29.お披露目パーティーで頑張ります!③
……この程度のことは予想済み。
これは揺さぶりです。
ラーグ大公が膝をついているので、私と目線が交差します。
私はさしずめ鷹に睨まれた鼠でしょうか。
私は身じろぎさえもしないようにしていました。
「ふむ、よく感情を抑え込んでおられる」
「何のことでしょうか」
ノルザが前に出てこようとしてきます。
まだ、この期に及んでも。
彼は私を手元に置いておきたいのでしょうか。
ですがその動きを察したラーグ大公が、手を挙げてノルザを制止します。
「控えよ。殿下の御前だ」
「しかし……っ」
「私でさえ殿下に礼を尽くしているのだぞ。下がれ」
ラーグ大公の鋭い眼差しでノルザが引きさがります。
おや……?
ノルザを連れてきた割りには、あっさりと。
さすがに私と会話させるのはマズいと思っているのでしょうか。
ヴェラー大公が静かになった場に声を投げかけます。
「相も変わらずよの、ラーグ」
「ヴェラー大公、壮健そうで何よりでございます」
「どこを見て、そんな世迷言を」
「はっは……肉体の衰えは万人に訪れるもの。しかし閣下の内には、いまだに強き魔力が燃えているではありませんか。その火がある限り、北の諸国も我が国境を侵そうとはしないでしょう」
然り、その通りとの声が上がります。
その様子を一瞥しヴェラー大公が息を吐きました。
「よう口が回る。そなたも壮健そのものよ」
「まことに。さて――そろそろ陛下のご挨拶の時間でございますか?」
ラーグ大公が下がりながら立ち上がります。
ここまでが全て、彼の演出とは。完璧な脚本でした。
確かに、彼のシンパが増えるのもわかります。
しかもラーグ大公はまだ四十代半ばです。
大叔父様やヴェラー大公からは二十歳ほどは年下。
これからのエンバリー王国を率いていくのは陛下とラーグ大公だと、諸侯が思っても仕方ないところです。
王妃様が優雅に一礼をいたします。
「皆々様、ではまた後ほど」
私も礼をして、開会の挨拶に備えるため裏に戻ります。
そこには陛下とフェルトが準備をしていましたが……ふたりは私をひどく心配していました。
「ひやひやしたぞ、全く……」
「リリア、大丈夫?」
フェルトがベリージュースの入ったコップを渡してくれます。
それを両手で受け取り、ごくごくごく……。
ふぅ……。
一気に飲み切ってやりました。
その様子に陛下が目を丸くします。
「ふふっ、大丈夫そうだな。さすがはリリアだ」
「……無理してない? ラーグ大公はああいう御方だから」
「大丈夫です、意外と」
背中に汗は感じますが……結構、私は図太いのかもしれません。
これも前世の魂と同期しているからでしょうね。
普通なら怖すぎるラーグ大公ですが、心の中では無茶はしないとわかっています。
あくまで言葉と身振り手振りの戦いですから。
それであれば心を強く保てば負けることはありません。
王妃様が私の元で屈み、すっと目元に触れてくれます。
「よく頑張っているわ、リリアちゃん。誇りに思うわよ」
「はい……!」
王妃様が微笑みながら、侍女に化粧箱を持ってこさせます。
驚いたことに、そのまま王妃様が私の化粧直しを始めました。
「あ、あの母上自らとは……」
「いいのよ。開幕前の化粧直しは、こうするって決めてたから。やらせてちょうだい」
……その言葉で私は口を閉じます。
王妃様が直接何かをする場面は、多くはないのかもしれません。
衣装も化粧も何もかも。
思えば人づてでないとする機会も時間もありません。
現代日本に比べると親らしいことをする機会はずっと少ない……。
その中で、王妃様がする私の化粧直しは大切なのでしょう。
下地をぱたぱた、ファンデーションを整え、眉と目元を引き直し。
同時に私の気合いが入り直します。
王妃様も侍女に化粧直しをしてもらった後、いよいよパーティーそのものの開幕の時間が来ました。
大広間に設けられた壇上に、まず陛下と王妃様が登場しました。
そこで諸侯が一斉に歓談を止め、壇上に注目します。
陛下がゆったりと言葉を発します。
その声は静かですが、しんと大広間中に響き渡りました。
「この度、我がエンバリー王家に新しい風が吹き込まれる。
その者を紹介する前に、皆の者にまずは感謝を申し上げたい。国内の諸侯、遠路より王宮によう集まってくれた。その忠義、誠に嬉しく思う。
そして近隣諸国からも多くの友人が駆け付けてくれた。その温かい友情を余はいつまでも忘れないであろう……」
陛下の挨拶が続きます。
壇上の裏に控える私の隣にはフェルトがいて、私の手を握ってくれていました。
温かい彼の手が私を心強くしてくれます。
「もうすぐだね」
「……うん」
さすがに緊張してきます。でも怖いというよりは楽しみです。
お披露目の練習はずっと重ねてきました。
ローラ先生も大丈夫だと言ってくれています。
それを披露するときです。
ふぅ……。
息を吸って吐いて、ひたすら待って。
……陛下のご挨拶も終わりに近づいて来ました。
会場の熱が高まっているのが、ここにいても感じ取れます。
陛下の御声が一段と高くなり、裏の私たちへと呼びかけるものになりました。
「――さぁ、皆で出迎えよう! 王家の新たなる星、リリア・エンバリーを!」
ついに。私とフェルトの出番です!
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