表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/45

15.剣とフェルトと王妃様

「……母上に言ってみたら?」

「…………」


 フェルトは空を見つめています。

 普段ならすぐに応えてくれるのに、迷っていました。


「剣を習うことはいいかもだけど……僕は大叔父様から剣を習いたい。

 母上は――反対するんじゃないかな」


 ぽつりとフェルトが言います。

 彼はそう確信しているようでした。


「どうして、そう思う?」

「だって、母上と大叔父様って……」


 やっぱり、そこが気になりますか。


 フェルトは賢いです。

 タイミングも雰囲気も読みます。


 私が食事の時も、ベストなタイミングでさっと次の一口を出してくれます。

 それでいて、私がもぐもぐしている間に自分もしっかり食べています。


 だからこそ、王妃様と大叔父様の関係が言い出せない理由になってしまうのです。

 顔色を見すぎるのも、また難しいことです。


「フェルトは本当に剣術がやりたいの?」

「……うん」

「母上には一度も言ったことないんだよね?」

「ないよ。それに僕は、大叔父様から剣を習いたいんだ。

 他の人じゃ……」


 そこでフェルトが私の顔を見ました。

 彼の顔の後ろには不安が見え隠れします。


「言って駄目だったら?」

「その時は、時間を置いてもう一度頼んだらどうかしら」

「えっ……? いいの、それ?」


 フェルトが目を見開きます。

 そんな発想はなかった、という感じです。


 まぁ、大人なら何度も言うなってことはありますけれど。

 でも八歳の子どもなんです。

 やりたいこともあるし、ちょっとは親に要求を伝えたくもなります。


 私はテーブル越しに迷うフェルトの手を取りました。


「フェルトが母上に言いにいくなら、私もついていくよ!」

「ほ、本当にいいの?」

「うん。だって、さっき大叔父様についてきてくれたでしょ?」


 それにフェルトにはお世話になっています。

 本当に、それはもう。

 甘やかされている自覚があります。


 なので。

 ここは恩返しです。


 握ったフェルトの手。

 そこに力が入るのがわかります。


 彼の顔にも勇気が戻ってきました。

 天使のように涼やかで、にこやか。

 フェルトはこうしている顔のほうが、ずっといいです。


「ありがとう、リリア。言ってみようと思う」



 午後の授業が終わって検診を受けて、王宮の地図を頭に叩き込み。

 そうこうしていると、もう晩餐の時間です。


 今日も今日とて私の部屋での晩餐です。


 ……もう大丈夫な気はするのですが。

 でもしばらくはこの流れが続きそうです。


 陛下は会合があるとのことで、晩餐には遅れるとか。

 これはちょうどいいかもしれません。

 

 フェルトに合図を送ると、彼も頷きます。


 緊張。

 ごくり……っ。


 果たして、王妃様はフェルトの要望にどう応えるのでしょう。


「母上、あの……!」


 フェルトの声は上擦うわずっていました。

 王妃様もフェルトのそんな声はあまり聞いたことがなかったのでしょうか。

 ぎょっとしていました。


「何かしら、フェルト」


 フェルトが私の目をちらりと見ます。

 私はゆっくり静かに、でもしっかりと彼に頷きました。


「あの――」


 そこでフェルトの動きが止まります。

 やっぱり。

 王妃様に伝えるのは怖いのかも。

 

 ……。


 頑張って!

 私は必死に目で訴えかけます。


 物は試し。

 王妃様は凄く頭が回りますが……。

 言ってみないと始まりません。


 それが伝わったのか、フェルトの口が動きました。


「剣術をやってみたいんです」


 その言葉はしっかりと部屋中に響きました。


 王妃様の瞳孔が一瞬、開きます。

 驚いてはいるようです。

 でも肯定か否定かまでは読み取れません。


 王妃様が私に目線を投げかけます。

 ……バレたかもしれないです。


「あなたくらいの年頃なら、剣にも興味が出てきてもおかしくないわね。

 わかりました。執事の中から剣に達者な人間を先生にしましょう」

「母上、大叔父様から習っては駄目ですか」


 かすかにフェルトの言葉が震えています。

 彼は今、勇気を出していました。


「大叔父様に……?」


 あ、王妃様が眉をひそめています。

 良くない兆候です。


「剣を学ぶのなら、執事からでも十分でしょう。

 どうして大叔父様から学びたいと?」

「…………」


 フェルトが黙ってしまいました。

 これはマズい。


 ……私はフェルトの手をぎゅっと握ります。

 

 まだ私が何か言うのは早過ぎます。

 彼の意志をはっきり伝えて、私が出るのはその後です。


 フェルトの体温が伝わってきます。

 私は自分の熱が彼に重なるよう、願いました。


「大叔父様の剣が一番格好いいから」


 フェルトが意を決した言葉。

 さすがに予想外だったのでしょう。


 王妃様がぽかんとしています。


「速くて力強くて。グリフォンが狩りをするように、格好いいんです。

 母上もそう思いませんか?」

「え、ええ……大叔父様の剣は、それは見事だけれど」


 早口のフェルトに王妃様が押されています。

 ちょっとおかしくて、笑い出しそうになりました。


「でもね、大叔父様というのは……」


 そこで私が口を挟みます。

 母上の懸念は何となくわかります。


 もしフェルトが大叔父様に染まったら……とか。


 多分、そういうことなのでしょう。

 わかります。

 プリンナイフで私も悪戯されましたから。


「勉強なら進んでいるんですよね?」

「……そうね。フェルトは何でもよくやっているわ」

「母上の心配することは、私がしっかり見ていきますから」

「……?」


 フェルトが首を傾げます。

 フェルトはまだそこまで考えられないようですけれど。

 王妃様には伝わったようです。


「リリアちゃん……わかるのね?」


 こくり。

 私も大叔父様のユーモアは、フェルトに引き継がせたくはないですから。

 目を光らせる所存です。


 王妃様は私とフェルトの顔を交互に見ます。


 やがて。

 王妃様はフェルトを見据えました。


「いいわ。陛下と大叔父様には私から話をします」

「本当ですか!?」


 フェルトが飛び上がらんばかりに大喜び。

 私も嬉しくなります。


「ただし大叔父様も忙しい人です。迷惑にならない範囲で。

 あとは勉強もしっかりとするんですよ」

「はい! もちろんです!」


 フェルトが私にも頭を下げます。


「ありがとう、リリア」

「気にしないで。よかったね、フェルト!」

「うん!」


 よしよし。

 フェルトも剣術への道筋ができました。


 これで恩を返せたと思います。


 ……私はそのくらいに考えていたのですが。

 どうやら、この出来事でかなりの好感度を稼いでしまったみたいでした。


 フェルトだけでなく。王妃様からも、です。

【お願い】

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、

『ブックマーク』や広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!


皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新刊書籍『断罪される公爵令嬢』が10/2発売されます!! ↓の画像から販売サイトに飛べますので、どうぞよろしくお願いいたしますー!! 58iv2vkhij0rhnwximpe5udh3jpr_44a_iw_rs_7z78.jpg

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ