24.王族ユーモア
大叔父様がフェルトに剣の稽古をするというので、離宮に簡易的な訓練場が設けられました。まぁ、芝生の生えている場所を少し借りるだけですが。
でも王族が何かやるとなると、色々と準備が大変なのだと知りました。
警備やらいざという時の救急体制やら。手抜かりは許されませんからね。
フェルトは今まさに大叔父様から剣を習っています。
使うのは――厚紙の剣でした。
八歳児なら妥当ではないでしょうか。
大叔父様も見るからに厚紙の剣を持っています。
しかし大柄な大叔父様の持つ剣です。
大叔父様が全力で振った剣に当たったら、私はアザでは済まないかも……。
「フェルトよ、まずは型を徹底的に覚えるんだ」
「はい!」
フェルトはすでに高揚し、目を輝かせています。
私は離れたところで訓練場の周りを散歩です。
体力作りをしなければいけませんからね。
あとは魔道具の発動練習もしないといけません。
散歩しながら制御術も自習して……中々の充実っぷりです。
「まずは守りの型。上から剣が来るときは、こうじゃ!」
「こう、ですね!」
大叔父様が頭の高さに剣を構え、払います。
完成された動きです。
フェルトもそれに習うのですが、まだぎこちないかも?
でも結構、見れる気はします。自室で練習とかしていたのかもです。
私は行ったり来たりを繰り返します。
単調ですが、すぐ近くに大叔父様とフェルトがいるので退屈はしません。
少しすると大叔父様がこちらに来ました。
フェルトはひたすら守りの型を繰り返しています。
「魔道具の発動練習か、にしても……もうそこまで出来るとはのぅ。素晴らしいがマリエステ伯爵はちと厳しすぎやせんか」
マリエステ伯爵――ローラ先生のことですね。
彼女をそう呼ぶ方は珍しい気がします。
王妃様や侍女も含めて、大抵の人はローラ先生と呼ぶので。
「……そうでしょうか?」
「普通は十二歳くらいの課題のはずじゃが。マリエステ伯爵に虐められているんじゃなかろうの?」
「いいえ、そういう訳ではありませんけれど……」
大叔父様は割と本気っぽい。
私としては、最初のパンケーキの件を除けばローラ先生が厳しいと思ったことはないです。あのパンケーキは……まぁ、はい。
他の子にはしていないと思いますし、王族入りする私だから……。
いずれは国の柱になるのですから、勉学で甘やかすのは悪いことです。
私はそう理解しています。
「ならいいがの。貴族学院でもマリエステ伯爵は厳しくて有名で、気になった」
「そんなにですか?」
「制御術と付与魔法は国家の要ゆえ、手加減は許されぬ。にしても、マリエステ伯爵は徹夜でも補習をするゆえな……。貴族学院でそんなことをしたのは彼女が初めてだ」
……ははぁ、ローラ先生ならやりかねないな。
私は率直にそう思ってしまった。
「王族に制御術が必須なのは、その通りではあるがの」
「そうですよね。制御術がないと魔道具が動かせませんし」
付与魔法そのものと同じくらい魔力の制御術も大切だ。
付与魔法が自動車を製造する技術だとすれば、制御術は運転テクニックになる。
どんなに素晴らしい魔道具を作っても、扱えなければ意味がない。
しかも強力な魔道具ほど発動も難しい。
日用品レベルはそうでもないけれど……そういう伝説的な魔道具は存在する。
例えばエンバリー王家に伝わる魔剣【暁】とか。
太陽のように眩しい光を放つ剣らしいけれど、ここ数百年ぐらい使えた人間がいないという魔道具だ。
でも真の力を発揮させると鋼鉄さえもバターのように溶かし、この世ならざる悪霊も斬れるとか……いえ、今生きている人で使った人はいないのですけれど。
私も歴史の授業で習っただけです。
あとは複数人で動かすのが前提の魔道具とか。
超大規模な魔道具になると数十人の魔力を使い、天地まで揺り動かすのだとか。
前世で言えば、船とか大規模工事用の魔道具でしょうか。
そういうモノがある関係で、制御術は絶対に必要なのです。
「……それだけではない」
大叔父様が私の顔を覗き込む。
私はその顔から大叔父様の言葉の意図を探りました。
『王族には制御術は必須』
『ローラ先生の課題は、年齢の割に非常に高度』
『魔剣【暁】のように王家に伝わる魔道具の存在』
『私を王族入りさせる意味』
私もちょっと不思議でした。
どうして私の王族入りがこんなにもスムーズに進むのかと。
王妃様が私を溺愛しているのはわかります。
実母のシャーレの関係もあるでしょう。
でも、それにしては……スムーズに進み過ぎている気もします。
少なくとも王宮にいる限り、私の王族入りに反対する声は聞こえてきません。
王宮の官僚、執事や侍女、王宮に出入りする貴族。
挨拶を交わす程度のことは日常茶飯事。
それでも私の王族入りに嫌悪感を示す人はいなかったと思います。
……こんなことがあるのでしょうか?
王妃様が怖くて、物申せない?
王妃様が私を溺愛するのに裏の意図はないと思います。
あの人は本当に私を可愛がってくれています。
しかしそれは他の人には関係ないこと。
それらを切り離して考えられるくらいには、ボケてません。
他の人は私にきちんとした価値を見出しているのでしょう。
多分、それは魔力関係のはずです。
そう考えると、うっすらと大叔父様の仰る意味がわかります。
「それは……私が聞いてもいいことなのでしょうか」
「構わん。儂はそなたを認めておる。マリエステ伯爵が急ぐのも、理由あってのことだとは思うが……。不満があったら、きちんと言うのだぞ」
「はい。心にとめておきます」
「うむ。お前は本当に賢い。大きくなったら一番下の孫の嫁にどうじゃ?」
「今、そのお孫さんは何歳ですか?」
「四歳じゃが」
はい?
「……考えておきます」
そこで大叔父様がクックと笑いを嚙み殺した。
「冗談じゃ。さすがに気が早過ぎるわい」
「はぁ、ですよね」
まったく愉快なお爺様だ。
やれやれですよ。本当にそういうのは早過ぎますから。
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