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31 愛の行方

「キャロライン……」


 自分の体にしがみつくキャロラインを、クロークはぼんやりと見つめる。キャロラインの体は震えているが、それでも必死にクロークにしがみついていた。


「クローク様、私はクローク様を見捨てたりしません。お義父様や他の皆さんたちのように、その瞳を呪われているだなんて思ってもいません。絶対にクローク様の側を離れたりしません。だから、お願いですから私の大好きなクローク様に戻ってください。本当は優しくて思いやりのある、あたたかいクローク様に戻ってください。お願いです」


 ぎゅうっとクロークを抱きしめる腕の力が強くなる。まるで、キャロラインのぬくもりがじんわりとクロークへ沁み来んでいくようだ。そのあたたかさを感じながら、次第にクロークの瞳に光が戻っていった。


 そっと、クロークの手がキャロラインの背中に触れる。それから、弱弱しくキャロラインを抱きしめ返した。


「キャロライン……。すまない、怖がらせてしまった」


 クロークの声音が先ほどまでの強圧的な声から、柔らかい声音に変わっている。ハッとしてキャロラインがクロークを見上げると、そこには悲しそうな顔をしたクロークがいた。そんなクロークを見てキャロラインはホッとし、ぶんぶんと首をふって微笑む。


「よかった、いつものクローク様ですね」


 目に涙を浮かべながらそれでも嬉しそうに微笑んでいるキャロラインを見て、クロークの胸は引き裂かれるほどの痛みを感じる。こんなにも悲しませ怖がらせてしまったのに、それでも自分を必要として微笑んでくれている。その事実に、クロークはめまいがしそうだった。


「すまない、ほんとうにすまない。キャロラインが父上に殴られてしまうかもしれないと思ったら、我を忘れてしまっていた」


 ぎゅうっとキャロラインを強く抱きしめる。それに応えるかのように、キャロラインもクロークを強く抱きしめ返した。


「……怖かったですけど、でもクローク様は私を守ろうとしてくださったんですよね。ありがとうございました」


 キャロラインの言葉を聞いて、クロークはそっと瞳を閉じる。あんな恐ろしい光景を見せられたにもかかわらず、それでも自分を助けてくれてありがとうと伝えてくる。拒否されていないという安心感と申し訳ないことをしたという罪悪感でクロークの心ははちきれんばかりだった。


 そっとキャロラインから体を離し、クロークはキャロラインの顔をじっと見つめた。キャロラインの瞳にはもう涙は浮かんでいない。紫水晶のような美しい瞳はキラキラと輝きながらクロークの顔をしっかりと映しこんでいる。


「キャロラインこそ、俺のためにあんなクソ親父へ啖呵を切ってくれてありがとう。驚いたが、本当に嬉しかった」

「あれは……気がついたら勝手に体が動いていました。どうしても納得がいかなかったんです。あんな酷いことを平気でクローク様に言ってしまえるだなんて信じられない。でも、クローク様にとってはきっとあれが当たり前だったんですよね?小さい頃からずっとあんな暴言を受け続けていたんですよね?そう考えたら苦しくて、どうしようもなくて……」


 キャロラインは苦しそうにぎゅうっと両目を閉じた。


「それなのに、頭を打つ前の私はお義父様と同じように、クローク様に酷い言葉を浴びせ、酷い態度を取っていました。私は、お義父様からあんな風に言われても仕方ないんです。私、クローク様にずっと酷いことをしていたんだって、クローク様が傷つかないはずないのに、辛くないはずないのに、そんなことも考えずにあんな、酷いことを、ずっと……」


 両目を開いてクロークを見つめるキャロラインの瞳には、涙がいっぱい浮かんでいた。その涙は、こらえきれずにポロポロと頬を伝っていく。


「本当に、すみませんでした。謝って済まされることではないですし、謝るのも所詮は自己満足だってわかっているんです。でも、それでも、謝らずにはいられないんです。あんなに酷いことを散々してきたこんな私を、クローク様は大切にしてくださって、とても嬉しいんです。嬉しいのに、辛い……こんな、苦しいだなんて……」


 ふわり、と窓から風が入ってきて、キャロラインのローズピンクの髪の毛が舞う。陽の光に照らされて、風に舞う艶やかな髪の毛がキラキラと輝いていた。目と顔を真っ赤にして一生懸命に思いを伝えようとするキャロラインのその姿が、クロークにはあまりにも美しくて眩しい。今にも目が潰れてしまいそうなほど輝いて眩しいのに、その姿を目に焼き付けてしまいたいとさえ思ってしまう。


 そして、いつの間にかクロークはキャロラインに口づけていた。


(!)


 キャロラインの両目が大きく見開かれる。涙が頬を伝って流れるが、クロークは唇を離さない。時が止まったかのように思えるほど部屋の中は静寂に包まれていた。


 そっと静かにクロークの唇が離れる。それからクロークはキャロラインの額に自分の額を合わせ、目を瞑った。


「キャロライン、いいんだ。あの頃の君は、君だけど君じゃない。前にも言ったが、あの頃の君のことは今でも憎いと思っている。だが、今の君がそうやって俺のことを考えて苦しんでいるだろう。そのことで、もうあの頃の君への憎しみはどうでもよくなった。俺にとって、今の君が大切で愛おしい。それだけでじゅうぶんなんだよ。だから、もう気にしなくていい」

「でも……」


 否定しようとするキャロラインを遮るように、クロークはキャロラインの頬へキスをする。優しく、啄むように何度も両頬へキスを落すと、キャロラインの両手を取って唇を寄せた。


「キャロライン、俺は今すぐ君がほしい。この溢れんばかりの思いを、君自身へ伝えたい。君が納得できるまで伝えたい」


 クロークの言葉を聞いたキャロラインの両目が、今にも落っこちてしまいそうなほど見開かれる。だが、すぐにまた辛そうな顔になり、否定するように首を振る。


「私は、自分に納得できません。あんな酷いことをしてきた私には、クローク様の思いを受け取って良い資格はないんです。それに……クローク様は少しずつ周囲の人たちに認められてきています。そのオッドアイを抜きにして、クローク様自身を見てもらえるようになっているんです。これから、きっともっと多くの人たちがクローク様自身を見て、クローク様の魅力に気が付くはずです。そうなった時、私はきっと必要なくなる……」


 そう言いかけて、キャロラインは言葉に詰まる。クロークの瞳が、先程までの甘い瞳から急にまとわりつくようなドロリとした粘着質な瞳に変わったからだ。その瞳は怒りも含んでいるように見えて、キャロラインの喉からひゅっと乾いた音がした。


「まだそんなことを言っているのか?俺の気持ちを受け取る資格が無い?馬鹿を言うな、俺の気持ちを受け取らないという資格が無いの間違いだろう。それに、君がいずれ必要なくなる?本気でそんなこと言ってるのか?こんなに愛しているのに?」

「それは……」

「俺には愛のなんたるかはわからない、きっとその思いも愛だと勘違いしているだけだとでも言いたいんだろう?君の考えそうなことはわかる。確かに、俺には愛というものが何かはわからない。このオッドアイのせいで誰からも愛を向けられることが無く、愛を与える相手もいなかったからな。だが、この気持ちが愛でないなら何だと言うんだ?こんなにも愛おしくて苦しくて失いたくない。ずっと一緒にいたい、離れたくない、笑顔を見たい、幸せでいてほしい、一緒に幸せになりたい。そう思うのは、これからもずっと君だけだ。これは俺にとって間違いなく愛だ。君を愛している」


 キャロラインの両手をきつく握り締めたまま、クロークは絶対に逃がさないと言わんばかりのまとわりつくような瞳でキャロラインを見つめる。


「残念ながら君に拒否権はない。それに、俺とずっと一緒にいると言ってくれたあの言葉はやはり嘘だったのか?君は俺に嘘を?」

「……嘘ではありません!」

「だったら、観念するんだな。どんなに君が俺に罪悪感を持とうと、不安になろうと、俺は絶対に君を手放さない。そんな罪悪感も不安も全て消し去るほどこの思いを伝えてやるよ」

 

 そう言って、クロークはキャロラインの両手に小さくキスを落してニヤリと笑った。それを見て、キャロラインは頬を赤らめながら諦めたように微笑む。その微笑みを見て、クロークはキャロラインへ顔を近づけ、鼻を摺り寄せた。クロークの美しいオッドアイがキャロラインを見下ろし、その視線にキャロラインの心と体は言いようのない高揚感に包まれる。


 そのまま、クロークはキャロラインへ噛みつくようなキスをした。



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