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14.剣と子ども

 ナイフと大叔父様の顔を見て、王妃様も察したようです。


「はぁぁ……もう、大叔父様は冗談が過ぎます!」

「がはは、すまん! にしても、リリアは肝がわっとる」

「大叔父様! もっと優雅な言葉遣いを!」

「うーむ、王族にふさわしい度胸がある。将来が楽しみじゃな」


 大叔父様が顎を撫でた。

 その言葉が本当に嘘偽りないようで、私は嬉しくなる。


 認められたんだ、私……!


「惜しいのぅ、八歳でこれだけの逸材なら王国一番の騎士にもなれるのだが」

「……本当ですか?」

「騎士に必要なのは精神力じゃからな。近衛騎士には女性も数多く参加しておる」


 ほうほう、なるほど。

 魔力と魔法がある世界なら、そうなるのかも。

 

 私は王家に養子入りしたけれど、将来的にどういう仕事になるかはわからない。

 もしかすると大叔父様のような近衛騎士団長もアリかも……?

 

 でも大叔父様の身体ってば凄い筋肉……。

 ここまでの身体に仕上げるのは、私には無理そう。

 今だって横に伸びる可能性が怖いのです。


「にしても、手に取ってすぐにナイフの仕掛けに気付くとは。

 恐れ入ったわい。シャーレもそうだが、物怖じせんのぅ」

「母を御存じで?」

「うむ。貴族学院の教官でもあったからな。近接戦闘を教えておった。

 シャーレの剣さばきはそれは見事で、儂でさえ見惚みとれるくらいよ」


 おお、どこにいっても母は高評価。

 だから私を近衛騎士団に、と大叔父様も考えちゃうのでしょう。


「ふむ、本当に……シャーレは良い子をのこした」


 大叔父様が顔を伏せます。


 ……それはきっと寂しさ。

 去ってしまった人と残された人。

 私を通して、母を思い出しているのだと思います。


 ややあって顔を上げた大叔父様はまたがはは、と笑いました。


「まぁ、騎士や剣に興味があれば、いつでも来るがよい!

 儂は大歓迎じゃぞ!」

 

 大叔父様に認められたので、ミッションはコンプリート。

 やりました。

 やってやりました。





 十分に訓練場から離れたところで、王妃様が私を労わりました。


「驚いたでしょう、リリアちゃん。

 大叔父様は昔からああいう人で……許してあげてね」

「いいえ! とっても素敵な人だなって」


 豪快でありながらユーモアもあり。

 きっと貴族内や城内での信望もあるのでしょう。

 だから王妃様が私を連れて赴いたのだと思います。


 逸材と認められたのも嬉しかったですし。

 何事にもストレートな御方です。


 王妃様がほっとしたように息を吐きます。


「なら、良かったわ。

 大叔父様が認められれば大丈夫ですし、私も一安心しました。

 シャワーを浴びて昼食にしましょう。もういい時間よ」


 訓練場の埃を落として、昼食へ。

 陛下は他国との会合でおられないのですが……。




 今日のお昼はリゾットです。

 でもタダのリゾットではありません。

 薄めの豚肉がトッピングされ、バターとチーズは少なめ。


 おお、豚さんの味が……脂とすっきりとした味わいです。

 それがお米に沁み込んでいますから、たまりません。


 で、フェルトは今も私の世話をしてくれています。

 私にできることは美味しさと感謝を隠さないで味わうことだけです。


 もぐもぐ……。


 はふ……。

 

 うーん、とっても美味しい!

 おかわりを所望します!


 と、顔に出しまくったのですが。


「昼食はここまでだね。食べ過ぎは良くないから」


 フェルト、無情のストップ!

 のーん!!

 




 昼食を食べた私は、フェルトと一緒に中庭で休んでいます。

 ここで消化をしてから午後のお勉強です。


 テラスで足をぶらぶらさせていると、フェルトが真剣な顔立ちになりました。


「……ごめんね、リリア。

 大叔父様についていったのに、役に立てなくて」

「えーと、どういうこと?」

「大叔父様に呼ばれたのは、母上とリリアのふたりだけだったんだ。

 僕は自分で言って、ついていっただけ」


 んー……?

 確かになぜフェルトまでついてきたのか、ちょっと疑問はあったけれど。

 彼自身が志願したんですね。


 でもなにゆえに?


「大叔父様は僕を気に入っているから、何かあった時に――。

 そう思ったんだけど……」

「ああー! なるほどっ!」


 なんという気の回し方!

 できすぎるんじゃないですか。

 

「……でもリリアは恐れないで大叔父様に向き合って。

 僕の出番はなかったよ」

「ううん、隣にいてくれるだけで心強かったから!」

「本当?」

「本当だよ。安心する」


 この王宮の中に子どもはいないですし。

 当然だけど働く人だらけで、普通の子どもがいる場所じゃないですから。


 だからフェルトの声と姿は凄く安心する。

 王妃様も陛下も優しいけれど、やっぱりフェルトは同じ子ども。

 こうしていて、ほっとします。


「でも、だとしたら私こそ謝らないと。

 剣、怖かったんじゃない?」


 訓練場でフェルトは気迫ある騎士から目をそらそうとしてた。

 ように私には見えたので。


 意外なことにフェルトがふるふると首を振る。


「ううん、怖いわけじゃなくて……」


 フェルトが初めて言い淀んだ。

 何か言いづらいことがあるみたいだ。


 ちょっと待つ。

 フェルトは少し顔を背けちゃいました。


「……なんでもない」


 寂しそうに言うフェルトに、私はぴーんときた。


 私の記憶の中では、フェルトはエンバリー王国最強の騎士になる。

 その剣の師匠が大叔父様のはず。

 今はそういう関係じゃないように見えるけど。


 そして、さっきのやり取りと雰囲気……。

 私の直感がささやいている。


 王妃様と大叔父様は相性が良くなさそう。

 お互いに認め合っているけど、立ち振る舞いや言葉遣いはかなり違う。

 年齢も離れているから、しょうがないんだけど……。


「フェルトは、もしかして剣術好き?」

「えっ!? あっ……」


 フェルトが口を可愛らしくもごもごさせた。

 戸惑っていると、子どもらしく見える。


 やっぱりそうか。

 でも王妃様には言い出せない、とか。


 私はもう少し、彼の後押しをすることにした。


「母上には言わないから」


 そういうとフェルトがゆっくりと視線を泳がせる。

 彼の金色の瞳が青空を映していた。


 ややあって。

 彼がようやく本音を言ってくれます。

 

「……うん。やっぱり憧れるよね。

 剣は怖いかもだけど、さ」

「母上にそれは言った?」

「言ったことないよ」


 やっぱり。

 そうだよね。


 フェルトは王妃様に対して気を遣って対応している。

 本人に自覚があるかどうかは、別として。


 あるいは生粋の王族だからなのかも。

 普通の親子のようにはいられない――あの王妃様の圧からしたら、仕方ないことではあるけれど。


 ……私は思う。

 フェルトはやっぱり剣術に興味があるんだ。

 けれども中々、自分からは言えない。


 王妃様と大叔父様のタイプも違うし。

 

 うーん……。


 わかる。

 すごーくよくわかる。


 でも、それを胸にしまっておくのは、もったいないよね?

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