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【書籍化・コミカライズ】断罪される公爵令嬢、生まれ変わってラスボスの王妃様の子どもになります  作者: りょうと かえ
王宮暮らしが始まるみたいです

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10.殿下と仲良くなれました

 陛下や王妃様から私は子どもと認められたけれど、殿下はどう考えているのだろう?


 うーん。

 私と殿下は同じ八歳だ。

 いきなり同年齢の子が家族になるのって、微妙だよね?

 彼は敵に回すと非常に怖い一面があるし。


 れしくないほうがいいと思い、きちんと挨拶する。


「ご機嫌麗しゅう、殿下」

「もっとリラックスしてください。

 殿下なんて呼ばないでフェルトでいいですよ。

 僕も母上から話は聞いていますから」


 あっさり笑って返されてしまった。

 しかもその笑顔がまたまぶしい。ほわほわしてくる。


「次の検査が始まるまで、僕と少しお喋りしていきません?」

「光栄です。お邪魔いたします」

「ふふっ……もっともっと砕けていいですよ」


 むぅ、もっとフランクでいいのか。

 優しいなぁ。


 フェルトが中庭のテラスに案内してくれる。

 ここは確か、フェルトのお気に入りの場所のはずだ。

 白の大理石を削り出して作った椅子とテーブルに向き合って座る。


 私とフェルトは初対面ではない。

 同じ国で同年代、顔合わせだけは終えている状態だ。


 原作でのフェルトは身内には甘く温和でありながら、王国最強の剣士でもあった。

 あとは美形で声が良い。声がとても良い。


 さて、何を話そうかと思ったらフェルトが話題を振ってくれた。


「ローラ先生からもリリアの話はよく聞いていますよ」

「フェ、フェルトもローラ先生から教えを受けているんでしたっけ」


 やばっ。噛んだ。

 思い切り噛んじゃった。


「緊張しないで。一緒に深呼吸しましょう」


 言われて、ふたりですーはーする。

 

 ……。


 ふぅ……落ち着いた。

 フェルトはとても大人びている。

 私と同じ八歳とは思えない。さすが王妃様の子だ。


 で、ローラ先生の名前が出てきた。

 彼女はハーマがクビにした、私の元家庭教師だ。


 変わり者ではあるけれど、屋敷内ではずっと私の味方だった。

 彼女が今も私を話題にしてくれていると知って、とても嬉しい。


 王宮や家族のことをフェルト相手に掘り下げるより、ローラ先生と勉強関連の話題が無難だ。彼の配慮に感謝しつつ、私もその話題に乗っかる。


 時間がすぐに過ぎていく。

 彼の表情を見ながら会話するのが本当に楽しい。


 話題がローラ先生の課題に移った時、フェルトがポケットからブローチを取り出した。小さいけれど深い海色のサファイアがついている。


 ――魔道具だ。

 この世界では品物に魔力を刻む付与魔法しかない。

 王族も貴族も一般人も魔法と言えば付与魔法だ。


「先生がいる時はうまくできるんですけれど、一人だと中々うまくいかなくて」

「……なるほど」


 ブローチを見ながら私はドキドキしていた。


 魔力、魔法。ファンタジー世界に存在する不思議な力。

 今の私に扱えるのだろうか。

 不安を感じながらも、私の胸は期待に高鳴っていた。


 これまでの私は家族によって、魔道具や魔法から徹底して遠ざけられてきた。

 魔道具を触る機会もなく、自分の魔力を試す機会もなかった。


 でも、今はいいチャンスだ。

 フェルトのブローチを借りて、ちょっと自分の魔力を試してみたい。

 私がフェルトにそう申し出ると、彼は快諾してくれた。


 ブローチは私の小さな手よりさらに小さい。

 でもずっしりとした重さがある。


「リリア、そのブローチは水の出る魔道具だよ。

 頭の中で水をイメージすれば、応えてくれるんだって」

 

 頷いた私はフェルトの言う通りにブローチへ集中した。

 

 海、深い水底みなそこ。あるいはコップの中の水。

 身体が水に包まれて浮かんでいるような……不思議だ。

 これが魔力を使うってことか。


 私の魂の奥底で、何かが共鳴する。


『……私はどうなるの?』


 それは泣いている私だった。

 家族に虐げられ、何もできない私。

 魂が同期する前の私だった。


 ブローチが私の魂を探っている。

 暗くてひとりきりの部屋で、私はコップの水を見つめていた。

 私にとって、水はそうしたものだった。

 

『助けて』


 記憶の中の私に手を伸ばす。

 泣いている彼女は私だ。

 違う世界の私だ。


 手と意識を繋げる。しっかりと離さないように。

 記憶の中の私が力強く手を握り返す。


『もう大丈夫だよ』


 これは二度目だ。難しくはなかった。

 泣いている彼女と違う世界の私。

 魂が重なる。

 

 あ、わかる。

 ブローチのサファイアとも繋がった。


 なーんだ。

 魔力を扱うのって拍子抜けするほど簡単だ。

 精神と繋げて重ねて奏でるんだ。


 そこから先はリズムを作り、歌うように。

 頭の中でリズムゲームのノーツを叩く感覚だ。

 でもローラ先生の課題なだけあって全然難しくない。


 もう悪い思い出は消え去って、あるのは弾けるような楽しさだけ。

 いくらでも出来てしまいそう。


 サファイアのブローチからシャボン玉のような水風船が舞い上がる。

 傾きかけた夕陽を浴びて、とても綺麗だ。


 ふと現実世界に目を戻すと、フェルトが目を丸くして驚いていた。


「こ、こんなに早く魔道具と同調するなんて!

 リリアって凄いんだねっ!!」

「そ、そうかな?」

「うん! 絶対に才能あるよ!」


 フェルトが無邪気に喜ぶのだから、私も嬉しくなってしまう。


「ねぇねぇ、どうやったの? 教えて!」

「いいですよ。言葉でうまく説明できないかもですけど」

「うん! ありがとう!」


 素直で良い子だなぁ……。 

 フェルトは私に臆しないどころか、距離を詰めてきてくれる。


 その後、サファイアのブローチを中心に私たちは手を取り合って勉強をした。

 まだ初日でこれからではあるけれど。

 しっかり彼と仲良くなれたと思う。


 で、検査の時間がやって来てその場は解散することになった。

 

 最後にフェルトが侍女を呼んで、私にプレゼントをくれる。

 紙袋に入ったクッキーだ。

 チョコとバターのとっても濃厚な香りによだれが出そうになった。


「ありがとう!」

「どうぞ。美味しいと思うよ」


 ちょうどお腹が減ってきたので、食べたい。

 目の前で食べて感想をフェルトに言ってあげたい。


 が……最後の理性で私は踏み止まった。

 今は駄目だ。


 ちらっと私のほうの侍女を見ると、彼女も悲しそうに首を振っている。

 ああ、やっぱり。


「ごめんね……。今すぐ食べたいけれど検査があって」

「あっ、そうだよね。じゃあ、次に会った時に感想を聞かせてよ」

「うん! 約束する!」


 そう、私にはぐるぐる回る台が待っていた。

 張りつけにされて内臓検査のためにぐるぐる回されるのだ。


 クッキーを食べるなど、もってのほか。

 悲しい。これがなければ、絶対に今クッキーを食べたのに。


 私はフェルトと再会の約束を交わし、中庭を後にした。


 途中で振り返ると、フェルトが小さくずっと手を振ってくれている。

 私もずっと手を振り返し、温かい気持ちでその場を去った。

【お願い】

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