10 使い魔としての契約
「伯爵家に引き取ってもらうことになったのはほとんど偶然なんだ。
亡き父は――伯爵は、僕が育った孤児院に多大な寄付をしてくれている方だった。
ある日、伯爵夫妻が視察に来てね。
当時、伯爵夫妻は6歳になったばかりの一人息子を亡くしたばかりだったらしい。ちょうど僕のような黒髪をしていたそうだ」
遠い日を懐かしむように、ルーファスが目を伏せる。
「わが子を亡くした伯爵夫人は心を病んでいた。
亡くした子どもと同い年の僕を見るなり『私の子が生きていた』と涙をこぼして抱きしめてきたんだ。きっと伯爵は夫人を哀れに思ったのだろう。
数日後に伯爵は僕を引き取ると申し出て、自分たちの子どもとして育てると宣言したんだ。もちろん、血統を重んじる貴族社会において許されることじゃない。他に子どもがいないならなおさらのことだ。
だからこそ、表向きは伯爵家の親戚の子どもを養子に取ったことになっている。
正直に言ってこのあたりの手続きがどうなっているか僕は正確には把握してない。
表向き僕の本当の親とされている親戚の貴族はすでに老齢で亡くなっているし、母は……伯爵夫人は、元々病弱な人だったから、僕を引き取った数年後に亡くなっている。
それでも僕は、伯爵が亡くなってから正統な後継者として周囲にも受け入れられている。
きっと、僕の本当の出自を知る者はもういないということだろうね」
都合の良い話のような気もするが、今のところ嘘を言っているようにも見えない。
伯爵夫妻のことを自然と父と母と呼んでいることからして、養子でありながら実子と近しい親子の絆があることも伺えた。
……とはいえ、まだすべてを信じたわけでもない。
「つまりあなたは、魔物としての企みがあって貴族社会に入り込んだというわけではないと、そう言いたいのね?」
「ああ、そういうことだ。ただ僕は、恐ろしく運がよかったんだ。引き取られてからは貴族と変わらない教育を受けた。とはいえ、生まれや育ちが完全に隠せているとも思えないけどね」
確かに、初めて会った時からルーファスはどこか貴族らしくない人だとは思っていた。
所作は完璧なのに、考え方や言葉の端に違和感がある。
それが生まれに関係しているのなら、納得できる話ではあった。
「あなたの本当の両親は?」
「わからない。僕は物心ついた時から孤児院にいた。ただ、どちらかが人狼の血を引いているらしいということは確かだよ」
「……あなたはいつ自分が人間ではないことに気付いたの?」
物心ついた頃から人間の中で育ったのなら、どこかの成長過程で自分の異質さに気づく機会があったのだろう。
私が尋ねると、ルーファスは気乗りしない様子で話し始めた。
「……初めて自分が人間ではないと気付いたのは、4歳ごろだった。満月の晩に妙に胸騒ぎがして、気づけば、その……耳と尻尾が」
「耳と尻尾?」
さっきはルーファスの魔物としての特性が全面に出ていたように思うが、耳や尻尾はなかった。
純粋に疑問に思って聞くと、ルーファスの頬がかすかに赤く染まり、恥じるように目を伏せた。
「今はそんなへまはしない。あの時は未熟だったから、姿の変化を制御しきれなかったんだ」
どうやら彼にとっては恥ずかしい過去のようだ。
その感覚はいまいちよくわからない。
「それからどうしたの? 孤児院の人たちはあなたの体に起こったことを知っていたのかしら」
「一人だけ、僕の変化に気づいて、治まるまでの隠れ場所をくれた人がいた。孤児院の側にある教会の神父だ。その神父も、私ほどではないが遠い祖先に人狼がいるらしい。僕は神父から、魔物として気が高ぶった時の抑え方と、たとえ魔物の血を引いていても心は善き人間であるよう、誇りを持つことを教わったんだ」
私は驚きに目を見開いた。
1つの場所に、魔物の血を引く者が2人いたなんて。
もしかして、これは私が思うほど特殊な例ではないということなのだろうか。
「あなたのような人が、何人も人間社会に溶け込んでいるということ?」
「いや、僕は自分とその神父しか知らない。他にもいるのかもしれないが、聞いたことはないよ。仮に人間社会にいたのだとしたら、互いに正体を隠すだろうし、完全な魔物じゃなければ、普段からその力が現われることもない。ある程度は意識的に抑えることもできる」
「それじゃあ、抑えられなくなるような状況にならないとわからないということね。感情が高ぶったり、何らかの理由で魔力が増幅した時がそれにあたるのかしら。あなたの場合、月の光を浴びることが条件のひとつなの?」
母の手帳に書いてあった、人狼の特性について思い出しながら言う。
「ああ。ただ僕の場合、どちらかというと新月の晩は人狼としての性質が消えると言った方が正しいかもしれない。自分の力が制御できなくなることはほとんどない。その代わり、満月を浴びて、力を最大限に出そうとしても、狼にはなりきれない中途半端な姿だ」
人間の血の方が濃いということだろうか。
となると、本物の人狼はさっき路地裏で見たルーファス以上に強いということだ。想像するだけで寒気がした。
けれどひとつ安心したことがある。
こうして敵意がない状態では、ルーファスは普通の人間と変わらない。今まで私と接していた時の性格もすべてが偽りというわけではなさそうだ。私は少しだけ警戒を解いた。
「幼い頃のことについてはわかったわ。それじゃあ、今夜どうしてあの場所にいたの? 私はてっきり、あなたがグレイスと待ち合わせをしているものだと思っていたんだけど」
ルーファスはきょとんとして、わずかに首を傾げた。
「いや、あのお針子と個人的な付き合いはないよ。君を迎えに行った時にオーダーしていた品を渡してもらったから、もうあの店に行くこともないだろうし」
「オーダー……?」
「そうだ。出来上がるまで数回打ち合わせがあった。だからグレイスとも何度か会っていたというわけだ」
どうやら私は早とちりをしていたようだ。
個人的な親交はなく、ただ顧客としてなにかを注文していたらしい。
レディバード・ベルベッドは主に婦人服を販売しているはずだ。
となればやはり誰かへのプレゼントなのではないかと思うが、今はそれほど重要なことではないだろう。
「……それじゃあ、さっきはどうしてあの場にいたの?」
「単に君の後を追ったからだよ。窓の外を眺めていたら、偶然屋敷から出て行くところが見えたからね。君のことだから、また何か禍々しいものと一人で戦おうとしているんじゃないかと心配だったんだ」
「私の身を案じてということ?」
「うん。もちろんそれが一番の理由だ」
ルーファスはなんのてらいもなく頷いた。
「それに、立場上無視することもできないよ。以前、内務省に務めていると話したことがあるだろう? あの時は、未解決事件の捜査を見直すための監察官だと言ったけど…… 正しくは、解決が困難だと判断された怪奇事件が僕の専門になる。怪奇事件には魔物が関係している可能性が高いからね。そして、君が目を付けたのならさらにその可能性は高まる」
初めて聞いたその仕事に思わず息を呑む。
「そんな役職があったなんて…… それじゃあ、魔物や目に見えないものたちの存在は警察に周知されているということ?」
「いや。父を通じて内務大臣にお会いした時に、僕がその必要性を訴えて新しく作ってもらったポストだ。僕の正体を伝えることもしていない。あくまでも僕以外には誰もいない仮の役職だし、周囲からはオカルトに傾倒した貴族の息子のお遊びだと思われているよ」
もっとも、オカルトに傾倒する貴族というのは珍しいものではない。
社交クラブで交霊会が催されることもあるし、巷ではオカルトじみたゴシップ記事も人気だ。
ルーファスも怪奇愛好者の一人ということになっているのだろう。
話しぶりから察するに、貴族の道楽として設けられた仮の役職として見られているということだろうか。
案の定、ルーファスは私の予想をなぞるように言葉を続けた。
「内務大臣も半ば面白がっているようなもので、ロンドンで起きている不可解な事件が魔物によって起きている可能性があることについては信じてくれていない。解決が困難な事件があるということ自体は認めているけどね。今の段階じゃ、僕の正体を明かして信じてもらうというわけにもいかない。恐怖をあおるだけで、人間と共存したい善良な魔物がいるということを信じてもらえる段階じゃないから」
「つまり……あなたは、自分も魔物の血を引いていながら、魔物が起こした事件を取り締まろうとしているね」
「魔物とひとくくりにされるのは複雑だね。僕はあくまでも人間として生きていたい。それに、他にも僕のような思いで社会に溶け込んでいる魔物もきっといるだろう。となれば、人間に害をなす魔物との対立は避けられないよ。偶然とはいえ、貴族の地位を手に入れたのはチャンスだった。この立場があれば、僕たち魔物の血を引いた人間や、人間と共存したい善良な魔物が、穏便に社会で生きていけるようになるための礎を作ることができるかもしれない」
「……あなたの言っていることが、本当だとして」
私はそう前置きして言葉を続ける。
「そんな社会、本当に実現できると思う? 善良な魔物がいたとして、人間にはその区別がつかないわ。それに、近年は急激に不審な事件が増えてる」
それはまるで、科学の力で灯された明かりに対抗するように。
「その裏に魔物がいたとして、人間との共存を望む同族を許すかしら」
「……確かに、ここ数年のロンドンではあまりにも奇怪な事件が多い。魔物は人間が多くいる場所に引き寄せられる性質がある。もしかすると、蒸気機関車の発明によって魔物たちも都市に移動してきているのかもしれない。いずれにせよ、このままにしておくのは危険だ」
だとしたら厄介なことだ。
人の移動手段が発達すればするほど、ロンドンは魔物に侵食されていくことになる。
「だからこそ、今のうちに手を打つことが必要なんだ。だが、たいていの魔物に関しては、僕はその姿が見えるだけだ。魔物が実体化していればさっきのように倒すこともできるが、それ以外は役に立たないよ。君のように、魔力を武器として使うすべを知らないから。あるいは、知っていたところで人狼にその能力はないかもしれないけどね」
あくまでも物理攻撃に特化しているということだろうか。
目に見えないものを視ることも、魔女の血を引く私の方が得意なのかもしれない。
「……なるほど。あなたが何を私に求めているのか、見えてきたわ」
ルーファスの話は私には想像もしていなかったことばかりで、言われたことをそのまま信じてもいいのか、まだ迷いがある。
ルーファスは椅子を立ってベッドのすぐ側まで歩み寄ると、私の足下に跪いた。
「君に協力を仰ぎたい。僕はいずれ人と良い魔物が共生できるような社会を作りたい。そのためには人間を害する魔物を取り締まる必要がある。特殊な能力を持つ君に、どうか手伝ってもらえないだろうか」
「私に求婚してきたのはそのため?」
ルーファスは一瞬言葉に詰まってから、頷いた。
「まあ……確かにそれもある。今夜のことがなくてもいずれ話したいと思ってた。もちろん、それだけというわけじゃないが……」
何やらもごもごと続けているルーファスを無視して、今までの彼の態度を思い返す。
一定の距離を保ちつつも、優しく、私を心から思いやるような態度を見せてきた。
あれはいずれ共闘を申し出るため――いわば、同業者に対する敬意だったのだろう。
恋愛感情などではない。
「そう。正直に答えてくれたことには礼を言うわ。これで互いの秘密もおおむね話したことだし、やっと対等な立場になれるわね」
偉そうな私の言葉に、ルーファスは呆れたような、それでいて感心したような視線を私に向ける。
「君は……本当に、強い人だな」
「気が強い女が嫌いなら近づかないことをおすすめするわ」
実際のところ、攻撃的な口調になってしまうのは目の前の相手が怖いからだ。
けれどそれを悟られるのは悔しいので、あえて冷静なふりをする。
「お返しに私も正直に言うと、良い魔物というのが存在するのかどうか、私にはわからない。だから、魔物が人間と共生できるかどうかについては懐疑的だわ。あなたを信用していいのかもわからない。魔物は人間を騙すのが巧みだもの。あなたの魅力的なところも、もしかすると罠なのかもしれない」
「……! 僕のことを魅力的だと思ってくれているのか?」
ルーファスが驚いたように言う。
そこに食いつかれると思っていなかった私は眉根を寄せた。
「鏡を見たことはないの?」
「いや、もちろんあるが、特に自分の容姿に何かを感じたことは――だが、そうか、君にそう思ってもらえているのなら何よりだ」
なぜか動揺したように目を泳がせ、ルーファスは気を取り直すように小さく咳払いをした。
「ともかく、君に迷いがあることはわかった。さっきの魔物……レッドキャップと君は呼んでいたな。確かに伝承にあるレッドキャップと同じ特徴だ。でも、何かおかしかったと思わないか?」
「しつこかったわ。本当なら、魔力を込めた銃弾を2つも撃てば倒せるはずなのに」
レッドキャップの異様な様子を思い出しながら言う。
「僕には周囲から魔力を吸収しているように見えた。正確には、魔力の残り香のようなものか」
「あの近くに、レッドキャップに力を与えられるような強力な魔物がいたということ?」
「その可能性はある。僕が駆けつける前に、他に何かいたか?」
「人間の男性と、レディバード・ベルベットのお針子グレイスの二人だけよ。でも確かに、グレイスにも男性にも魔力の痕跡があった。特にあの男性は、まるで魔物そのものみたいで――」
どこまで話してから、ふと気づく。
「そのもの、なのかしら。もしかして」
「その可能性もあるかもしれない。外見だけなら人間にしか見えない魔物もいる。僕が実例だ。それに……もしかしたら、その男について心当たりがあるかもしれない」
「……そう。それじゃあグレイスに詳しく話を聞く必要があるわね」
するとルーファスが少し焦ったような顔をした。
「ちょっ……待ってくれ、今君の目の前にいる男が情報を持っていると言っているんだが」
「あなたには借りを作らない方がいい気がするの。協力を断ったからと言って私を襲う気はないでしょう?」
「もちろんだ。だが、だったらせめて、この件に関わるのをもう少し待ってくれないか? 可能な限り僕が処理しよう」
「どうして? 協力関係を結びたいのでしょう? 本当に手を組むかどうかはまた別として……私も私がしたいようにグレイスの周囲を探るつもりよ」
「もちろん君に協力してもらえたらそれ以上に嬉しいことはないよ。でも、できる限り君の安全は確保したい。情報を集めきって、君の力が必要になったら改めて声をかけよう。それまで待っていてくれ」
ずいぶんと悠長な計画を立てているようで、私は思わず眉を顰める。
「そう言われても、こちらにも事情があるの。グレイスのあの状態を見る限り、早めに手を打った方がいいでしょうし……魔物を狩らないと魔女の血がおさまらない」
「魔女? 君が……?」
ルーファスが目を見開く。
私は今更ながら自分の立場を話していなかったことに気づいた。
「そうよ。私の能力は、人間の霊感でも、信仰から来る聖なる力でもない。そういう意味では、あなたたち魔物の血を引く人間と同じようなものかもね」
違うのは、人間を守る立場か、害する立場かというだけで。
そう思っていたけれど、ルーファスの言い分が本当だとしたら、魔物にも色々あるようだ。
「それじゃあ、君は魔物を退治する以外にも――そうか、それなら互いにとって喜ぶべきことなのかもしれない」
ルーファスは思案顔でぶつぶつと呟いている。
「もしかして、魔女について何か知っているの?」
「そういう君は自分のことをあまり知らないみたいだ」
「……私自身が魔女というわけじゃないの。母から魔女の血と魂を受け継いだだけ。いえ、魔女の呪いと言った方が正しいかもしれないわ」
それに、私が魔物のことを知ったのは母が亡くなってからだ。
つまり、他の誰からも魔物のことを教えてもらったことがない。
母が遺した手帳と、一緒にそれを読んで助言をくれるエミリーだけが私の情報源だった。
最低限のことは知っているが、逆を言えば、最低限のことしか知らないのかもしれない。
「――ともかく、私は魔物を倒さないといけないの」
「それならなおさら僕が力になれるかもしれない」
ルーファスは私の手に手を重ね、身を乗り出した。
思わずびくりとしたけれど、なだめるようにそっと力を込められる。
「僕と手を組むのに乗り気じゃないと言うのなら、お試し期間を設けよう。君はこれからグレイスと会っていた男のことを調べるつもりだろう?」
「ええ」
「それなら一緒に探ろう。僕は情報を持っている。立場を利用して貴族の社交の場や警察から情報を吸い上げることもできるだろう。女性が立ち入ることはできない場所もあるから、僕を情報収集に使うといい。それから、世話になった神父から聞いた魔物や魔女についての知識もある。おそらく、君が持っているものとは違う知識だ」
確かに、私が一人で集められる情報は限られている。
「それにもし魔物が実体化して君の手に負えなくなれば、代わりに戦うことだってできる。君も強いとはいえ、単純に力勝負になれば女性の細腕では苦戦するだろう? そんな時は僕を頼ってほしい」
こちらを見つめるその表情には嘘がないように見える。
けれどそのまま信じる気にはなれなかった。今まで私にとって魔物は敵だった。
ほぼ人間と同じだと言われたところで、警戒心がすぐに薄れるわけじゃない。
「対価は? 魔物は人間に対価を求めるものよ」
ここを曖昧にすれば、後々想定していなかった事態を招く可能性がある。
魔女が魔物に騙されて契約を交わし、自分が守っていた町を失ったように。
「僕は人間として君と交渉している。対価はいらない。むしろ協力してもらえるのならば僕が対価を払いたいくらいだ。だが――もしかすると、契約が必要になる時もあるかもしれない」
「……どういうことかしら」
私は慎重に問いかける。
「さっき言った、『君が魔女ならなおさら僕が力になれるかもしれない』というくだりだ。魔女は魔物と契約して、魔物の力を増幅させることができる。僕の魔物としての性質に働きかけることもできるだろうね」
「おとぎ話の魔女のように? でも、起こったのは悲劇だったわ。魔女は魔物に裏切られて、魔力を与えてしまった」
「おとぎ話……?」
不思議そうに聞くルーファスに、私は母が教えてくれた物語を伝える。
ルーファスはすべて聞き終えた後、しばらく何かを考えるようなそぶりをしていた。
「おそらくそのおとぎ話の魔女は、自分の魔力を一方的に魔物に捧げるという契約をしたんだろう。おそらくそれほどのリスクを冒さないと町を救うことができなかったんだろう。魔女はそういうこともできると神父から聞いたことがある。でも、これは却下だ。君にとってリスクが大きすぎる」
「……そうね」
「だが、契約内容次第では、君にとって大きなメリットがある」
「例えば?」
「…『使い魔』というものを知っているか? 魔女が魔物を自分の支配下に置くための契約だ。魔女の意に反することはできず、もちろん君に危害を加えることもできない。その代わりに魔物は魔女の助けを借りで自分の力を増幅することができる。だから対価として要求することがあるのなら――」
ルーファスは、床に膝をついたまま、ベッドに腰掛ける私をまっすぐに見つめた。
この男は何を言うつもりなのだろう。まさか。嫌な予感がする。
「君の身に危険が迫り、どうしようもなくなったら、その時は僕を使い魔にしてくれ」




