43.試練のその後
「んんーん……」
ゆっさゆさ。
心地良い揺さぶりを受けて、意識が戻ってきました。
「あ、起きた?」
「……んぅ」
「まだみたいだね。でも大丈夫だよ。もう幽霊はいないから」
これは――フェルトにおぶられています。
かなりのガッツと体力ですね。
気だるい頭で周囲を見ると、確かに幽霊はいません。
フェルトが草と泥を踏み分ける音だけです。
遠くに見えた輝く門も今はかなり近く、ここまで私を背負ってきたフェルトの苦労を察します。
というか、よく背負ってこれましたね。
「重くない?」
「軽すぎるくらいだと思うけど……。もっと食べたほうがいいかも」
「そんなに……?」
フェルトが体力お化けなだけでは?
王妃様と陛下は線が細く、人並外れた体力があるとは思えません。
あの大叔父様は熊のような体格ですが、フェルトはそっちの血が濃いのかも。
「あれから、フェルトは大丈夫だった?」
「うん、僕は全然平気。にしてもリリアって本当に凄いね! 持ってた短剣から火の鳥がばーっと出てきて、あのでっかい幽霊も一発で倒しちゃった!」
フェルトは興奮気味です。
それでもあまり揺れないので凄いのですが。
「あんなの近衛騎士の訓練でも見たことないよ、本当に凄い!!」
「……あれはローラ先生のせいだと思う」
「え? なんで?」
倦怠感が抜けて、頭が冴えてきました。
多分ですが、ローラ先生から渡されたあのブレスレットは……他の魔道具と協調し、性能をさらに引き出すものではないでしょうか。
しかも、もっと高年齢向けの魔道具な気がします。
八歳に持たせるにしては破壊力がありすぎますもの。
花火どころじゃありません……。重火器なみの火力でしたし。
私の推測を伝えると、フェルトも同意して頷きました。
「ローラ先生なら、やるかもね」
「ね、まったく……」
用意周到というかぶっ飛んでるというか。
おかげで幽霊を倒せるきっかけにはなりましたが。
「もう大丈夫だよ」
「本当に?」
門が近づき、私の体力も戻ってきました。
さすがにフェルトにおぶられたままなのは、受け入れらせません。
というわけで降ろしてもらい、輝く門の前に立ちます。
「ここが出口だよね……」
「うん、ここ以外にそれっぽいのもないし」
そこまで不親切だと打つ手なしです。
ここは試練の製作者さんを信じましょう。
ふたり揃って、手を繋ぎながら輝く門に入ります。
視界を覆いつくほどの閃光。目を閉じても、まぶた越しに光が満ちていきます。
全身に温かさを感じながら、私は声を聞きました。
『見事なり。大いなる火の印を与えよう――』
はっと目を開けると、私たちは薄暗い石造りの門の前に立っていました。
孔雀の水晶像が両脇に鎮座しています。
「……戻ってきた?」
「みたいだね」
足元には森の中にぽいーっとしたコンパスやらが散乱しています。
どうやらゴミも送り返されたようです。
そして私たちの前には王妃様がいました。
離れていたのはちょっとした時間だったと思いますが、目に見えるほど憔悴しています。
「ふたりとも……! 帰ってきたのねっ!」
「むぎゅっ」
「ふぎゅっ」
ふたりいっぺんにぎゅーとされます。
王妃様の優しい匂いに心がほっとし、力が抜けていきます。
「大丈夫だった? 怖くはなかったかしら? ケガはないわよね?」
「母上、大丈夫ですよ」
「私も……。心配させちゃいましたね」
「いいのよ。ふたりが決めたことだから」
王妃様の声と身体が震えています。
本当は心細かったのでしょう。
私は王妃様の背をぽんぽんと撫でます。
前世と合わせたら私のほうが彼女より年上ですからね……。
「印もちゃんともらってきましたし」
フェルトが右手の甲を王妃様に見せます。
小さな魔力が流れ、鳥の紋章が浮かび上がります。
私も同じようにするとほのかな温かさと一緒に手の甲に印が浮かびました。
「印まで……じゃあ、本当にやり遂げたのね。さすがは私たちの子だわ!」
もう一回、ぎゅーっと抱きしめられ。
このちょっとした苦しさがとても愛おしいのです。
それから私たちは王宮に戻ったのですが……念のため、宮廷医の診察を受けます。
まぁ、どこにも異常なしということで一安心。
あとは割とひどい恰好だったので、着替えて化粧直しをして――。
パーティーに乗り込む算段を立てます。
そこに大叔父様とローラ先生もやってきて、試練突破を喜んでくれました。
私とフェルトは大叔父様に高い高いされます。
ちなみに結構高速の高い高いです、はい。
「がははっ、こりゃめでたい! いやぁ、長生きはしてみるものだ! ふたりのこと、誇りに思うぞ!」
で、高い高いをされる中でローラ先生と目が合ったのですが。
ふふっと微笑んで唇に人差し指を立てていました。
魔力を使った痕跡でも読んだのでしょうか。
あのハイパワーな魔道具のことは秘密ということらしいです。
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