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6.誠意のない言葉

「ハーマを信じて、お前を見てやれなかった。

 すまなかった」


「…………」


 なんという薄っぺらい言葉だろうか。

 全然胸に響かない。


 むしろ殴ってやりたいくらいだ。

 この数年に及ぶ仕打ちを『すまなかった』の一言で許せるわけがない。

 それにノルザは何に対して謝罪したのだろうか。釈然としない。


「そのすまなかった、というのは誰の何についてですか」


 さらに聞かれるとは思っていなかったのだろう。

 ノルザが口をぱくぱくさせる。


「それは……お前が病気だというハーマの言葉を信じてしまった。

 もっと私がきちんと向き合うべきだった」


「では、私が病気でないと父上は認めるのですね?」


 一瞬、しまったという顔をノルザがした。


「い、いや……ハーマからは色々と聞いていたが、きちんと病状を把握していない。 

 そういう意味だ。病状も年月とともに変化するからな」


 私はまたも怒りが沸騰しそうになった。

 この期に及んで、まだ小賢しい責任逃れをしようとしている。


 つまり私はやっぱり病気で。

 過ちがあるとすれば、きちんとした治療を受けさせていないことだけ。


 ノルザはそう言い逃れしたいわけだ。

 だから私は強い意志で王妃様に呼びかけた。


 その言葉を逆に利用してやる。


「王妃様、私はやはり病気みたいです。

 しっかりとした――例えば王家のお医者さんに診てもらう必要があるかと思います」

「そ、それは……っ」

「父上も今、認めましたよね。私の病気をしっかりと把握していないと」


 王妃様の目つきが鷹のように鋭い。

 彼女もノルザの言葉に怒っているのがわかった。

 

「そうね、確かに聞いたわ。これは由々しき発言よ。

 父として失格じゃないかしら」


 ノルザが唇を嚙む。

 何を言っても所詮、彼の言葉はその場しのぎでしかない。


 なぜなら。

 目の前の男はとうの昔に私の父であることをやめた。

 私は知っている。彼はもう、私を愛していないのだ。

 偽りの優しさしか残っていない。


 そうなったのはいつの日だろうか。

 私の母シャーレが死んだ日か。ハーマが後妻になった日か。あるいはマリサが生まれた日か。


 ずいぶんと気づくのに遅れてしまった。

 愛されなくなったのだと。

 いや、前世の人格が同期しなかったらずっと気づかなかっただろう。


「父上、私はこの家を出ます」

「…………」


 お世話になりましたという言葉さえ口にしたくない。


「王家に入るということは、フェレント公爵家の後継ぎではなくなるぞ。

 それがどういう意味か、わかっていない」

「わかっています。この家に未練はありません」

「……今は王妃様が後ろ盾にいるからいいかもしれん。

 だが、王妃様がいなくなったあとは? お前はひとりぼっちだぞ」


 それは脅迫だった。

 お前の考えは浅はかで、上手くいかない。

 だから俺に従え――そのほうが賢い。


 愛情に満ちた泣き落としのほうがまだマシだった。

 そう思えるほどに滑稽だった。


「ご心配なく。私は私でしっかり生きていきます。少なくともこの家よりはずっといいです」


 そもそもこの家にいても破滅する人生が待っているだけだ。

 それに人生が平坦でないことくらい、知っている。

 もう私にはそれだけの経験があるんだ。


 世界は違うが私のほうがノルザより年上だ。

 ノルザは20代半ば。私は前世で死んだときはアラサーだった。

 日本でそれなりに長く生きてきたんだから。

 大人の男の嘘を見破る知恵くらいはある。


「もし不服なら貴族裁判所に駆け込みますか」


 貴族裁判所は滅多に利用されることはないが、貴族間の揉め事を処理する司法機関だ。貴族専用の民事訴訟と思ってもらえれば間違いない。

 養子縁組や継承などの問題はここに持ち込まれる。


 だが、ここの扱いになること自体がノルザには恥のはず。

 公開法廷で審議されるのを好む貴族はいないからだ。


 でも私は闘う。

 破滅ルートを歩むくらいなら裁判なんてへっちゃらだ。


「……お前」


 娘のしっかりとした決別にようやくノルザが事態を認識したようだ。

 私と王妃様の決意は固い。覆ったりはしない。


 ノルザが悔しそうに眉を寄せる。もう彼には材料がない。

 私が養子に出るのを認めざるを得ない。


 勝った。


「恩知らず」


 ……なんですと?

 信じられないような言葉が耳に飛び込んできた。

 この期に及んで暴言を吐いたのは、これまで黙っていたハーマだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >王妃様がいなくなったあと これ、かなり不敬では。 おとんと同世代の王妃の去就を口にするってことは、王妃を害するつもりがあると言っているようなもんでは。 王家と王妃の実家に、逆におとんが叩き…
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