32章-2
「あともう少し」
那奈は霊の社の本部に向かって、暗い山道を歩いていた。その間にも、銃声はいたるところで鳴り響き、銃弾がいつ那奈を貫くかわからない状態だった。
「三島君……」
その時、前方で木の茂みから数人の少集団が出てくるのが見えた。彼らは那奈を見つけると
「ヘイ!」
と声をかけた。危険を感知した那奈は、後ろを振り返って全速力で走った。それを見た少集団は彼女を捕まえようと走ってきた。彼らは大国の言葉で
「お嬢ちゃん、いいことしようぜ!」
「ヘヘヘッ、待ってくれよ!」
と言いながら下種な笑い声を立てて追いかけてきた。
(捕まる!)
そう観念しそうなときだった。那奈の前方から、パンッ! と音がした。そして後ろの方から、バタリと倒れる音がした。そして大国の言葉でザワザワ声が聞こえ、そのまま小集団が逃げていく足音が聞こえた。
(助かった)
そう思って音の方を見ると、道の草むらの影に少女が銃を構えているのが見えた。
「桜庭さん……」
「貴女、三島君の所に行くんでしょ。ここからは私たちが守る。だからあんたは全速力で三島君に会いにいきなさい」
那奈は目を丸くして驚いた。桜庭は、キッと彼女を睨みつけこう言った。
「三島君を救えるのはあんただけなんだから。救えなかったら承知しないわよ!」
那奈は、小さく桜庭にこう言った。
「ありがとう」
彼女は全速力で走って霊の社の本部に向かった。この周辺は桜庭のような、熱心な信者たちが草むらの中で銃を構えて、特殊部隊とも国際部隊とも戦っているのだろう。いくつもの銃声が鳴り響いていた。そして皆、那奈のほうに銃弾がいかないように、細心の注意をはらって戦っているようにも見えた。
(信者のみなさん、ありがとう)
那奈は心で何度もお礼をいいながら、霊の社の本部の中に入っていった。建物の中は誰もいなかった。広い会館のなかで、どこに萩彦がいるかは信者に案内されないとわからないだろう。でも彼女は萩彦のいる所は分かっていた。
「ここよ!」
彼女は部屋の扉を思いっきり開けた。
「三島君!」
その時、遠くで地鳴りが響いた気がした。