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2人の母

煤だらけの体で東京に戻るのは難しかった。


荻羽生村から1時間ほどの場所にバンガローを取っていた。



衣類を洗濯にかけて、温めておいた湯船に浸かる。今日は疲れた。10年以上ぶりの涼子の父との邂逅。所詮、内縁の妻。全てを捨ててでも一緒になる気はなかった男。ただ10代であの村を出たのは正解だった。萩島怜も三井玲奈も羽生太一も尋常じゃなく、ねじ曲がって育った。田舎だと育ちはいいみたいなイメージは持っていたけど、そんなことはなくあの忌まわしい村によって毒された者たちだった。



私は何も法律に触れる事をせずに荻羽生村に復讐を果たすことができた。お父さんとお母さんを虐げた村。脳裏に蘇る。







『痛っ、やめてください!』


『うるさい!お前らなんか、こうだっ!』


父は柱に括られ、幼かった私は大人に取り押さえられた。母は村の男の慰みものにされていた。


『妊娠されたら困るからなっ!ほれ、ピル飲んでおけよっ!』



羽生村。わかりやすくいえば、人扱いされなくなった村人の行き先。そこでは、女は男に便器のように扱われ、男は劣悪な環境での労働、もしくは犯罪に加担させられて金稼ぎの道具にさせられた。いわば荻羽生村の利益の源泉。私の父は、休みなく働かされた。名ばかりの産廃業者の社長にさせられて、集めてきたゴミは全て山に埋める。違法行為に加担させられていた。違法行為がばれれば、とかげのしっぽぎりに合う。


母は朝から晩まで男の相手。たまに、村の外で売春婦をさせられていた。


そんな生活が続くはずもなく母は、性病にかかり私が10歳の時に他界した。病院にすらかかる事が出来なかった。父は、太蔵の父親に直訴した。



『私はどうなってもいい。せめて岬は、、まともな仕事をさせてほしい。』


普段は聞き入れることのない、当主も母親譲りの美貌を持つ私を高級娼婦にでもしたかったのか、使用人として召し抱えることにした。



間もなく当主が他界し、太蔵が当主になった。太蔵は優しかった。優しすぎた。私を本当に使用人として使い、1人の女として愛したのだろう。だが、私と太蔵が男女の仲になったのを、萩島玲子は気に入らなかった。あいつもただの村の看護師に過ぎないのにだ。


羽生村の出身だったのが気にくわなかったのかも知れない。



『さて・・・・。』


太蔵に渡された書類に目を通す。

優しいあの人が渡したものだ。











『え・・・・・??』



優しいあの人は本当に暗君だったのだろう。

何も知らない、ただのお山の大将。

今更こんな現実を突きつけるなんて、、、。




『う・・・・・。』


洗面所にかけ込む。ここ数週間、吐き気が酷い。覚えているこの感覚。

ああ。何という現実。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

あの人が死んだ。あの村が燃えた。私の全てが失われたら。三日三晩燃え続けたあの村はもう炭と化した。生きたまま焼かれた村民も多かっただろう。あの人の亡骸を探す。


荻羽生村に立てられた臨時の遺体収容テント。



『羽生太蔵』



そう書かれた名前の袋のジッパーを開く。

『た、太蔵さん・・・・。』


数少ない生き残りの証言によると、

屋敷から悲鳴が聞こえた後、炎は燃え広がったという。あの日屋敷で行われていた三井家殺しに失敗したのだろうか。

あたりを見渡す。




羽生太一

羽生太蔵


あとは、三井家のものもある。

あの屋敷で三井が暴れて火を放ったのだろうか。

今となってはわからない。しかしふと思う。

なぜ、三井玲奈は怜にあんなものを送った?そもそも羽生太一と怜はなぜ、子をもうけるような仲になったのだ?


やはり太一の近くに怜を置いたのが間違いだったのだろうか。






村の合同葬儀に出て、東京の怜の部屋に戻る。

遺品整理をしていると、怜の文字で書かれた日記のようなものが出てきた。日記ではない。これは手元にあった遺書とは別のものだが、死ぬまえに書いたものだろう。


パラパラと捲る。

たびたび出てくる2名の人間。



その2名の人間との邂逅により、怜が心惑わされていく心理が描写されている。








行馬から太一と三井のチャットのスクショや動画を見せられた。もうやるしかない。太一の子どもを身篭らないと私は勝てない。思えば彼は私が太一のことを好きだということを知っていた。彼は私にきっかけを与えていった。私は彼の罠に嵌められたのかしら。


思えば行馬は呼び水になるようなきっかけを私に与えていた。





『青春は一度きりだからな。よし、萩島も巻き込んでなんかやろう!』


『そうだっ!萩島、お前、太一のコーディネートしてやれよ!みろあの見た目を!!』




『萩島お疲れ様。あとはこれを、太一の机に入れるだけだ。下駄箱はだめだ。三井が毎朝、下駄箱はチェックしている。』





全部、ぜんぶ。行馬は私の感情を逆撫でして、泥沼に誘い込むような言葉を投げかけてきた。そして私ははっきり覚えている。



高校最後の日。私がクラスの男子に性暴力を受けるきっかけになった言葉を。それが呼び水になり、私は高校を去ることになった。あの声は行馬だ。



思えば、そのあと岬さんからティッシュをもらい大検を受けて、大学に入り、岬さんから太一と同じバイト先に入ったのも、、、、


いや、洞島涼子と同じ青髪の岬さん。もしかしたら、親子?だって行馬くんと洞島涼子が行動を共にしてたこともあったじゃない。だって、行馬くん、洞島涼子と見舞いに来たじゃない。だったら、岬さんと涼子は・・・え、まさか。


だとしたら、私はずっとこの3人に踊らされていたということ?それってただの道化じゃない、なんなの、私の人生。


もうやだ。


やり直したい。でももうやり直せない。太一の子どもは産めない。でももうおろしたくない。3年前誰の子どもかわからないまま、妊娠した。もうおろしたくない。だってやっと好きな人と・・・・でも許されない恋。それすらも、仕組まれた感情だったの?



このもう生きていけないという絶望感すら仕組まれたものだったの?








怜の書置きを閉じた。


鯨井行馬。

洞島岬。



あいつらを、私の手で!

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