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喧嘩

「わぁ、かわいい」

千代は新しい制服を着て喜んだ。自分が望んでいたふくだ。

「行ってきまーす」

と声を上げて家を出た。千代はルンルン気分だ。地下鉄の使い方はもう習ったし、大丈夫!千代はいつものになるはずの駅に行きいつものなるはずの電車に乗った。

「あ、もしかして一緒の電車?」

少し小さな声で澪奈が聞いてきた。千代はびくっとしてうんとうなずいた。

(こんなところで遭遇⁉)

千代はちょっとだけ息が詰まりそうになったのはなぜだろうと考えながら揺れる地下鉄に乗っていた。

「これから過ごす学校の歌・・・」

入学式。校長先生の話。誰もわからない校歌を歌わされて、その次国歌を歌わされて、歌うのはもうごめんだ。なんてかんがえていたとき。

「続いてはどうしてもやりたいというので先輩方のダンス部のダンスです」

と言ってみんな前髪を伸ばし後ろの髪と同じようにして後ろで止めている人たちが出てきた。そして今すごく有名になっている「ハーブ」という歌に合わせて踊った。目を捕らわれるほどすごかったけど千代はダンスはあまり好きじゃないのでダンス部に入りたいとは思わなかった。でもきっとダンス部はすごい人気になるだろうなと千代は思いながら澪奈を見た。澪奈はダンスなんか興味がないとでもいうようにそっぽを向いていた。千代はちょっとそれはひどいなと思って前を向いた。

入学式の後。先生の発表が長々と続き(全教科の先生が自己紹介してたから)、クラス分けがった。澪奈と同じクラスだったから、千代はほっとしたみたいだ。教科書が配られて、仮授業を1時限やっているとき千代は真剣に聞いているのに比べ、澪奈は全く聞いている様子がない。先生の言ったことだけノートに書いているようだ。

帰る時間。澪奈と千代は一緒に帰ったが、ほとんど無言だった。せいぜい、天気いいねとかダンスどうだったとか。それくらいの他愛もないこと。二人とも受験どうだった?とかは聞かない。そう親に教えられているからだ。ここまで少しはや走になってしまったが、ここからは大丈夫。

事件は次の日から始まった。その日、澪奈と一緒に千代が廊下を歩いていると突然声をかけられた。

「ここに入れたからって、いい気になっちゃだめよ。ふん。姉がいなくてお気の毒に。」

千代が振り返ると声の主は佐江だった。佐江は結構クラスでは有名だ。父親が有名な会社の部長で、姉はこの学校の卒業で超難関高校に入っている。しかし、佐江の噂はいいことだけではない。お金持ちで、家族と自分が優秀だからいつもお嬢様気質だとか、いじわるだとか。このしゃべり方からすると。その噂は本当のようだ。

「私はお姉さまにこの学校の勉強を習っているのよ。4月の月末テストは私が首位ですわ。」

佐江は太いみつあみを指でいじりながら去っていった。その後ろにまるでついていくかのようにすらっと細長い体がついていった。

(亜優美さん?)

亜優美はさんがつくほど大人っぽい。でも、誰一人としてしゃべっている姿を見たことのない人だ。亜優美は長くて真っ黒い髪をなびかせて、佐江についていった。佐江と亜優美が見えなくなったところで澪奈がやっと口を開いた

「じ、自慢したいだけよ。優秀一家だからそうなるのも、ね?千代ちゃん」

千代は呆然としていた。自分がそういうことを言われるターゲットになったことが何よりもショックだった。そんな千代に気づいた澪奈は何度も本気じゃないよと慰めるが、千代の耳には届かなかった。

翌朝、千代が支度を終えホームルームの準備をしていると澪奈がやってきた

「ねえ。やっぱりっていうかこの通りだけど佐江には近づかないほうがいいよ。あの子聞いちゃったんだけど意見が言えないような子を味方につけて、自分の地位を上げようとしてるの。勉強も教えてもらっているらしいわ」

千代はちょっと顔をしかめた。

「まあ、予想はしていたことだから」

澪奈がそんなことを独り言のように言いながら、自分の席へ戻っていった。

(てことはあの子も)

千代は端っこの亜優美へ首をぐるりと回した。名字が若村だから一番最後だ。亜優美は準備なんかすっかり終わって、読書をしている。今有名の「この声さく丘、あの声ゆく海」という本だ。完全に大人向けだから、中学生用とか小学生用もある。常用漢字じゃないものもたくさん使っているし、すごく字が小さくて意味のないこともたくさん書いてあってとにかく長い。千代は自分なら絶対に読めないなとそっと首を戻した。

(すごいな。変に扱われてもくじけずに我慢するんなんて)

千代は、亜優美を尊敬した。そして、佐江なんてこの学校にいなかったほうがよかったなんて少しだけひどいことを思ってしまった。

月末テストの日。

千代は早々悪い点数を取らないように、勉強を頑張っていた。まだどんな問題が出るかわからないから、いろんな問題を解いておかないといけない。

「はじめ」

先生の声が響いて、受験と同じような紙をめくる音がした。千代も紙をめくり解き始めた。

(なんだ簡単じゃん)

テストは千代が思っていたよりも、簡単だった。いくら難関校とはいえ、受験ほどテストは難しくないものだ。一方、佐江はところどころわからないところがあった。この学校であるあるの問題はすらすら解けたのだが、毎回変わるような問題は全く練習していなかった。

(どうしよう。これじゃあ、トップテンにも入れないわ。)

佐江はなにも言わない問題とにらめっこしながらいいことを思いついた。

(カンニングするのはどうかしら。席も近いし、亜優美とかだったら先生にばれない限り大丈夫だし)

佐江は隣の席にいる亜優美の回答へ目をやった。亜優美は佐江の視線にびくっとして筆箱で解答用紙を隠した。

(何よ。つまらないの)

佐江は自分のわかる限りで問題を解いた。

数日後結果が発表された。

1位 若村 亜優美 200 2位 柏 澪奈 195 2位 野村 千代 195

「え~そんなぁ」

千代はその結果を見て嘆いた。簡単な1問5点の計算を書き忘れてしまったのだ。

「私と同じだよ。私だって計算ミスしちゃったし。」

そこで千代は大事な人のことを思い出した。佐江だ。

4位 都々木 茜 192 5位 遠崎 華恋 190

千代の1組がたくさん並んでいた。ここの学校では1年生は受験結果、それ以降は前の年の年末テストの結果でクラス分けされる。月末テストの結果がどんなに悪くても1年は変わらない。千代たち1組は最高クラスで、4組まである。少し嫌な感じがするが、その人にあった学習ができるのでメリットがある。

10位 桜井 晴香 165 11位 橋本 佐江160

澪奈も千代も何だこりゃと思った。そりゃ、あれだけ自慢しといて11位なんて。1学年150人だから全然上のほうだが。

しかし、次の月末テスト。

1位 橋本 佐江 500 1位 若村 亜優美 500 3位 野村 千代 190

4位 遠崎 華恋 185 5位 柏 澪奈   180 6位 近藤 宇美 178

「えっ」

この前、11位だった佐江が1位になっていたのだ。澪奈は少し低い点を取っていたので、自分のことが悔しくて佐江のことなど頭になかった。

それは秘密があった。

「ねえ、あんたさぁ」

亜優美と二人になった佐江が大声を張り上げた。亜優美はびくっとして、縮こまった。

「私にテスト見せないってどういうこと?友達になったはずだよね」

「と、友達でも…」

亜優美が小さな声で何かを言った。

「聞こえませーン」

佐江はわざとらしく手を耳に当てた。

「友達でもテストは見せるもんじゃないでしょ。」

「それはそうと、10位よりも下なんてお姉さまにも両親にも怒られたわ。次回は隠さないでね。」

「じゃあ、私のお願いも聞いてくれますか?」

亜優美は静かに言った。

「ええ、お金ならいくらでも…」

「友達をやめてほしい」

亜優美は佐江が言い終わる前にいった。

「え」

佐江がショックを受けている間に、亜優美はすたすたと教室を出て行った。佐江は小学生の時、友達になった子にあんなことを言われたこのはなかったのだ。

ということで、佐江はカンニングをして100点をとったということだ。そんなことを知るはずもない千代たちは考え込むばかりだった。

次の日、クラスで席替えがあった。成績がいい人順に前になる。千代たちのクラスは35人だから、横5人縦7人になる一番前は右から佐江、亜優美、千代、華恋、澪奈

だ。みんなはこれがどういうことがわかるかどうかはわからないが、また佐江と亜優美が隣になっている。つまり、佐江はカンニングをしようと思えばできるということ。亜優美の心の中は佐江と隣になったことで心が真っ暗だった。

ある日のこと

「わすれものだ~たいへんだ~」

千代が、リズミカルに言いながら教室へと向かった。ちょうど校舎を出たくらいに宿題で使うノートを机に置きっぱなしにしていたことを思い出した。千代は、みんなが出てくる土間を逆向きに走って、誰もいなくなった廊下をスキップしながら来た。

「ねえどういうこと?」

「ひっ」

教室から、誰かの大きな声が聞こえてきた。だから、千代は驚いて小さな声を上げてしまった。千代は、こっそり教室をのぞく。教室には怒った顔をした澪奈とその澪奈を上目づかいで見る佐江がいた。千代の机にはちゃんと赤色のノートが置いてあった。

「ねぇ!あなたさあ、どういうつもりなの?」

「私の見方が欲しかったから…」

「だから、友達と言って弱い人を味方につけたの?」

「そういうわけじゃ」

「そういうわけでしょ。弱い者いじめよ。やめなさい」

佐江はうつむいた。

「それに、過度な自慢のやめたほうがいいわ。嫌われるよ」

「ごめんなさい」

佐江はついに謝罪した。

「私じゃなくて、亜優美さんとか味方につけてたみんなに謝りなさい」

澪奈はすたすた歩いて教室を出てった。

「あっ」

千代はすぐさま2組に隠れた。澪奈は千代には気づかずに行ってしまった。あ

「ああ、よかった」

「え?」

千代はしまったと口に手を当てたがもう遅かった。

「きいてたの?」

佐江がにらんできた。

「あんた。まさか私が本気で謝ったとでも思ってる?」

「え、あ」

千代は後ずさりした。そして、駆け足で外へ向かった。でも、自分が何のために教室に来ていたのかすっかり忘れていたから、また千代はちょっとしてからノートを取りに行った。

次の日から、千代はなんだか佐江の様子がおかしいことに気がついた。授業中も亜優美のノートをカンニングしたりしないし誰かにむかつくことを言ったりもしない。かといって、いいこと言うわけでもない。この前よりも小テストの点数が下がってたし、自慢は言わないけどほんとに何も言わない。授業中もぼーっとしててノートどころか筆記用具さえ出してない。そんな佐江に教師は最初は注意した。でも言っても何も言わずに座っている佐江にはもう何も言わなくなった。

{まさか私が本気で謝ったとでも思ってる?}

この前の佐江の言葉が千代の頭をよぎった。

(澪奈ちゃん。何を言ったんだろうか)

千代はそう思い、思い切って澪奈に聞いてみた。

「澪奈ちゃん、私この前の話聞いちゃったんだ。佐江の様子おかしいと思わない?何言ったの。怒ってるんじゃなくて知りたいだけ」

澪奈は、ため息をついた。

「私、あの子に悪いことは返ってくるよって言ったの。だから、謝って何もしないことにしたほうがいいって言っただけ。」

千代の頭の中の電球が光る

「じゃあ佐江は、澪奈ちゃんに怒ってじゃあ何もしないでやろうって?」

「みたい。あんなの成績悪くなるだけなのにね。」

澪奈は少しあきれたような口調で言った。千代は澪奈と一緒に帰ったが、二人はそれきり何もしゃべらなかった。

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