40.怖い森を駆け抜けます!③
「この光のある場所が安全地帯になるんだと思う。次はあそこで、あそこについたらまた次があって……」
「それでどんどん先にいくわけだ。じゃあ、多分……次の次が勝負所だね」
「どうして?」
「そこに幽霊の王がいるんだ。幽霊の王はとっても大きくて、腹ペコで……森に入った人間を待ち構えてる」
真に迫ったフェルトが私の隣に座り、微笑みます。
雰囲気の出ていた演技ですが私は怖くありません。
「僕はとっても怖かったけど、リリアは違うんだね」
「だってこれは本物の幽霊じゃないもの。魔道具の影みたいなもので……あの小鳥さんと同じだもん」
「僕も最初は怖かったけど……リリアを見て、落ち着いた」
そこで何を思ったか、フェルトが上着を脱ぎ始めました。
突然のことに私はびっくりです。
「な、なにしてるの!?」
「暑いし、腕の部分が動かしづらいんだよ。んーっ!!」
確かに剣を振り回すフェルトにはそうなのかもですが。
にしても、そんな目の前で――って、私たちは八歳です。意識するほうが馬鹿でした。
フェルトは一番上の上着を放り、シャツだけになりました。
私が見た中で一番身軽なフェルトです。
彼は剣を持って腕をぐるぐるさせ、満足そうに頷きます。
「……うん、これでよし!」
「楽しそうね……」
「そんなんじゃないけど……」
なんだか伸び伸びしています。まぁ、わからなくもないですけど。
今は私たちだけです。誰にも邪魔されず、干渉されません。
「フェルト、そうしたら荷物もいらないのは置いてきましょう」
「あっ、いいね! でもゴミにならないかな?」
王宮でゴミをポイ捨てする人を見たことがありません。
多分、王妃様が許さないのでしょう。なにせお披露目パーティーでも掃除係を十人も配置するくらいですから。
私も荷物を置き去りにするのは心苦しいですが、今は緊急事態です。
ちょっとでも身軽に、というフェルトの意見は正しいので。
というわけで私は胸を張ります。
「次も試練に挑むのは私たちだし、その時に回収すればいいのよ!」
「おおー……それもそうだね」
「そうそう。ハンマーとかロープとかいらないんだから!」
ぽいぽいーっと。
鞄を重くしているモノとはさよならです。
「……ビスケットは?」
「食べ物を捨てるだなんて、とんでもない! それは食べますっ!」
クスクス笑うフェルトが自分の鞄からビスケットの入った袋を取り出します。
彼は袋からビスケットを手に取ると、私の口元へ持ってきてくれました。
手慣れた動きです。おとなしく食べてあげます。
供給されるビスケットをもぐもぐ。
悲しいのは私の胃袋です。
パーティーでそこそこ食べた気がするのに、するするとビスケットが入ります。
だって美味しいんだもの。
緊急用のビスケットですら、王宮製は一味違います。
濃厚なバターとバニラが頭を直撃します。
「もぐもぐ……。あっ、フェルトはいいんですか?」
「もう結構食べてるよね?」
「だってどんどん差し出してくれるから……」
「まぁ、僕はいいよ。リリアの体力のほうが大切だし」
私はじぃっとフェルトを見つめて――差し出されるクッキーを手で奪いました。
「えっ?」
そのまま私はフェルトの口元に奪ったクッキーを押し付けます。
「はい!」
「……リリア」
「フェルトの体力だって大切だから!」
強い意志でそう言うと、フェルトが首を伸ばしてクッキーを食べてくれます。
初めてお世話する側になりました。なんだかちょっとした達成感です。
もっもっ……と食べて、全身で嬉しそうだけど控えめ。
こうしてみると、なんだかフェルトは犬っぽい気がします。
小さな耳と尾が心の眼で見えるのです。
こうして残ったクッキーをフェルトにあげて、不要な品物は置くことにして。
お互い、体力的にも万全です。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
いざ、森の奥へ。試練再開です。
不思議な空間だって、ルールがわかれば対処できます。幽霊に捕まらず、捕まったら攻撃して振り払う。
そうして光のある所まで一直線に進む。これだけです。
……。
ひとつだけ、心配なことがありますが。
この森はフェルトの恐怖が具現化したものだと思います。
それは彼も認めていました。
じゃあ、私の恐怖は?
この試練のどこかに私の恐怖は、あるのでしょうか。
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