22.フェルトの想い
「リリアは苦手な食べ物ってないの?」
「ないです!」
にこーっと微笑みながら、元気いっぱいの答え。
強がりかなと思ったのですが、どうも違うようです。
本当にリリアに好き嫌いはないようでした。
その日、僕はちょっとしたお菓子をリリアへ持っていきました。
レモンのチーズケーキです。
コックに手伝ってもらったのですが、これが中々良くできました。
酸味とバターのコクがたまりません。
暑くなる初夏にぴったりのお菓子だと思います。
でも出来た後に、結構味が濃いことに気が付きました。
僕は大丈夫ですけれど……リリアはどうなんだろう?
レモンのチーズケーキを見せるとリリアは飛び上がらんばかりに喜んでました。
「うわぁ、これ……チーズケーキ?」
「レモン入りのね。新作だよ」
「私、チーズケーキ大好き! 食べてもいい?」
「もちろん。味見してみて」
というわけで、フォークで寄り添ってリリアに食べてもらいます。
「ん~! ふぅぅ……!!」
頬を大きくして食べる様子は……リスっぽいです。
言いませんけれど。
僕の前でこんなに表情を出して食べる人は、本当に初めてで。
それだけでリリアがとても愛おしくなります。
「レモンとかも大丈夫? 酸っぱくない?」
「んーんん? 全然大丈夫です! とっても美味しい! もっとください!」
「いいよ、はいどーぞ」
「わーい!」
……もちゅもちゅ。
目をぱちぱちさせながら味わってるのがわかります。
「うーん……はっ!? アーモンドの味がします!」
「気付いた? 隠し味で入れたんだ」
「不覚です。しっかり食べるまで気付きませんでしたっ」
なぜかリリアは素材や隠し味に気付くのが遅れると悔しがる。
多分、一番悔しがる。
実際、勉強中のリリアはとても集中して――大人みたいに見えます。
ふたつの魂の炎がちらついて、重なりあう時は……。
母上と同じくらい静かで知的な感じがするのに、です。
「……どうかしましたか?」
「う、うん? 次のお菓子をどうするか考えてたんだ」
「ふぅーん?」
信じてないような眼差しでした。
こういうところの勘は、とても鋭いです。
「もし悩んでいることがあったら、何でも言ってね」
「…………」
心の奥底にまでリリアの温かい声が響きます。
「もうリリアには助けてもらったよ。大叔父様から剣の稽古も受けられるようになったし……」
「それ以外でも!」
リリアがぎゅっと僕の手を握ってきました。
「何回でも言って欲しいの。1回だけじゃなくて。何回でも頼って」
「……うん」
こういう時は本当に、いつもと違います。
温かくて芯があって。
彼女が僕の家族になってくれて良かったと思うんです。
「優しいんだね」
「ええ、私がフェルトのお姉ちゃんなんだから」
「うーん?」
「あっ! そう思ってない!」
「誕生日は僕のほうがちょっと先だよ」
僕の誕生日は10月です。
母上から聞いたリリアの誕生日は11月だったはずです。
なので僕のほうがちょっとだけお兄ちゃんのはず。
でもリリアは納得していないみたい。
「むぅー……それはそうだけど、でも」
「ほら、ベリージュース飲む?」
コップを差し出すと、リリアは両手でそれを掴んで。
「飲む! ごくっ、はふー……っ!」
ぐーっと流し込んだ。
どうやら落ち着いたみたい。
こうしていると本当に楽しくて飽きない。
そこで僕はリリアの腕輪に目をとめた。
「リリアは……魔道具好き?」
「うん、好き!」
それから魔道具のことをアレコレ話す。
……リリアの魔道具への想いは本物みたい。
侍女たちもリリアについて色々と話している。
皆、リリアの才能に驚いていた。
『あれほどの魔力を持った令嬢はいません』
『私も様々な貴族の子息、令嬢を見てきましたが一番です』
『まるで大人のように魔力を制御しています』
僕はそれを聞いて、ほっとしているところもある。
王子は何でもできなきゃいけない。
少なくとも苦手なものがあっちゃいけない。
だから僕は頑張ってきた。
多分、僕は色々できるから。
皆がそう言う。才能がある。努力できる。
環境も恵まれて良い先生もいる。
お菓子を作っていたい日もあるけれど。
剣を振っていたい時もあるけれど。
頑張って……たまに疲れる日もある。
でもリリアは付与魔法や魔道具について、きっと僕より才能がある。
生まれて初めて、僕は二番手だ。
僕より何かが出来た子どもはいなかったから。
なぜだか、それにほっとする。
リリアと話しながら、そんなことを考えていたんだけど。
どうやらバレてたみたい。
「フェルト」
「うん?」
「何を考えているかまではわからないけど。考えすぎるのは、良くないよ」
あはは。
本当にリリアは僕をよく見ているなぁ。
僕はリリアの手を握り返す。
温かくて、小さな手。僕よりずっと小さい手。
「ごめんね。お菓子も食べ切ったし、気分転換にちょっと歩こうか」
「……はい!」
最近は昼食、間食の後にこうするのが日課だ。
母上からリリアを運動させるようにと。
そう言われていることもあって、僕は中庭への散歩に誘う。
でもそう言われていなくても。
僕はきっといつも散歩に誘っていたと思います。
彼女と一緒にいる時間。
言葉にはうまくできないけれど。
僕にとっては全部が大切な時間だから。
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