27.お披露目パーティーで頑張ります!①
お披露目パーティー当日になりました。
パーティーは昼から夕方にかけて行われます。
形式としては立食パーティーのようなものです。礼法に縛られず、伸びやかな雰囲気でした。
こういうのは夜に行われるイメージでしたが……私が八歳だからでしょうか。
夜はものすごーく眠くなるので、このほうが助かります。
大広間は私の髪色をイメージさせる夜色の飾りで満ちていました。
そこに彗星や星をイメージする白と銀色の飾りも。
天井にまで飾りは並べられ、さながらプラネタリウムのようです。
もちろん山海の珍味も並べられ、目移りしそうになりますが……。心は穏やかに。
ローラ先生の授業を思い出して、我慢です。
そして当の私も頭のてっぺんからつま先までコーディネートされています。
白と薄い桃色のひらひらとしたドレス。銀のアクセサリーに所々は金の糸で縫いつけをして。白と真鍮色のシュシュで髪をまとめています。
痩せ細っていた身体がかなりの程度まで適正に戻ったのも含めて……。
自分でもびっくりするほどの美しさと可憐さです。
「よく似合ってるよ。今日のリリアは夜に咲く月のようだ」
「ありがとう、フェルトも似合ってるよ」
……燕尾服をアレンジしたフェルトも格好いいです。
さすがに私より着慣れています。
ま、まぁ……フェルトは弟ですけれど王族としては先輩ですからね。
そしてお披露目パーティーが始まりました。
陛下からの正式なご挨拶はまだですが。
開始前の歓談時間です。
麗しい花の香りと宮廷楽団の奏でる音楽の下、私は招待客へ挨拶をし続けていました。
「クルノス伯爵、久し振りね。お茶の生産は順調かしら」
「これは王妃様。今年も良き茶葉が揃えられそうです。また秋には献上させて頂ければと」
「ええ、楽しみにしているわ」
伯爵の後ろには八歳くらいの男の子がおられました。
慣れない場にきょろきょろとしています。
「ほら、殿下にご挨拶を」
「カーン・クルノス……です。以後、お見知りおキヲ……」
言い慣れていないのか、最後が片言でした。
優雅に頭を下げながら私も応じます。
「リリア・エンバリーと申します。こちらこそお見知り置きを」
「堂々とした振る舞いでございますな。さすがは王家に入られる御子だ」
そこで王妃様が扇をパタパタとさせます。
「伯爵、ちらと聞こえるところによると……西の森林で大規模な火災があったとか?」
「……ご存じでございましたか。賊を追い出すのに、少しやり過ぎましてな」
「かなりの被害があったと聞きますよ。そんな中でもご挨拶に来られるとは、感謝の至りですわ」
「いえいえ、些末なことにございます」
些末なことではないのは、下から見上げる私にはわかります。
伯爵の顎がぴくぴくしておられますから。
王妃様が手招きをすると、セバスが何やら小さくて品の良い革袋を取り出します。
その革袋をセバスが恭しく伯爵に渡しました。
「これは少ないけれど、見舞金でしてよ。復興にお役立てなさい」
「なんと……! エンバリー王家に百の感謝を」
伯爵が腰を折って礼を捧げます。
これにて一件落着でしょうか。
……こうした感じでひたすら挨拶回りです。
とはいえ、王妃様と私が直接受け答えするのは伯爵以上の貴族だけ。
それ以下はまとめての挨拶でいいので、少しは楽ですが。
驚嘆すべきは王妃様でしょう。
カンペなしでも直接の受け答えでは一言を欠かしません。
「今度、白の陶器を売りに出されるとか。港の使用に便宜を図りましょうか?」
「貴殿からのメロン、美味しく食べさせて頂きましたわ。こちらは東方諸国の茶葉よ。ぜひともご賞味くださいまし」
これが国内経営というやつか、という思いです。
王妃様の一言を貰った方々は必ず嬉しそうにします。
きちんと飴を与えている、ということなのでしょう。
挨拶が一段落すると、裏に戻って作戦会議です。
セバスさんが王妃様に報告します。
「王妃様、コードラン侯爵が酒が足りんと少し騒いでおられますが」
「はぁ……彼の酒乱にも困ったものね」
王妃様が眉を寄せ、裏から大広間を観察します。
私もその隣から……こっそり。
ああ、あの右奥にいる恰幅の良い爺様がコードラン侯爵ですね。
よくよく観察すると、手元と足元がふらついているような……。
これはまずい気がします。
ちなみに陛下とフェルトは今、他国からの賓客を接待しているところでした。
そこから少し離れたところに王妃様が注目します。
「モルドレアス王国の外務卿がいるじゃない。彼はコードラン侯爵の親友よ。言って、コードラン侯爵を風に当たらせてもらいなさい」
「はっ、ただちに」
セバスさんが気配を消しながら風のように向かいます。
ややあって、件の外務卿がコードラン侯爵の元へすっ飛んでいきました。
「……やれやれね」
「コードラン侯爵は……えーと、東方を守る貴族でしたっけ」
「その通りよ。魔力量も多いし武将としても芸術家としても有名だけど、酒癖だけがね」
「はぁ……」
まぁ、一国の貴族が勢揃いしているのです。
色々とあるもんだなぁと思いました。
「あの外務卿はコードラン侯爵とどのような関係なのですか?」
「昔、一緒に大盗賊を捕まえた仲なの。ふぅ……かつて陛下が夜会でコードラン侯爵を窘めた時は非常に不満そうで。古い家柄とはいえ、困った人よ」
コードラン侯爵がふらふらしながら外務卿と一緒に退出します。
多分、これで良しなのでしょう。
「この場で騒ぎを起こせば処分せざるを得なくなるけれど、そうはしたくないわ」
「……とはいえ呼ばない訳にもいかず、ということですか」
「ええ、呼ばなければヘソを曲げるでしょうし」
「むむぅ……」
やれやれ、難しいことです。
「さて、少ししたらコードラン侯爵へ挨拶しないとね」
「……そういえばまだでしたね」
「お酒が抜けた頃に挨拶に行きましょう」
そこで王妃様が私の肩にぽんと手を置いてくれます。
「大丈夫よ。今日のリリアちゃんは最高に可愛いし、誰よりも輝いているわ。この調子で頑張りましょう」
「はい!」
王妃様の心強い言葉を受けて、私は気合いを入れ直します。
ヴェラー大公とラーグ大公もそろそろパーティーに来られるでしょうし。
ここからが本番です。
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