16.ローラ先生はスパルタです?
翌日、王妃様が陛下と大叔父様へ話をして。
フェルトは正式に大叔父様から剣術を学ぶことになりました。
最初のうちは離宮に大叔父様が来られて、基礎から学ぶそうです。
使うのも当然、子ども向け玩具の剣で。
それなら安心です。
そして私も日々、肌の血色が良くなっています。
血管が浮き出るような部分も減ってきました。
頬ももっちりしてきています。
フェルトのお世話のおかげです。
お世話というか、給餌かもしれないのですが。
でも食べ過ぎにはストップをしてくれるので、安心してお世話されようかと思います。最近、ちょっと自分の食欲が怖いのです。
で、今日は待ちに待ったローラ先生の授業日でした。
フェルトと一緒に授業を受けます。
ああ、やっと。
彼女の授業をもう一度受けることができます。
嬉しいな。
彼女はあの公爵邸の日々で唯一の味方でした。
ローラ先生が来る日はハーマも気を遣い、私を虐めませんでしたし。
よくお菓子をくれて、どれだけ助かったことか。
本当に感謝してもしきれません。
なのでハーマにクビにされて会うことができなくなり、とても悲しかったです。
突然のクビからもう一年以上経ったでしょうか。
やっと再会できます。楽しみです。
ドキドキしながら講義室で待っていると、すぱーんとドアが開きました。
そこにはちまっとして、でもキリリとしたローラ先生がいました。
くすんだ赤毛に知的そうで切れ長の瞳。四角い黒縁眼鏡、自作の魔道具アクセサリーでごてごて身を固めた姿はまさにローラ先生です。
「どうも、ローラです」
「先生!」
「リリアちゃーん!」
淑女に許される速度上限ギリギリの早足でローラ先生が私に迫ります。
ローラ先生はそのまま私を胸に抱いて、熱烈なよしよしをしてくれました。
「よーしよしよし」
「先生……っ!」
正直、先生はちょっと変わっています。
でもその中には優しさがあって。
私は今、もう一度その優しさに触れることができました。
泣きそう。
目頭が熱くなるのが止まりません。
「……もう大丈夫だからね。リリアちゃん」
あ、と思った時には涙がこぼれていました。
やっぱり我慢できませんでした。
私はローラ先生の胸を借りて、泣きました。
……。
数分が経ったでしょうか。
涙も収まってきてくれました。
フェルトに見えない角度で涙を拭いてくれたローラ先生に感謝です。
気を取り直して。
授業が始まります。
そうそう、ローラ先生に限らず、先生方は私やフェルトを殿下とは呼びません。
言葉遣いもかなりフランクです。
これは王妃様の方針になります。
個々の先生の授業は、学識を身につけるための時間。
先生が主導権を握るべきというお考えです。
なので敬称や王族に対する礼義作法は一切免除です。
そのほうが私も良いと思います。
忖度されて馬鹿に成長しても仕方ありません。
「今日はリリアちゃんが加わった最初の授業ということで、魔力についておさらいしましょう。では、フェルトくん。魔力はよく身体のどこに似ているとされますか?」
「はい、髪の毛です」
「正解です。髪の毛は伸びますが、その伸びやすさを変えることはできません。
伸びるのが早い人もいれば、そうでない人もいます。
金髪の人もいれば黒髪の人もいます」
ローラ先生が黒板にチョークで私の顔の絵を描きます。
デフォルメされていて、とても上手。可愛い。
「これまで魔力そのものを伸ばす試みは全部無駄に終わりました。
魔力の成長と回復は髪の毛と同じです。
よく食べて、よく寝る。これ以外にどうしようもないのです」
絵の中の私の髪がどんどん長くなる。
長くなる……というか長すぎ!
……どこの貞〇ですか?
「魔力を扱う技術はこの髪の毛をカットすることに似ています。
自分の思う通りに自分の髪の毛を切ること。簡単に言うと、これが魔法です」
ふむふむ……。
私の知識にある通りだ。
この世界では魔力を訓練で成長させることはできない。
身体の成長に従って魔力も成長するだけ。
私は魔力が強いみたいだけど、大人になったらどうなるんだろ?
目安とかはあるのかも。
なので、この世界で重視されているのは魔力の制御だ。
魔道具の起動をさせるためには魔力を流し込まなければならず、それこそが魔力の制御になる。
刻印された付与魔法に合わせてエネルギーを流すイメージかな。
私たちが乾電池と思っていいのかも。
日用品の魔道具は大した手間はかからない。
そう設計されている。
でも強力な魔道具を発動させるには精密な魔力の制御が必須です。
私たちはこれからそれらを学び、実際に魔道具を作っていく……はず。
あ、ローラ先生が絵の中の髪の毛を三つ編みにしてる。
可愛い。今度、やってもらおうかな。
「では魔力についておさらいをしましたので、実技に移りましょう。
魔力の制御術をより身につける訓練です」
侍女がすすっとお皿を持ってくる。
……そこにはクリームたっぷりのパンケーキが載っていた。
黄金色の蜂蜜も塗られている。
なにこれ……?
どうしてこんな素晴らしいデザートが?
ちょうどお昼前なので、とても魅力的です。
お腹がきゅーっとしてきました。
絶対に美味しいです。
ここまでバターの香りがしてきます。
「正直、ふたりとも制御術については十分、進歩しています。
リリアちゃんもあのサファイアのブローチを起動したということは十二歳以上のレベルです。
素晴らしい。ですので、これからは気が散るような状況でもちゃんと集中できるかどうか……。
そこを重点的に鍛えます」
なんですと。
もしかして……このパンケーキを目の前にして、他のことをやれと!?
絶望。
私は久し振りに絶望を味わってます。
本当はパンケーキを味わいたいのに……っ!
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