ましたね。」
彼の表情が痛く突き刺さった
心臓の鼓動も呼吸も忘れた
幼い頃からの彼の記憶が頭を巡る。
ただ彼を願っていた
それだけは…本当だった。
けれど…
それでも彼を美しいと感じるこの心は…まだ彼女のものだろうか…