それでも僕は。
僕と姉さんの人生を狂わせた荻羽生村。
姉さんの遺品から、洞島家と鯨井家のつながりを認める文書が出てきた。
誰が渡したのだろうか。
荻羽生村の関係者はほとんど死に絶えたはずなのに。
荻羽生村の火災の被害者一覧を見る。
ああ。1人だけ。姉さんの人生を狂わせた奴が1人だけいた。
『やらないとダメだ。』
萩島玲子。
萩島怜と羽生太一の母だ。
彼女がこの文書を渡したかはわからないけど、こいつが確実に僕の愛する姉さんを追い詰めた1人だ。
ピロン。
スマホが鳴る。
送信元は『萩島怜』
『荻羽生村にて待つ。』
♦︎♦︎♦︎♦︎
私は荻羽生村の跡地にいた。
警察により封鎖されていたが、この地に住み慣れたものなら知っている抜け道を通った。
旦那様がいた屋敷跡。旦那様と夜を共にしたベッドの焼け跡に腰かける。
『来たわね。』
『こんにちは、萩島のお母さん。』
『この村も寂しくなったわね。』
『故郷がこんな事になって、悲しいよ。』
『あら?鬱憤が晴れたんじゃないかしら?』
『まあ、なんともね。で、萩島のスマホを使って呼び出した理由は何?』
『もうわかってるでしょ?』
『・・・・。』
ナイフを取り出す。
『姉さんに書類を送ったのはおばさんかな?』
『姉さん?ああ、あなたの岬姉さんね。書類なんて知らないわ。なんでそんな事聞くの?』
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どうやら、僕と岬姉さんの繋がりを知っているようだが、姉さんの自殺のきっかけではなさそうだ。
だが、姉さんの仇に違いない。姉さんがこんな人生を送らなければ、姉さんはまだ・・・・。
しかしこの人を殺したとして僕に何が残るのだろうか。姉さんを失った今、何が僕を突き動かすのだろうか。僕もこの人も、ただ別の人生を歩むしかないのではないだろうか?
例え、今まさにナイフを握って僕の方に向かっていたとしても、殺意より虚しさが勝っているのは間違いないのだ。
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僕はあの時死にかけた。確かに死にかけた。
だけど未だに生にしがみついている。
だけど死にかけていたのは、萩島のお母さんの方だった。萩島怜が死んだ後、あの人は死んでいたのだ。耐えきれない悲しみに、打ちひしがれて。
だとしたら、僕はいったいあの時誰と対峙していたのか。
白い天井を見上げて、薬臭いベッドに横たわりながら思う。
なんで僕はまだ生きているのか。
それは僕にもよくわからない。




