パーティ開幕
ついにシンデレラと王子が初対面!
「王子様ー!」
「きゃーっ! 王子様よ!」
食事を終え、そういえばお嬢様が見当たらないなと気になり始めたところで、そんな声が上がった。
豪華な服に身を包み、町中で見かけたときのような凛とした表情を見せる王子だ。
他の女性達が王子を取り囲むように駆け寄っていく。
私はというと、少し離れたところから王子に見惚れていた。
後から入ってきた執事らしき高齢の男性に制止され、ある程度王子との距離を取らされる女性達。
執事の仕切りでパーティの流れが説明された。
どうやら、女性一人一人と王子が二人きりで、ダンスルームの隅に用意した椅子に座り、談笑する流れのようだ。
ダンスルームだがダンスは無いようで、ダンス経験のない私はほっとした。
「順番は……」
「私に駆け寄ってきた順でいいだろう」
執事が王子と話す女性達の順番を決めようとしたところで、王子が話に割って入りそう決めた。
王子に唯一駆け寄らなかった私の方を王子が見ていたような気がしたのは気のせいだろうか?
そんなことを考えていると、一番先に駆け寄った女性と王子がダンスルームの隅へと歩いて行った。
駆け寄ってこなかった私は必然的に最後だから、王子と話す内容を考える時間が一番取れる。
そう考えていたが、予想以上に早く順番が回ってきた。
かかった時間から察するに、一人三分もかけていない。
女性達は私を入れても十人にも満たないとはいえ、一人一人話すならこんなものなのか。
と考えながら、急いで王子の元へ向かった。
私の前の女性が離れたところで王子の様子を見てみると、なぜか王子は少し不機嫌そうな表情で指を折って数を数えていた。
何をしているのだろう、と少し見ていると、数えていた指が途中で止まり少し笑顔を浮かべながら王子は私の方を見た。
仮面を付けた顔の方ではなく、私が着ている水色と白のドレスの方をである。
「最初、少し離れたところから見ていたね」
「は、はい。すみません、少し見惚れていて……。以前、町で見かけたとき、真剣な表情で仕事をしているのを見てから、素敵な方だなと思っていて……」
「町……。視察の時のことかな。……ところで、料理は好きなのかい?」
「はい! こちらのお料理も大変美味しかったです」
「作ったりは?」
「毎日作ります!」
「毎日か。素晴らしい。家の手伝いかな?」
「いえ、メイドの仕事でご主人様達の分と、あと私の分を作っています」
「……えっ?」
この時、私は気付いていなかったのだが、王子は時間が止まったかのように固まっていた。
「……ち、ちなみに、普段は何を?」
「学校に通うながらメイドをしています」
「……学校? いや、他にも学校に通っているものはいたし問題ないのだが……。学生をしながら働いているのかい? まあ、働くのは自由なのだが、メイド、か……」
王子の歯切れの悪い受け答えに、私はこの瞬間初めて気が付いた。
そうだ、招待状は裕福な家庭のお嬢様たちに届けられたもの。
学生であることは珍しくないし、働くのも自由だが、いくらなんでも両立しているうえに職業がメイドというのは不自然だ。
(し、しまったー!)
動揺し、私は思わず久口元を手で覆った。
それを見て、王子は私の手が荒れている事に気づく。
普段のメイド仕事で自然とついたもので、美しくなる魔法を頼むときに気づかずそのままにしていたところだ。
「……手が荒れているね。仕事熱心なようだ。それを学生をしながら……」
少し考え込んだ様子を見せると、王子は私の後ろの方を指さした。
「君、すまないが、そこのテラスで待っていてくれないか」
「は、はい……」
終わった。
私はそう思っていた。
私、王子は驚愕していた。
家庭的な料理好きな人かと思っていた水色と白のドレスの女性。
まとまった時間を確保するため、わざわざ最後になるよう順番決めに口出しまでし、好みに合わない他の女性を短時間でさばきつつ一人終わるたびに後何人かと指折り数えていた。
その女性が、学生な上、メイドだった。
しかし、どうやってここにたどり着いたのだろう?
父上が送った招待状の一部に不備があったのだろうか。
いや、今となってはどうでもいい。
もう少し、もう少しだけ長く。
できれば他の人がいないところで二人きりで話がしたい。
他の女性達はお帰りいただこう。
そう決意し、私は一人テラスへ向かった。
あの水色と白のドレスの女性が待つテラスへと。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
若干忘れかけていましたが、童話シンデレラの奇妙な点。
なぜ、足にフィットするはずのガラスの靴が脱げてしまったのか?
よろしければご覧いただきたいです。