13.大叔父様と面会です
カラメルソースとプリン本体は運命のペア。
私は学びました。
つるっとぷるぷるのプリンを食べて、満足です。
フェルトが私の口元を拭います。
ソースが唇についちゃったみたいです。
「満足した?」
「はい!」
満足です。
……本当はもう二個くらいはプリンが入りますが。
フェルトよりプリンを食べてしまうのはマズい。
それくらいは自制できる私は元気良く答えます。
で、それから私はフェルトと王宮で勉強することになりました。
場所は離宮の講義室にて。年配の教師から教えを受けます。
まずは歴史や地理から開始です。
暗記なのですが、それほど苦ではありません。
八歳児向けですから……さすがに簡単。
でも内心はほっとしました。
ここで引っかかったらシャレになりません。
その次は算数。
かけ算やグラフ、表なんかでした。
これもまぁ、楽勝です。
フェルトも楽々クリアしているみたいで。
その方面でも彼は優秀みたい。
にしても、勉強って楽しいと思いました。
なんか――どんどん知識が頭の中に入っていきます。
大人の心を持ってわかる、勉強の大切さ。
で、お昼近くになった頃。
王妃様が講義室に来られました。
何やら少し張り詰めているように感じます。
「ふたりとも、ついてきて」
「はい」
とことこ。
フェルトと一緒に王妃様の元へ。
「これからリリアちゃんを大叔父様――ノルデラント大公の元へ連れていきます。
フェルト、あなたも心するように」
「……はい!」
ノルデラント大公様……。
原作の中で直接の登場はないような。
陛下の祖父の弟で、かなりの高齢だったはず。今も近衛騎士団を預かり、王族の長老格として遇されている方です。
あとはフェルトの剣の師匠ということくらいかな?
原作だとそのはずです。
『うーん、まぁ、剣術バカでしたよ』
というのは、原作中のフェルトの言葉。
でも王妃様の様子だと、それだけではないように見えます。
やはり年長の王族だからでしょうか。
歩きながら王妃様が私に解説をしてくれる。
「リリアちゃんが私の家族になるということで、宮廷内で反対する人はいなかったわ。……大叔父様を除いては。大叔父様は自分の眼で確かめたいそうよ」
「そうなのですね……」
仕方ないです。
王家に養子入りというのは簡単な話じゃないですから。
特に御高齢の方にはそうでしょう。
ちょっとドキドキします。
これは試練です。王家に迎え入れられるための通過儀礼。
王宮に来て、私は初めて自分を試される。
王妃様につれられてきたのは、正門近くの訓練場でした。
乾いた砂の敷き詰められたグラウンドで、背格好の良い騎士たちがまさに訓練をしています。
金属製の人形へ鋭い斬撃。
ひゅっ、かーんと甲高い音が鳴ります。
騎士たちが手に持っているのは真剣のようです。
訓練とはいえ、凄まじい気迫。汗が飛び散ります。
王妃様は澄ました顔をしているけれど、フェルトは目をそらそうとしているような。
あれ? フェルトは剣の達人になるはず……。
と、そこで思い返します。それは十年後のことです。
八歳の子どもにこれはちょっと怖いかも。
「フェルト、大丈夫?」
「……うん、大丈夫。王子が剣の訓練を怖がっちゃいけないから」
中央で仁王立ちになっている老騎士がこちらに来ます。
白髪がかなり濃くて、70歳くらい。
あれが大叔父様、かな?
王妃様も背が高いけれど、大叔父様はさらに背が高い。
190センチくらいはあるんじゃないだろうか。
そして筋肉はモリモリでした。
今の私やフェルトからすると見上げるほどの巨人だ。
でも……怖いとは感じなかった。
大叔父様はさっと私の目線まで腰を屈めてくれたから。
気迫はあるけれど、瞳の中に年長者の温かさがあります。
王妃様に合図され、私は大叔父様へ挨拶する。
「初めまして、リリアと申します。お会いできて光栄です」
「こちらこそ。ガノフ・ノルデラント・エンバリーだ。
ふむ……そなたが王家に入る子か」
「はい」
「目は良い。ちと線が細すぎるが……」
「大叔父様、リリアちゃんはこれからが成長期です。
しっかりと大きくなります」
そうそう、縦にね。
横に大きくなるのは避けないと……。
「ヒルベルトよ、儂も王家に人を入れるのは反対ではない。
確かに……魔力量は素晴らしい。ただ、それだけでは王族は務まらん」
大叔父様が右手を後ろに回す。
ナイフだ。きらりと輝くナイフを大叔父様が背の後ろから取り出していた。
でも大叔父様にとってのナイフは、私にとってはナイフじゃない。
ちょっとした短剣サイズといっていい。
王妃様とフェルトも突然出てきたナイフに驚いたようだった。
大叔父様の深い金色の瞳が私を捉えている。
「……怖いかね、リリアちゃん?
ナイフを手に取って持ってみる勇気があるかな」
それは間違いなく、大叔父様の試練でした。
武骨でありながら年長者らしく、私を試している。
国は文と書類だけで成り立つものじゃない。
確固とした武力がなければ、国という秩序は成り立たない。
大叔父様が見たいのは、私のそうした部分だ。
大叔父様の取り出したナイフ。
でも――私には違和感があった。
ナイフから声が聞こえる。
『ぷるぷる』
このナイフは魔道具だ。
その声が、私の魂に届いている。
あのサファイアのブローチと同じで。
ナイフには付与魔法が刻み込まれている。
私には本能でそれがわかった。
『ぷるんぷるん』
小鳥のように柔らかいナイフの声。
繋がる。
わかる。
聞こえる。
もっと深く、刻まれた魔力を辿る。
――あなたは?
私はナイフに問いかけながら、手を伸ばす。
王妃様とフェルトが息を呑んだ。
大叔父様がゆっくりと柄を私に渡す。
軽い。金属製じゃない。
『僕はプリンだよ。硬くないし、斬れないよ』
――ふふっ。
私は心の中で笑ってしまいました。
そうだよね。
大叔父様が斬れる危ないナイフを、子どもに渡すわけがなかった。
これは試練なのだから、そんな必要はない。
このナイフは斬れるように見えるだけの玩具だ。
私はそっとナイフの刃に指を近づけた。
「ちょ、ちょっと!?」
「リリア!?」
王妃様とフェルトが慌てる。
でも、大丈夫。
私の指がナイフの刃に当たると、刃がぐにゃーと曲がった。
やっぱり……!!
私は今朝食べたプリンの食感を思い出していた。
あれもちょっと硬めで、こんな感じだったかも。
まったく、大叔父様はお茶目というか。
大叔父様が私の行動を見て、にかっと笑った。
悪戯がバレた子どものような表情だ。
「がははっ!! これはとんでもない逸材じゃあ!」
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