1.私はざまぁされる悪役令嬢
「怪物、お前はここでおとなしくしていなさい。
絶対に外に出ては駄目よ。わかったかしら!?」
「……は」
いと言い終わる前に部屋の扉がばたんと勢い良く閉じる。
私は虚しく扉を見つめた。
ガチャリ。
ご丁寧に鍵までかけて。
私を怪物と呼んで扉を閉めたのは私の母。
といっても、血が繋がっているわけではない。
死んだ母上の後釜に来た後妻のハーマだ。
そこでふと、私は自分の異常さに気付く。
頭が妙に冴えているのだ。それに部屋の家具が大きい。
まるで自分の背が縮んだみたいな。
白くて小さな自分の手。
鏡に映っているのは黒髪の天使のような少女。
お人形さんのようで、現実味がないほどの可愛らしさだ。
(あれ、私は普通のOLだったはず――。なのに、この姿は?)
これは異世界転生だ。
色々な記憶が頭の中に流れ込んでくる。思い出した。
転生したこの世界は、某有名小説の世界そっくりだ。いわゆるざまぁと悪役令嬢モノのはず。
今の私の名前はリリア・フェレント。
王家にも繋がる古い家系のフェレント公爵家の長女だ。
年齢は八歳になる。
そしていずれ、処刑台で殺される運命の悪役令嬢だ。
生まれてすぐ母を亡くした私は、父とその後妻に育てられた。
最初の頃はそこまでおかしいことはなかった。
私が五歳の時、後妻のハーマがやってきて異母妹が生まれるまでの話だったけれど。
異母妹が生まれてから、私の人生は坂道を転がり落ちた。
原因は私の魔力だ。
この国では魔力の強さが重要視される。
私は公爵家の歴史上でも稀に見るほどの素質があった。
このまま成人すれば公爵家の当主は私で決まりだったろう。
それが良くなかった。
継母は自分の産んだ子が可愛く、私が脅威に映ったのだ。
私が成人したら、自分たちが追い出されると思ったのだろう。
で、継母は私を虐待し始めた。
それも殴ったりとか分かりやすいものではない。
いわゆる放置作戦である。
家庭教師を外し、家でのけ者にされた。
私を洗脳して、なにも出来なくさせようとした。
子どもの私は逆らうことができなかった。
せっかく容姿端麗で温厚な完璧王子と婚約もしたのに、ぶち壊しになってしまったのだ。それも全部、継母の命令だった。
お前に王子はもったいない。妹に譲れ。
馬鹿みたいな命令だけど、心を折られて無気力な私は従うしかなかった。
継母のハーマが他国と繋がり内乱を企んでいても。
私は黙って見ているしかなかった。
まぁ、そのアホな大計画は途中でバレたんですけれど。
しかし結局、私は内乱の罪を全部背負わされて処刑されたのだ。
とほほ。
抑圧され、使い捨てに終わる。
それがリリアという公爵令嬢の人生だった。
外から見ればテンプレの悪役令嬢もいいところ。
ざまぁされる見本じゃないか。
王子との婚約を破談にし、内乱を計画した挙句にバレて処刑だなんて。
実は悪いのは全部、毒親の父と継母なんですけどねっ!
あー、やだやだ。
そんな処刑される未来なんて願い下げだ。
どうして私がそんな不幸な人生を歩まなくちゃいけないの。
生まれ変わったからには、絶対に生き残ってやる。
逆転のチャンスはまだあるはずだ。
それに今日は……そう、とても大切な日。
さっき、私がなぜハーマによって部屋に閉じ込められたのか。
それは今、お屋敷の中庭に王妃のヒルベルト様が来られているからだ。なので万が一にも私が顔を出さないよう、ハーマが閉じ込めやがった。
今、そこではとても大切な話し合いが行われているはず。
議題は私の処遇。
公爵家長女で魔力の強い私をどうするか。
後で明らかになるのだが、この時点で王妃様は私を養子にすることも考えていたらしい。というのは、今の王家に魔力の強い者がいないからだ。
王家の威厳を保つのに魔力の強い者が必要。
だから私を養子か婚約者に――というのが王妃様の考え。
王家に近い公爵家の血筋である私は色々な意味で好都合だったのだ。
まぁ、ハーマは私を王子の婚約者にしたのを後悔したようだけど。
しかしこの時点では異母妹のマリサはわずか三歳。八歳の私しか選択肢になかった。
……部屋の窓からは中庭がよく見える。
円卓を囲んでいる王妃様の姿が。
ぶっちゃけると怖い。
アイシャドウが濃くて、眼光鋭い御方だからだ。
(……ビビっちゃ駄目よ)
小説の中ではラスボスだと言われる彼女だけれど、この家よりはマシだ。どうせこの家にいたって、悪役令嬢になって死ぬのだから。
それなら王妃様に懸けよう。この境遇からエスケープしてやるのだ。
それでざまぁフラグをへし折ってやる。
問題はどうやって部屋を出るか。
……今の私は子どもだけれど、知恵がある。
私は椅子を持って、窓ガラスに近づいた。
ふぅ……。
何でもありなら、部屋から出る方法なんていくらでもあるんだよ。
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