39.怖い森を駆け抜けます!②
幽霊の腕がどういうモノなのか。
それは霧よりもずっと実体のある腕でした。
マズい――。力が強くて、振り払えません。
腕を思い切り引き剝がすしかなくて。でも後ろからは幽霊の大群がやってきます。
「頭を引っ込めて!」
フェルトが剣の柄に手を添えています。
まさか……幽霊を斬るつもり?
でも選択肢はありません。亀のように首を引っ込めます。
フェルトが一閃し、幽霊の頭部を横薙ぎにしました。
『うっ、ううっー!!』
苦しそうに叫ぶ幽霊。同時に私を押さえていた腕がふっと霧散します。
「はぁっ、はぁ……!」
「やった! 走れる、リリア?」
フェルトが剣を持ったのとは反対の左手を差し出してくれます。
息を整える時間はありません。私は彼の手を取り、走り出しました。
幸い、幽霊の追ってくる速度はさほどでもありません。
しかし横からも幽霊が飛び出してきます。
「はぁっ!」
それをフェルトが再び切り払い、先への道を確保してくれます。
「あ、ありがとう……!」
「でもこれじゃ、いずれ追い詰められちゃうよ!」
フェルトの言う通りです。
どこか安全な場所がないと……フェルトは幽霊のいないルートを通り、飛び出してくる幽霊を斬るので精一杯。
私がなんとか左右を確認していると、右に光が差し込む場所がありました。
葉と枝が途切れ、明るくなっています。
「フェルト、右! 光のあるところに行こう!」
あそこにいって助かる保証はありません。
でもここで鬼ごっこを続けるよりはマシでしょう。そう信じるしかありません。
なんとか転ばないよう、息を切らせて光の差し込む場所へと走ります。
枝を振り払って辿り着いたのは――小さな川と苔むした倒木の広場でした。
「ふぅ、ふぁ……」
「……はぁ、はぁ、明るいね」
「うん、幽霊もいないみたい……」
後ろに迫っていた幽霊のうるさい足音も気配も消えています。
光のある場所には近づけないのでしょうか。
「魔眼王の旅でも、こういう光のあるところで主人公は休んでたね」
「えっ? そ、そうだっけ」
「うん。だからリリアもここに走るよう言ったんじゃないの?」
首を傾げるフェルトに慌てて首を縦にぶんぶん振ります。
正直、単なるラッキーだったとは言えません。
「無我夢中で……! はぁ、よかったぁ」
「本当にね。ふぅ……ちょっと休もうっか」
走るのを止めるとどっと疲れが襲ってきます。
私はなんとかよたよた歩きで倒木に腰掛けました。
息をすーはーして整え、周囲を観察します。
幽霊は確かに近寄ってきませんが……油断は禁物です。
足元の小川に靴をひたして泥を洗い流します。
全て魔道具の虚像のはずですが、綺麗になっていきます。
「……これからどうしよっか」
フェルトが鞄から水筒を取り出し、ごくごくと飲み干します。
それが終わってから彼は私の背後を指差しました。
「あっちの方向にまた光が差してるよ」
「どこ……? 見えない」
「あそこ。ちょっと待って」
フェルトが私のそばに来て、顎を持って頭を動かします。
ぐいぐい。痛くはないですが普段はない強引さです。
顔の位置を微調整され、じーっとフェルトの指先を目を細めて見つめて。
ようやく見えました。確かに光の差し込んでいる場所があります。
「やっと見えた。でも、あそこがゴールなのかな」
「僕たちが森に入ってきた方向と逆だから、いいはずだよ」
なんという有能さ。私は走るのに精一杯だったのに。
彼はきちんと進行方向を覚えていました。
「それよりも幽霊に掴まれて、どうだった?」
「力が強くてびっくりしちゃった。……本当に助けてくれて、ありがとう」
「気にしないで。僕のほうこそ、ここを教えてもらったしね。おあいこだよ」
「うん、おあいこ。でも、あの幽霊は……」
私の声音にフェルトが頷きます。
「力が強いってことは、掴まれると動けなくなるね」
あの幽霊がうめき声を出して追いかけてくるだけなら、逃げる必要はありません。
だって所詮は作り物なのですから。幽霊っぽい何かであって、幽霊ではありません。
でも実体があるということは、私たちを捕まえることができるということ。
もし何十体もの幽霊に掴まれたら動けません。終わりです。
けがをしなくても、時間経過でゲームオーバーになります。
「幽霊に捕まらず、走り抜けなくちゃ」
ようやくこの試練のルールがわかってきました。
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