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王子は顔では選ばない

次に妙な点は「王子は外見で妻を決める人なのか?」です。

 私、この国の王子は怒っていた。

 それも、父親である国王にである。

「父上! 招待状の送り先を勝手に変えるとはどういうことですか!」

 私は父に詰め寄ったが本人は悪びれる様子もない。

「ふん。どこの馬の骨とも分からんような女を王女にするわけにはいかん!」

 言葉だけ聞けば国のことを思う王のように聞こえるが、実のところ違う。

 父は昔、夫を想い尽くし勉学や家事仕事に精を出した女性を妻としていた。

 私の母だ。

 しかし、母が病に倒れ息を引き取ると、外見ばかり良い女を後妻とした。

 私の義母となった女はただただ遊び惚け贅沢な暮らしをすることしか考えていなかった。

 招待状の送り先はどこも裕福な家庭のお嬢様。

 恐らくだが、国民からの税金で贅沢をするのにも限界がきて、裕福な家庭から金を得ようと算段しているのだろう。

 私はというと、義母のような女ではなく、母のような女性を妻としたかった。

 金や権力ではなく、私のことを心から想い、できれば勉学や家事、仕事に精を出してくれる女性だ。

「近々、国王に就くのは私です。自分の妻は自分で決めます。ろくに労力も払わず遊ぶことしか考えない女は嫌いです」

「……まあいい。招待した女の中からならどの女でも構わん。好きなのを選ぶがいい」

 そう言うと、父は背を向けて自室へと向かっていった。

 私は少々頭を悩ませた。

 このままでは、大勢の女性達が華やかさだの何だのと外見ばかり主張するパーティになってしまう。

 せめて人数を絞るか、女性達が内面を見せてくるように対策せねば……。

 ここで、ふとあることを思い出した。

「確か、先日父上が演劇の真似事がしたいと言い出して……。明日の門番は確か……」

 そんなことをぶつぶつと言い、私は閃いた。

「……父上。私に秘密で招待状の送り先を変えたんだ。ならば、今度は私がパーティのルールを変えてしまおう」

 私はそんなことをつぶやきながら、窓の外を眺めた。

 今夜の満月は、一際美しく見えた。


「お待たせ。シンデレラ」

 そう声をかけられたのは、ご主人様達三人をパーティに送り出した直後の、夕方頃のことだった。

 魔女はカボチャの形をした馬車の運転席にいて、二頭の馬の手綱を握っていた。

 どうやら、魔女が運転手を務めるようだ。

「ごめんなさい。ご主人様達の準備をしていたら遅くなってしまいました。今から着替えてお化粧もして……。ああ、間に合うかしら」

「大丈夫。こっちの準備は一瞬さ」

 私がおろおろしていると、魔女はそういって指をパチンと鳴らした。

 すると、頭の上に光る大きな輪のようなものが出現し、頭の先から足の先まで私の体を通した。

「手鏡をどうぞ」

 魔女が手鏡を差し出してくれたので受け取って見てみると、いつもとは違う自分が写っていた。

 目元が大きく見えるメイク。

 体の方を見ると、薄い水色と白のドレス。

 足元にはガラスで出来た靴もあった。

「素敵。私ではなくなったみたい!」

 喜ぶ私を見て魔女は微笑むと、馬車に乗るよう促した。

 私は城まで運んでくれる二頭の馬の頭をなでて、よろしくね、と声をかけると馬車へ乗り込んだ。


「いいかい、シンデレラ。魔法は今夜十二時までしか効力がない。まず、馬車は消える。私も空を飛んで姿を消す。」

「そうなんですね。しばらくいるなら、お馬さんをもう少しなでたり、餌やりしたりしたかったな……」

「申し訳ないけど、諦めてもらうしかないね。……招待状は効力を失い、城の者たちはシンデレラを不審な侵入者として取り押さえ、おそらく投獄となるだろう。必ず逃げるんだ」

 情報が後出し気味だなとは思ったが、だからといって止める気はないので流すことにした。

「メイクとドレスは、一分前から徐々に元の姿に戻る。……ただ一つだけ抜け目がある。解除魔法はシンデレラの体にかかっているんだ。つまり……」

「つまり?」

「一糸まとわぬ姿になれば……」

「しません!」

 そんなおしゃべりをしていると、馬車は城へとたどり着いた。

「着いたよ。あとはシンデレラにかかっている」

「はい。……あの、魔女さん」

「何だい?」

「これが終わったら、もうギャンブルは止めて下さい。お金がいくらあっても足りないですよ」

「私の金を増やすために動いているわけでもあるのに、不思議なことを言うね。返事は拒否。シンデレラだって同じようなものじゃないか。時間と金、労力を多大に費やして、なせるか分からない薬の開発に勤しんでいる。もしかしたら、全て無駄になるかもしれない。その反面、世界中の貧しい人々を救うかもしれない。元々あった何かを失ってでも、自ら望む何かを手に入れるために行動する。これが大事。そしてそれには、信じる心が必要だ。自分を、場合によっては他の誰かを信じる心。『賭け、信じることこそが人生』だ!」

 私はハッとした。

 いわれてみれば、今の日々もシスターからの仕事を断ってしているんだ。

 『忙しくても楽しい日々』を払い『夢』に賭けているんだ。

「……行ってきます!」

「いってらっしゃい。そうそう、シンデレラ!」

 馬車から降りたところで、私は振り返った。

「オッズ! 三百倍だってよ! シンデレラが王子と結婚できる方!」

「もうっ! 情報が後出し過ぎです!」

 一瞬怒った顔を見せ、すぐに笑顔に切り替えて魔女に手を振った。

 私の、オッズ三百倍の挑戦が始まろうとしていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

吉善なりのブラッシュアップは「内面で決める人」でした。


次の話は、ついにパーティ開始!

王子の考えた対策とは?

そして、シンデレラはどのようにして王子に注目されるのでしょうか?

よろしければご覧いただきたいです。

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