4.状況確認をするラスボス
そして私自身の状況の全てを王妃様は聞いた。
王妃様はどう反応されたか。
ブチギレですよ。
いや、表面上は怒ってないけど。雰囲気がめちゃくちゃ怖くなった。
ついでにセバスさんも怒っていた。
自分の代わりに怒ってくれるということに、今更だけどありがたみを感じる。
どうやら私の教育について、王家からも色々な要請がフェレント家にあったそうなのだ。考えれば当然だ。
魔力が強くて王家にも近い公爵家の長女。その育成にはしっかりとした計画があってしかるべきだ。適当に育てていいわけがない。しかもそれだけでなく、育児放棄に近いマネなんて許されない。
でもハーマは王家からの申し送りを無視した。
王家からすれば非常に心証が悪い。それも異母妹のマリサを優先してのことなのだから、舐めてんじゃねーぞって感じだ。
ハーマの横暴を黙認したのだから私の父であるノルザも同罪だ。
彼もマリサが可愛かったのだろうか。多分、真相はもっと違う気がする。
前妻の子である私を引き立てれば、ハーマはヒステリーを起こすだろう。それを回避するために虐待を認めたんじゃないだろうか。
後妻のご機嫌と私という存在を天秤にかけて、前者が勝っただけのこと。
情けない。だから今の私はノルザも父と思っていない。あんなのは父親失格だ。
王妃様とは今後の話もたっぷりした。
「大切なのはリリアちゃんの気持ちだから」
そう何度も前置きし、丁寧に私の気持ちを汲み取ってくれたのだ。
この世界における子どもは基本的に親の道具でしかない。体罰は当然あるし、子の意志を尊重する親は滅多にいない。
それについては思う所があるけれど覚悟もしている。貴族の家に生まれた以上、自由気ままに生きることは許されない。だけどそれなら、最低限まともに育てろと思う。瘦せ細って家庭教師による教育もなし。客観的に見て、詰んでる。
前世の人格が同期した以上、私はこんな境遇からは抜け出したい。それを強く主張する。
「なので、この家から出られるならどんな条件でもお受けします」
「……しっかり者ね。ちょっとしっかりしすぎてるかも」
そうかもしれない。
でもこのぐらいの強い意志がないと、ここから先も駄目な気がする。
セバスさんが紅茶を注ぎながら王妃様に進言する。
「王妃様、シャーレ様もかような方であったかと」
「確かに。あの子もおっとりしているようで頑固、意志が強い子だったわ」
扇を扇いだ王妃様が私の髪を撫でる。とてもやさしい手付きだ。
「あなたは私の子になるけれど、大人になったら自由よ。王家に縛られたりする必要はないわ。思うがままに生きていいの」
随分と都合の良い話に聞こえる。
でも王妃様は真剣だ。それだけ私のことを気にかけ、自由にさせようとしてくれている。
あくまで自分は養母であると王妃様は仰りたいのだろう。
しかしこの数時間で私は王妃様に魅了されていた。
――格好いい。
こんなふうに生きられたら。
決められた運命を跳ねのけて、王妃様のように自立できたら。
きっとこの世界に生まれてきた意味を実感できる気がする。
王妃様のように強く、生きたいなぁ。
遥かに遠そうな道のりだけれど、私はそう思ったのであった。
夕方になり、ノルザが屋敷へと戻ってきた。
王妃様はその報を聞くなり、私の手を握りしめて悠然と当主の間へ向かった。
絶対に私を離さないという頼もしい意志を感じる。
当主の間にはハーマもいた。昼間の時よりも落ち着いて見える。私に向けてくる憎悪の視線さえなければ、まずまずの淑女っぷり。でもバレてますからね、それ。
王妃様も当然剣呑な視線に気づき、顎を引いて警告する。ハーマは慌てて視線を引っ込めた。
「王妃様におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」
ノルザとハーマが王妃様に頭を下げて挨拶した。
王家に対する流れるようなプロトコルの一環である。
……。
たっぷり数十秒もそのままだった。
あれ?
本来ならここで王妃様が「苦しゅうない。面を上げよ」等と言うはずだ。お茶会などとは違い、今は準公的な会合なのだから。それが正式な流れ。
でも王妃様は何も言わなかった。ただ、黙っていた。
当然、こんな流れは知らない。ノルザとハーマもそうだろう。
ひえー。こんなことされたら心臓がきゅってなっちゃうよ。
許しがないのに下げた頭を戻すのは非礼に当たる。いや、ずっと頭を下げさせるのも非礼なのかもだけど。
「フェレント公爵、形式的な挨拶は不要よ」
「……は」
「用件はただひとつ。リリア・フェレントは本日をもって当家の養子とします」
王妃様の要求はストレートもストレートだった。
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