魔女との取引
次に妙な点は「魔女はなぜ、シンデレラを助けるために魔法を使ったのか?」です。
「魔女……!?」
「ええ。今、庭に生やした薬草は、お近づきの印にプレゼントしよう」
「ありがとうございます。これで、薬草の研究ができます」
「研究? 売って少しは贅沢するんじゃ……」
少し戸惑った表情をする魔女。
「……まあ、良いか。話がしたいのだけど、上がっていいかな?」
私の部屋である屋根裏部屋の魔女。
どうぞ、と私は扉を開けるが、窓から入ると言って、魔女は箒で飛んで行った。
屋根裏に急ぐと、魔女は靴を脱いだところだった。
おもてなしをしようと、私の数少ない嗜好品である紅茶をふるまったところで、私は魔女に話しかけた。
「魔法を使える方って、本当にいらっしゃるんですね」
「素直に信じてくれてありがたい」
「あの、魔女の世界でこの薬草を簡単に栽培する方法ってありませんか? 教えてくれたらこちらで栽培しますので、お返しとして売って得たお金の一部を……」
「あっはっは! 魔女であるこの私に取引を仕掛けるとは大したものだよ。……悪いけど、それは断らせてもらおう。人間の世界と魔女の世界では別のお金を使うんだ。一応こっちのお金は持ってるけど、使うことはほとんどないからね」
私ががっかりしていると、魔女は紅茶を飲み干してこう続けた。
「だけど、取引しようって考えは悪くない。こっちもそのつもりで会いに来たんだ」
「そのつもり、とは……?」
「シンデレラ、この国の王子を口説き落としてくれないかい?」
一瞬、いや、十五秒くらい頭が止まった感覚がした。
「……はい?」
「王子と結婚するんだ。そしたら、城中に様々な薬草を生やそう。好きなだけ取って、研究でも何でも好きにするといい」
「む、無理です。会うこともできないのに……」
「城でパーティがあるんだろ? そこで出会うんだ」
「機会はあっても、パーティに参加するための招待状がありません。それに私は美しくありません。ドレスも持ってないし!」
「……私に魔法をかけてもらう権利を三つ上げよう。それなら『招待状』と『外見』の問題は解決だ」
「で、でも、男の人との恋愛なんかしたことないです。い、色々準備ってものが……」
「いいかいシンデレラ!」
魔女のあまりの迫力に、私は黙り込んだ。
「準備に完璧などありえない。必ずどこかに不足がある状態で、何かを成すために行動しなければならない。シンデレラの考えでは、永久に行動を起こせない。『どうしてできないのか』より『今、あるものでどうすればできるのか』を考えるんだ」
それに、と魔女は一呼吸を置く。
「チャンスは、明日のパーティが最後かもしれない。王子が結婚してもいいのかい? シンデレラではない、他の女と!」
黙り込んでしまう私。
「……少し、考えさせてください」
色々な話が上がって頭が混乱してきた。
確かに、魔法が三つ使えるなら、王子様に近づけるかもしれない。薬草をもっと手に入れて、研究が進めば夢に近づけるかもしれない。
失敗したらを考えると、少し怖い、でも、でも……!
「……質問、いいですか?」
「何だい?」
「なぜ、私にこんな取引を持ち掛けたのですか? 魔法を三つ使って、私がもし王子様と結婚出来たら薬草をたくさん貰える。こんなことをして、魔女さんにどんなメリットがあるんですか?」
少し驚いた表情を見せた後、魔女はニヤリと笑みを浮かべた。
「へえ……。都合の良い所だけに目が行って気付かないと思ったんだけど、なかなか賢いようだね。いいだろう、教えてあげよう。シンデレラ、君はね……」
私はごくりと唾をのむ。
「ギャンブルの対象になったんだよ」
「……ギャンブル!?」
「そう。私たち魔女はね、少しだけ魔法を使う権利を得た人間が、課された挑戦を成し遂げることができるのか、大人数の魔女で賭けをやるのさ。人間だってやるだろう? どの馬が一番速く走れるかとかさ。今回は私が内容を決める番。『身寄りのないメイドが、三つの魔法だけで王子と結婚できるのか』が、今回のテーマだね」
「遊び、なんですか?」
「そうだね。見世物は嫌かい?」
「あまり好きではないです。……けど」
「けど?」
「やります。ずっと憧れていた王子様と結婚して、薬草研究の夢もかなえたいんです」
「決まりだね。……使う魔法は何が良い? 『どんな人でも本物だと思う招待状』と『美しくなるためのドレスとメイク』は必要として、最後はどうしようか?」
うつむいて少し考え込む私。
「当日はご主人様達のパーティ出席の準備を手伝うと思うので、それが終わってからでも間に合う移動手段が必要です」
「それなら、カボチャの馬車がお勧めだね」
「素敵。それでお願いします」
「うん、話もまとまった。明日、ご主人様とやらが出た後に馬車で迎えに来るよ。他の二つはその後で」
話す事が全て終わり、魔女は窓の外に足を出して窓のふちに腰かけた。
「そうそう、シンデレラ。一つ言い忘れていたよ」
「何ですか?」
「私は、シンデレラが王子と結婚するに賭けたよ」
「えっ?」
「では、明日の夜に。またね」
満月に向かって飛び、溶けるように消えていく魔女。
私の、恐らく人生で一番の挑戦が始まろうとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
吉善なりのブラッシュアップは「魔女達のギャンブルの対象だったから」でした。
次は王子様が登場!
ところで皆さん、王子様は外見だけで恋人を決める人なのでしょうか?
シンデレラという話は『美人が勝つ』という話なのでしょうか?
第3話でブラッシュアップしていきますので、よろしければご覧いただきたいです。