とある絵描きの物語
キャンパスの上に描かれたものをみて、彼はひとつため息をついた。
―――才能が無いのだ、おれには。
何をやっても上手くいかなかった。
何をやっても虚しかった。
地平線に沈む太陽を見つめ、そっと息を吐いた。
―――もう、辞めよう。
くだらない夢から逃げるように彼は身ひとつ、街を飛び出した。
長い年月歩き続け、何かを振り払うように、幾つもの街を通りすぎた。
絶望を抱え、現実から逃げるように歩き続けた。
疲れはて、痛めた足を引きずりながらもなお歩き続けた。
歳月は記憶をあいまいにしていく。
―――おれは何をしたいんだったっけ?
―――おれはどこに行きたかったんだろう。
自分が何をしているのかわからぬままに、さらに時は流れて。
それでも彼は歩いて・・・・・・
歩いて・・・・・・
とある街の幼い少年。
行き倒れの老人をみつけて、話しかけた。
「おじいちゃんはどこから来たの?」
「遠い、遠い、場所からだよ」
「ずっと歩いて?」
「そうだよ」
「じゃあ、おじいちゃんは絵描きさんだね」
その言葉に心が騒めいた。
「なぜ?」
老人は小さくつぶやく。
幼い少年は、地面を指差していった。
「だって足を引きずりながら、この星じゅうに絵を描いてるんだもの」
みると確かに、足を引きずり歩いた後が残されていた。
長く・・・・・・
とても長く・・・・・・
だけど確かに歩いた、歩き続けた道には線が刻まれていた。
はるか遠くの記憶がよみがえる。
絶望を抱えた日。希望を失っていく毎日。
それでも俺は生きていた。
確かに生きて、もがき、歩き続けていた。
知らず知らずのうちに老人の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
はるか昔。
残された絵描きのキャンパスには、地面に座る汚れた老人と、どこかを指差す子どもが、楽しそうに描かれていた。
End
誰かの心に届けばいいなぁ。と思いながら書いています。
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他にも色々短編書いてますので、よろしかったら読んでみて下さい。