26.私の祖父、ヴェラー大公
「リリアちゃん、大切な話があるの」
そう呼ばれ、私は王妃様の執務室に向かいました。
驚いたのはそこに陛下もおられたことでした。
「……余も同席するべきだと思ってね。まぁ、あまり気にしないでくれ」
「は、はい」
かなり難しい要望ですが、気にしないことにします。
「あなたにとても大切な話があるの。聞いてくれる?」
王妃様は難しい顔をしておられました。
彼女がこうした顔になることはあまりありません。
私も真剣な面持ちで頷きます。
「あなたの祖父であるヴェラー大公がお披露目パーティーに来られるわ」
「……はい」
実母シャーレの親であり、私の祖父。
それがヴェラー大公です。ラーグ大公のライバルであり、国内有数の大貴族でもあります。その輝かしい武勲は国内でも有数なのだとか。
もっとも直接会った記憶はありません。
侍女から聞いた話では、相当前からお身体が悪いとのこと。
原作開始時点ですでに故人であり、情報もほとんどなかったはず。
「ヴェラー大公が王都に来られるのは八年振り。シャーレの葬式以来ね。リリアちゃんもその時に会ったけれど……当然、記憶にはないわよね?」
「はい」
「大公は先の大戦の傷から、脚を悪くされていてね……。今はもう自領からは出ず、北の国境を守っているわ」
やっぱり身体が悪いんだ。
と同時に疑問がひとつ氷解した気がする。
母が死んだとき、ヴェラー大公が私を引き取らなかったのはなぜだろうかと。
そう疑問に思ったこともある。
ノルザが手放したくなかったのもあるだろうけれど、引き取る側の大公の身体が悪くては難しかったのだろう。
王妃様がそこでため息をついた。
何かを言おうとして、迷っているようだった。
「ごめんなさい、リリアちゃん。多分、リリアちゃんの考えていることは違うわ」
「え?」
「ヴェラー大公がリリアちゃんを引き取らなかったこと。それは大公の体調の問題だけではないの」
「……そうなのですか?」
いつもは即座に応えてくれる王妃様が口を閉じた。
そこに陛下が割って入る。
「これから話すことは、リリアの胸の中の秘密にしておけるかい?」
「はい……」
なんだろう。
ちょっと怖くなってきた。
「はっきり言おう。ヴェラー大公とシャーレの仲はあまり良くはなかった」
「…………」
「ヴェラー大公は大戦の英雄だ。だが、ううむ……死をも厭わない戦い方をする御仁だった。時に身内の命さえも投げ打つような。シャーレには二人の兄がいたが、戦死した。その二人も英雄であったが……」
陛下の言わんとしていることが、私にはなんとなくわかった。
つまりヴェラー大公の戦い方が苛烈で、シャーレの兄も戦死したと。
そう認識している人が多いということだ。
会ったことのない身内の話なので、冷静に聞くことができるのだけが良かった。
「あなた、数倍の敵に囲まれての撤退戦です。誰のせいでもありません」
「……君はそう言うだろう。周りの人もそうだ。だが、そう思わぬ人もいた。君の母もそのうちのひとりだったと思う」
陛下のはっきりとした言葉で、色々な確執があるのだと私は感じた。
シャーレがラーグ大公派のフェレント公爵に嫁いだのも、これが理由だろうか。
「ヴェラー大公とラーグ大公は戦争の進め方でも正反対だった。ヴェラー大公は火のような武将で、敵を殺すために味方が死んでも構わぬと考えていた。ラーグ大公は水のような武将で、可能な限り決戦を避けて謀略と守りに徹した」
「極端ですね……だから今も両大公は仲があまり良くないと?」
「うむ、大戦の間でも指針の違いが目立つ二人であった。討った敵の数でいえば、ヴェラー大公のほうが多い。奪った城の数でいえば、ラーグ大公のほうが多い。どちらが上という話でもない」
「難しいですね……」
「そうだ。答えはない」
「……そうね。お披露目パーティーでこの話題が出ることはないでしょうけれど、知っておかなくては」
「この話が重要だということは、わかります」
確かにこの話は、お披露目パーティー前にしたほうがいい。
八歳にするべきかというと……難しすぎるとは思うけど。
でも王妃様と陛下が私を評価してくださったと。
それゆえにこうした機会ができたのだと考えることにしよう。
陛下が遠くに視線を向けた。空にいる誰かに向かって、陛下が呟く。
「私にも兄がいた。武人だった。勇猛果敢、人を鼓舞するのが上手く、魔力も豊富で、多くの性質において余とは正反対だった」
「――あなた」
「よい。いい機会だ。だが、その兄も大戦の中で死んだ。そして余に王座が巡ってきた。巡り合わせだ、全ては……」
陛下が視線を戻し、私に頭を下げる。
「リリアには苦労をかける」
「……そんな。私は今の生活があるだけで満足です」
これは本音だった。
それに生きている人の裏事情を事前に知ることができて、良かったと思う。
私が生まれた年に終結した大戦。
その影響は今も根深い。
私のお披露目パーティーも波乱含みになりそうな気がした。
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