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赤眼と紅月  作者: 権田新八
2/2

赤眼と紅月2

この日記は、旅行記というには少し拙すぎる為、放浪記と称することにした。

ただ、これまでの二十余日は省略させてもらう。



放浪記26日目。

夜明け頃、俺が旅を始めてから3つ目の都市になるアウロラに到着した。自然の荒野が広がる中、外壁から覗く外門が見えた時には安堵の吐息を吐いたものだ。

ここは先の都市の住人によると暁の都市というらしい。というのも一日を通して開けない夜空と、それに美しく映える紅い月から名付けられたらしい。その紅月が照らすは、数々の街道に背を比べ合う煉瓦造りの住居である。なんと言っても目を引くのは都市を囲む赤い壁から突き出る牡牛の頭蓋の彫像だろう。その情景はまるでナトリウムランプに照らされる隧道のようで何故か俺は懐古の念を抱いた。


不変の月景色は吸血鬼の俺にとっては有難かったが、この都市の人々は生活のリズムが崩れるせいか、多くの人が微睡みの中にいる印象を受けた。

俺は都市を探索することが好きだ。

その都市の風土を知れる。人々の生活を知れる。文化と触れ合う事が出来る。その知的好奇心の赴くままに街を旅するのが好きなのだ。

入り口から続く街道には観光客や旅人をもてなす為だろうか、彼方まで露店が並び俺は少し圧倒された。道から外れ横道に入ると、小高い丘が見えた。ここは外敵に対する監視台としての役割も有るのだろうが、俺はこの都市を見回してみる為に登ってみた。縦横約5kmの都市が目下に広がり、その奥にはこの都市を守るかのように赤い石壁が見える。また、幾つかの通りに広がる店を注視すると、どうやらこの都市では、昼夜月が出ている為、働く人々の時間が疎らになっているようだ。起きている時に働き、眠たくなれば仕事を終える、といった感じだろうか。そのような風習は夜という活動時間が限られている俺とは考えを異にするが、そのような穏やかな雰囲気の街は襲いやすい。

そのような事を考えながら俺はこの都市の中心部を目指し始めた。


中心部は入り口付近の如く、だいぶん繁盛しているみたいだ。時計がもう12時を指そうとしている。そのためだろうか、人々に活気がある。その人々の仕事風景を横目にしながら俺は都市の外れまで歩いた。

外れに来ると一転、中心部とは少し異なった不穏な空気が流れた。煉瓦造りの建物は荒廃し、空き家が目立っている。その他、野生植物の植生が広がっている。先刻、中心部の街の人に聞いたところに寄ると、常夜の為に此処等一帯では誘拐や人攫い等の犯罪が横行しているらしい。

人は疎らに居るばかりで有り、その殆どが俺と同じようにその日暮らしの生活を余儀なくされているように見える。

俺はそそくさとその場を立ち去ろうとしたが、その瞬間、目の片隅に5歳くらいかと思われる子供が映った。

彼は何かを俺に語りかけたのかもしれなかったが、俺は立ち去っていった。俺の胸の中にあったのは後悔ともきまりの悪さでもない何か複雑な思いだった。


俺はこの外れに荷を置き、少し休憩を取った。

俺は吸血鬼と言っても、吸血や日光の苦手な事等を除いて、殆ど人間と変わりない。長旅には疲れるし、活動の為の休養も必要である。俺は正午を少し過ぎた事を確認してから、街路樹の下にて昼寝とも取れる睡眠を取った。


やけにやかましい声だった事を覚えている。

兎に角何か焦っている風だったから俺は恐る恐る目を開けた。そこには先刻俺が見捨て去ったあの少年が立っていた。

彼は俺が起きたのを確認すると一転、どもってしまい、どうした、と声を掛けても言葉を濁すばかりで何の応答も帰ってこなかった。

俺が困り果てていると、それを感じたのか、その少年は俺に向かってこう言った。


「あなたは、吸血鬼なんですか?」と。








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