33.午後が始まります
パンケーキを食べ始めて、私の精神力は回復しました。
やはり無自覚に疲れていたみたいですね。
ハイになっていたから気付かなかったのでしょう。
「はい、どうぞ」
そして燕尾服のフェルトに私はあーんされてます。
ドレスが汚れるかもだから、ということらしいですが……。
確かに今のドレス姿の私では、パンケーキを切って食べるのは難易度が高いかもです。可動域が狭いので、汚さない自信はありません。
でも彼はどうしてこんなにも元気に私のお世話をするのでしょう?
疑問です。
「……あむあむ」
でも食べちゃうんですけどね。
おとなしくお世話されます。
「次はクリームの乗っている部分にするね」
「んむ! はいっ!」
彼のお嫁さんになる人は幸せです。
お嫁さんにも子どもにもきっと世話を焼くでしょうから。
にしても、彼は私よりもずっとタフみたいではあります。
この辺りは見習わないといけません。
で、パンケーキとジュースを注入したらまた挨拶回りです。
今度は家族全員揃って、諸外国の方々のところへ参ります。国外の方々なので、気を引き締めなければ……と思ったのですが。
「いやはや! さきほどのお披露目、本当に驚かされました。これでエンバリー王家も安泰でしょうな」
すでに場は温まっていて、良い雰囲気です。
陛下がまんざらでもない顔で受け答えをします。
「いやはや、なんの。これからが肝心でございましょう」
「はっはっは、ご謙遜を!」
私はとりあえずニコニコして、挨拶するだけでいいみたいです。
さきほど必死になってダンスした甲斐がありました。
王妃様はというと、外国語を駆使して諸外国の方に応対しています。
『王妃様、かような娘ができて楽しいのでは?』
『あら、お分かりになりますか?』
私は通訳を介して聞いている状態ですが、王妃様恰好いい……!
いつか私もこんな風に外国の方とやり取りしたいものです。
そうこうしているうちに、昼食の時間になりました。
大広間に料理が続々と運ばれてきます。
事前に聞いてはいましたが、中でも牛のもも肉の炙りは圧巻です。
私の背より大きなもも肉が吊るされ、ドネルケバブのように提供されます。
その香ばしいソースと肉の誘惑は貴族でさえも抗えません。
海の幸としては牡蠣でしょうか。産地より直送され、焼き牡蠣として提供されています。エンバリー王国では港は少ないので、牡蠣はご馳走です。
ふぅ、私のお腹にパンケーキがなければ危ないところでした。
今は何も入らないのでセーフです。
午後をちょっと過ぎた頃。
陛下が私たちに合図します。
「さて、また国内の諸侯へ挨拶に行かなくてはな」
「疲れてないかしら?」
「大丈夫です!」
「はい、僕も。まだまだ元気です」
実はこのお披露目パーティー、深夜までやります。まぁ、私とフェルトは夕方で退場するのですけれど。
これだけの貴族が集まるのは数年に一度あるかないか。ということで、ぶっ続けです。元気ですね。
「でも少し……ほんの少しだけ、広間から人が減っています」
「そうね。招待客も適宜、休憩しながら歓談に参加しているわ。今頃、領地に手紙を書いている人もいるんじゃないかしら」
「それは――良い意味で?」
「もちろんよ。リリアちゃんのお披露目がいかに素晴らしかったか、書き連ねているでしょうね」
なら、いいのですが。
数時間が経ち、なんとなく人の流れに島ができています。
やはり島になりやすいのは領地の大きい貴族です。
辺境伯、公爵……もちろん大公も。
ラーグ大公とヴェラー大公が一番大きな島になっています。
もっとも、外から見ると島にもかなりの違いがあります。
ヴェラー大公はやはり自分からあれこれ喋っている風ではありません。
縁戚の貴族が周囲に侍り、場を繋いでいます。
対してラーグ大公はやはり役者です。
自分が中心になって場を盛り上げています。
「おー! 主役のおでましですな!」
ラーグ大公がこちらに気が付きました。
周囲へ神経を張り巡らせるのも怠っていません。
呼ばれたからには行かない訳にはいきません。
ラーグ大公の後ろにはノルザがいるけれども、私は冷静です。
「随分と盛り上がっているようだな」
陛下が口火を切ります。
第二ラウンドの始まりです。
「ええ、リリア殿下のさきほどのご立派な制御術について……。一族の子に当てはめても、めったに見られるものではないと感嘆した次第」
「それは何よりですわ。リリアの王族入りは王国の繁栄に繋がりましょう」
王妃様の言葉に一同、頷きます。
ラーグ大公でさえ頷いております。
「まさしく。しかし、それゆえに惜しいと思いましてな」
……惜しい?
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