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7.破滅の売り言葉に買い言葉

 落ち着け、私。

 深呼吸だ。


 今のはハーマの苦し紛れの捨て台詞。


 血管が切れそうになるが、クールダウン。

 アンガーマネジメントだ(言葉だけなんとなく知ってて、中身は知らない)


 罵詈雑言に乗るにしても乗り方ってものがある。

 もう私の勝ちは揺るがないのだ。

 

 私はあえて聞こえていない振りをした。

 

「なんと仰ったのですか、母上。よく聞こえませんでしたが?」

「……恩知らずと言ったのよ! あなたをここまで育てたのは誰だと思っているの!?」


 あー、でたでた。

 なんかどこかで聞いたことのあるような言葉だ。


 いや、まともに育てる気なんてなかったでしょ。

 それをよくも恩着せがましく言えるもんだ。


 ちらっと王妃様を見る。王妃様も怒っているが、身体を引いてうまく存在感を消していた。うーん、見習いたい間合いの取り方だ。


 私とハーマの言い合いを、とりあえずは静観する構えらしい。

 これは多分……私の言えるところまで言ってみろ、ということだと理解しよう。


 私はあえて挑発するように、


「育てられた覚えがないから、私はこの家を出るのですけれど?」と言った。


 効果は抜群だ!

 ハーマの顔が赤に染まる。


「認めないわ! あなたは私のモノよ!」

「だから、そういう段階の話ではもうないんです。本当にわかっていますか? 耳が遠くなったのでは?」


 さっきまで虐げていたリリアに反撃されたのだから、自制も難しいのだろう。

 あるいはノルザとのやり取りを聞いていてすでに激していたのかも。

 声の調子も荒くなってきた。


「誰の耳が遠くなったですって!? やっぱりあの女の娘だわ!」

「私の母からも同じように言われたんですか」

「そうよ、あの生意気な女も……っ! ああっ、イライラする!」


 ハーマの血走った眼が私を捉える。

 彼女の眼には王妃様が映っていない。

 なんというヒステリーさ。ちょっと信じられない。

 王妃様はあえてそうしているのにハーマは気付いていない。


 そして私には気になっていたことが、ひとつあった。


 母の遺品についてだ。

 物心ついてから、母の遺品を私は見たことがない。

 数々のドレスや装飾品等があったはずだけれど、私の部屋にはひとつもない。

 かつてハーマに聞いた時には激怒され、聞けずじまいだった記憶がある。


 遺品はどこにいったのか。

 ……なんとなくだけれど、結末はわかっている。


 ノルザとハーマが母の遺品をきちんと保管している可能性はゼロだ。期待していない。

 きっと処分されてしまっている。残っているはずがない。


 考えると胃液が出そうだけど、多分そうなってしまっている。


 でも私の考えている通りなら……。

 話の流れがハーマのヒートアップでそれている。

 このタイミングでなら、もうひとつの爆弾を仕掛けることができるかもしれない。


「母上は私の母が嫌いだったんですね……」


 私はあえて弱く見えるように演技した。

 王妃様からしたらバレバレだろうけど、今のハーマにはわからないだろう。


 ハーマの性格は熟知している。弱い者に強く出たがりの性格だ。

 こうすれば口を滑らせるかもしれない。


「もちろんよ。今わかったの!?」

「だから私の母の遺品も処分したんですか?」


 ノルザがぎょっとした。

 その反応で確信する。やっぱりだ。

 母の遺品は処分したのだろう。悔しいけれど、予想通りだ。


「そうよ! あの女の遺品なんて、残しておくわけないでしょう!」

「……ハーマ!!」


 ノルザがハーマの肩を掴んで叫ぶ。

 

 言った。

 ハーマが自分の口で言った。


 私の母の遺品は残していないと。

 でもそれは今、言ってはいけなかったはずだ。

 ノルザは遅かったが気付いた。


「遺品を全部、処分した――と?」

「あっ――」


 気配を消していた王妃様がゆらりと身体を揺すった。

 それだけで空気が変わる。極寒の吹雪の中にいるようだった。


 ハーマもやっと気付いた。

 母と王妃様の関係を考えれば、遺品には王妃様からの贈与品もあったはず。

 あるいは学院時代の思い出の品もあったかもしれない。

 だけどハーマは今、それを処分したと言ったのだ。


 ハーマの顔が一気に青白くなる。

 馬鹿め。やっと発言の重さに思い当たったか。


 でも聞いてなんだけど、私の手も震えている。

 

 やっぱり。予想はしていた。

 この女が母の遺品を残しておいてくれるはずがなかった。


 でも、でも。

 怒りと悔しさでどうにかなりそうだった。


 王妃様も今の私と同じくらい怒っていた。


「セバス、私の記憶が確かなら……私はシャーレに相当数の品物を贈与していたわよね?」

「はい。王室の出納簿を確認すればしかと記載されているはずです」

「……それをこの女は、処分したと? 仮にも王家からの贈与品を全て? おかしいわね。そんなこと、あり得るのかしら?」

 

 その通り。

 仮にも王家からの贈与品を処分するなんて、あり得ない話だ。

 だってそれは王家を軽く見ている証明にしかならないから。

 

 基本的に王家からの贈与品はその家で代々継承することが求められる。

 なので通常は王家から確認なんてしないのだけど……。

 もしどうしても不要なら、王家へ献上という形で返却するのが次善の方策だ。


 私の母は嫁入りの際、王家からの贈与品リストを作っていたはずだ。

 もちろんノルザも把握しているはず。そして万が一の際にはリストをもとに、贈与品をどうするか決めないといけない。


 それを、このハーマは。

 母憎しの感情から全部処分してしまったのだ。

 

 それがどんな意味を持つかわかっているだろうにね。

 どうせうやむやに出来ると思ったのかしら。


 でもハーマが私を舐めてくれたおかげで、全てがわかった。

 予想通りであって欲しくはなかったけれど。


「うっ……」


 ハーマが顔を伏せて震えている。

 ノルザもハーマの肩を掴んでうつむいていた。


 さぁ、もう終わりにしよう。

 このどうしようない茶番に幕を引くのだ。


「王妃様、どうやら母上は御病気のようです」


 ハーマのことを母と呼ぶのは、これで最後だ。

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