38.怖い森を駆け抜けます!①
内側の道の雰囲気は外の通路と似ています。
石造りが続いていました。
ただ、壁に付与魔法の刻印がされて青白く光っています。
この空間全体が魔道具のようです。
だとすれば、どれほど大掛かりなのでしょうか。
ごくり……。
怖くはないとはいえ、雰囲気は出ています。
風がびゅうっと奥に吹きました。髪を押さえます。
「きゃっ……」
「どうして奥に向かって風が……?」
「うーん……風の方向がゴールだと知らせてくれてる?」
「なるほどね、そっか」
「危ないことはないって言うし、行きましょう」
陛下と王妃様が仰るには、火の試練に危険はないのだとか。
転んだり壁に激突する類のケガはあり得るでしょうが……。
考えてみれば、この試練は王族しか受けることができないもの。
そんな危険なものにするわけがありません。
とはいえ、ランタンを持っていなければ暗すぎる道です。
十歳にとってはかなり過酷な道の気もします。
道は右に曲がったり左に曲がったりしますが、一本道です。
迷うことなく進めはします。
「今のところは大丈夫、だね」
「……うん」
道はずっとずっと先まで続いています。
歩くだけですが、門の入り口からは着実に遠ざかって……。
夏の熱気が風によってかき消され、ちょっと肌寒い。
冷気がどこからか入り込んでいる気がします。
「あっ……この先、広間みたい」
「本当だ」
石造りの壁を超えたところ。
そこにあったのは鬱蒼とした森林でした。
地下通路にいたはずが、私たちは森の中にいるのです。
地面は土と泥にまみれ、樹上が見えない大木がずっと続いています。
葉は毒々しいほどの緑色で、曲がりくねった根は人を不安にさせます。
匂いもむせるほどの森林と沼です。全てが森でした。
「ごくっ、これって……森だよね。偽物のはずだけど、そう見えない」
「この森ってもしかして……」
フェルトがじっと大木を見つめます。
「絵本で見たことあるかも」
「この森を? じゃあ、フェルトは知ってるんだ」
それを聞いて、ほっとします。
ネタが割れていれば怖いことはありません。
木漏れ日のほとんどない森の中を進みます。
足元がべちゃべちゃしているのが気持ち悪いですが――これは幻です。
気にすると負けです。
「……うん、僕が読んでて一番怖かったところ。魔眼王の旅っていう絵本で」
「あ、それって私も読んだことがあるかも」
私は絵本というよりは子ども用の歴史入門書として読みました。
エンバリー王国の童話で……まぁ、内容は児童書です。
不思議な瞳を持つ王子、のちの魔眼王が諸国を旅してまわるとか。
その伝説的な王がエンバリー王家にも繋がっているとかで……。
史実っぽいところは覚えていますが、冒険譚の部分は結構あやふやです。
「ここは森だから、ええと……」
「死の森」
「そうそう、死の森を旅するところだ!」
ばさりと大木の枝が揺れます。
大きい、何かが。樹木の後ろにいます。
「思い出してきた。そこには幽霊がいるんだよね」
「うん、そう……恐ろしい幽霊がたくさんいるんだ」
鼓動が不規則にどくどくと鳴っています。
がさがさ、ばさっ。
何かが茂みと枝の向こうにいて。じっとりと視線を感じます。
ばちゃばちゃ。
泥の上をたくさんの脚が駆け回って……土がめくれ、匂いがきつくなります。
一旦、気になるとずっと気になりませんか。
それは……それらは確実に私たちの周りにいます。
「その幽霊は人を食べちゃうんだって」
フェルトの声も緊張しています。彼にもわかっているのでしょう。
何かが私たちの周りにいるのです。
その気配と騒がしい物音が近寄ってきています。
最初よりもずっと近い……。
「ねぇ、リリア。合図をしたら走ろう」
「……わかった」
言った瞬間、たくさんの青白い手がぬっと森の中から出てきました。
わかっていても、びっくりするものはします。
『あ、ああ、あ』
『うぅ、いぃぃ……』
ゆらゆらと揺れる煙のようなそれらは、本当の幽霊のようです。
だらしなく開いた口からは恐ろしいうめき声が漏れています。
「走ろう!」
「うんっ!」
作り物だとわかっていても、恐怖はします。
フェルトの顔も青白くなっていましたし……多分、私もそうです。
息を切らせながら、私たちは森を走ります。
幽霊は思ったよりも遅いようです。すぐに追いつかれはしません。
でもうめき声は途切れず、森のあちこちから不気味な音が響きます。
こ、こういう路線で来るなんて……っ!
ちょっと予想外です。
走るのは当然フェルトのほうが早いのですが、彼は私の隣にいてくれます。
「気をつけて、横にもいる!」
「……あっ」
走っていて思考が散っていたせいでしょうか。
幽霊の腕が私の前に突き出ていて。
避けられません。
私の身体に冷たい腕が絡みついて、押さえつけようとしてきます。
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