二人きりのテラス
シンデレラと王子が二人きりになります。
やっぱり、身分違いだったのかな。
一人で暗い顔を浮かべる私、シンデレラ。
テラスに設置されたテーブルと椅子。
椅子に座って、なんとなくテーブルに置いていた小さな鉢植えを眺めていると、それが薬草だと気付いた。
一度、栽培の練習にと自分で植えたものと同じ薬草だ。
また、明日から仕事をしながら学校に通うような人生が始まるのか。
そう考えていると、上空から魔女が箒に乗って降りてきた。
「どうしたの、シンデレラ」
「あ……、魔女さん」
「門のところで別れてからのこと、大体見てたよ」
「そうなんですね」
「まあ、魔女だからね。馬車は使わなさそうだから、消しといたよ。それから箒で飛んで外から聞き耳立てたり……」
私が反応しなかったからか、魔女の言葉が止まった。
「魔女さん、ごめんなさい。王子様と結婚できそうにありません」
椅子から立ち上がり、頭を下げた。
「シンデレラ」
「……はい」
「そうでもないかもよ?」
「……えっ?」
ガチャ……。
「誰かと話しているのかい?」
王子だ。
王子がテラスに入ってきた。
魔女の方を見るが、私がテラスとダンスルームを繋ぐドアを一瞬見た瞬間にどこかへ消えてしまったようだ。
「い、いえ、独り言です。この薬草、誰が植えたのかな、と」
「……分かるのかい? それが薬草だって」
王子は驚いた表情をしていた。
薬草の勉強をしたことがない人には薬草か花かの区別は難しい。
それができたからだとは思うが、それにしては驚き過ぎかなとも思えた。
「はい。学校で勉強しているので……」
「先ほど学生だと言っていたが、薬学だったとは……。その薬草、私が植えたんだ。ちゃんと勉強したわけではないから、君ほどではないと思うのだが……どうだろう? 育て方は間違っていないはずだ」
「……肥料が適切ではないですね」
「なっ……! 最高級のものを取り寄せたのだが……」
「他の薬草に使うとしたらとても良いのですが、これはちょっと」
私の指摘に、若干へこむ王子。
……あれ、今、私と王子、普通に話している?
「あの、そういえば、他の方達は……」
「全員帰ってもらったよ」
「えっ?」
「妻にしようと思った人がいなかったのでな。それよりも、君について知りたい」
「は、はい!」
私は飛び上がった。
「……と、その前に聞きたいことがあるんだ。今日のパーティの招待状は良家の若い娘あてに送られているはず。最初は送り先の不備か何かと思ったのだが、君の先ほどの反応から察するに、不備で届いたというより、他の人に届いた招待状を使って城に入ったと考えるのが自然だ。誰か……例えば、勤め先のお嬢様の代理で参加しているのかな?」
どちらも違う。
おそらく、不備は一切ない。
私の勤め先のお嬢様に招待状は届いたが、それは本人が持っている。
私は魔女の魔法で作った偽物の招待状を手に入れたのだ。
「あ、いや、咎めるつもりはない。そもそも、私は君のような人を探していたんだ」
「私みたいな人を……?」
「ああ、本当は就労者や学生で、真面目で評判の良い人を何人か見つけていたんだ。その中から実際に会って決めようとしていたのだが、私の父上が勝手に……。だから、君がここに来てくれたことは私によって嬉しいことなんだ」
「そう、なんですね」
「ああ、それで、君のことが知りたいんだ。どんな家族とどのように育ったのか、とか、なぜ薬学を学ぼうと考えたのか、とか……」
「家族はいないんです。捨て子だったみたいで、身寄りがなくて……。シスター達が母親代わりです」
「そ、そうだったのか」
「そのシスターの中で特に世話になった方が病気で亡くなってしまって……。それから、安くて上質な薬を開発したくて、薬学を学びたいと思ったんです」
「……私も似たような理由で学んでいるんだ。……母、今の王女ではなく、私の実母が病で亡くなっているんだ」
「同じですね」
「似ているところがあるね。私と君は」
それから、私と王子は楽しい時間を過ごした。
それも、長い時間。
夜、十二時まで。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
若干忘れかけていましたが、童話シンデレラの奇妙な点。
なぜ、足にフィットするはずのガラスの靴が脱げてしまったのか?
よろしければご覧いただきたいです。